その愛は、刃となりて
「嘘よ⋯⋯」
ポツリ、と言葉が聞こえた。
皆、何気にその声の主を見遣る。
声の主は、義姉だった。
「嘘よ、嘘。シンデレラが、王子様の花嫁なんて、⋯⋯っ!」
ガラスの靴から足を引き抜いたシンデレラは、タイツを履き直しながら、声を荒げ始めた義姉の様子を伺う。
てっきり、いつもの癇癪かと思っていた。
「王子の花嫁の夢は、諦めください。 もう決まった事なのです」
と、使者が義姉を窘めた。
「嫌よ⋯⋯っ、ダメよ!シンデレラが王子様の花嫁なんて、そんなのダメだわ⋯⋯っ!!」
使者の言葉に全く納得をしない義姉を宥めようと、シンデレラは義姉に近付いた。
「お義姉様⋯⋯」と声をかけたシンデレラの姿を認めた義姉が、シンデレラに抱きつく。
「なにを⋯⋯っ!」慌てる使者。
「行かないで!シンデレラ!貴方は私のものなのよ⋯⋯! 王子なんかにくれてやらない⋯⋯!!シンデレラはあたしのものなんだから⋯⋯っ!!」
瞳に涙いっぱい溜めた、義姉がシンデレラを見つめながら、声高に訴えた。
「どうして、王子なの⋯⋯?どうしてあたしじゃないの⋯⋯? あたしのほうが先だったじゃない⋯⋯っ! あなたを見つけたのは、あたしなのに⋯⋯っ!!」
「お義姉様⋯⋯」
シンデレラから、バッと離れた義姉が向かった先は、先程、塩ゆで肉を切って食していたナイフ。
義姉がそれを手に取ると、使者は、慌ててシンデレラを庇うために、前に躍り出た。
ナイフを持った義姉が、向かった先は、先程、ガラスの靴を履くために、シンデレラが座っていた場所。
そこに、ドカリッ、と座り込むと、ナイフで自分のかかとの肉を、削ぎ落とし始める。
皆、驚愕して一歩も動けなかった。
ただ、義姉の奇行を、劇の一幕のような感覚で、眺めていた。
かかとを削ぎ落とした義姉が、ガラスの靴に足を入れる。
流れる血の滑りを借りて、足は、すっぽりと、収まったのだった。
「――⋯⋯入ったわ。私が花嫁よ⋯⋯。シンデレラは、⋯⋯渡さないわ」
血が流れ、鮮血に染まったガラスの靴を履いた義姉は、うっとりと微笑んで、使者たちに、そう宣言するのだった。
異様な空気を切り裂いたのは、継母の絶叫だった。
「なんてことを⋯⋯っ!なんてことを⋯⋯っ!シンデレラ!!お前!!お前のせいで、あの子は⋯⋯!!」
血走った目をした、継母が、シンデレラに、掴みかかろうとする。
「よせ⋯⋯っ!!」使者は、シンデレラに掴みかかろうとする、継母を床に押さえつけた。
「ぐぅ⋯⋯っ!!」と、押さえつけられ呻く継母は、それでも、目で射殺さんとばかりに、シンデレラを睨みつける。
「許さない⋯⋯っ!許さない⋯⋯っ!シンデレラ⋯⋯ッ!お前のせいでぇ⋯⋯っ!!」
ギリギリと歯噛みし、シンデレラを睨みつける継母に、「未来の王子妃に対する不敬なるぞ!」と、使者は、継母に警告した。
しかし、その言葉は、継母に対して、火に油を注ぐことになる。
警告した使者までも、殺意を込めて睨みつける継母。
先程まで和やかに昼食を食べていた場所は、地獄絵図と化していた。
「そこまで」
突然、静謐な、声が降り注いだ。
声の主を見ると、そこには、一瞬、金色のオーラを纏ったかのような錯覚をするほどの、極上の美女がいた。




