表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

沈黙の帷が落ちるとき



「ここの者は、娘が一人⋯?」


 使者が尋ねた。


 継母は、お辞儀をした後、姿勢を正し、にっこりと微笑んで答えた。


「ええ、左様でございます。この子の上に、もう一人いましたが、年頃で。嫁ぎましてよ」


「そうでしたか、では、この子に例のものを。と、申し訳ない。どこか座れる場所を⋯」


 使者が、キョロキョロと辺りを見渡す。


「まぁ!気が利かず、申し訳ございません。さ、こちらに。お部屋へご案内いたしますわ」


 継母は、使者たちを案内する。


 義姉は、緊張した面持ちで、実母の後を追う。


 実母の背中から並々ならぬ、気迫を感じる。

 まるで、『失敗は許さない』と語っているようだ。


 応接室に着いてしまった。

 母に肩を押され、座らされてしまった。

 目の前には、使者の一人がうやうやしく持ってきた、ガラスの靴。


「さっ!お履きになって下さい」

 にっこり微笑んだ、使者が言う。


 恐る恐る、ガラスの靴に足を入れた。


 ぎむっ。

 途中でつっかえてしまう。


 ガラスの靴を目にした時に、なんとなく、気付いてはいたが、あと少しが入らない。


「ちょっと、今日だけ、足が浮腫(むく)んでいるのかしら?」


 母の声が怖い。


 すすすっ、とガラスの靴に近付いた母が、足首と、ガラスの靴を持ち、ぐぐぐっと押さえつけてきた。


「あぅっ!痛い!痛いわ!お母様!」


 あまりの痛さに声が出た。


「あ!そんなに強く、力を入れてはいけません!今は殿下の持ち物です!丁重に扱って下さいませ!」 


 使者が慌てて、止めに入った。


「はぁ、ここの家もダメか〜」

 使者が、目に見えて落胆して、屋敷を後にした。


「ごめんなさい。お母様⋯」


 義姉は、怒られる前に母に謝った。


「あなたが選ばれなかったことは、残念ですが、これで良いのです。使者は出ていきました」


 実母は、満足そうに笑んだ。



 使者一行がゾロゾロと門をくぐると、路上に棒立ちしている行商人がいた。


「なにかあったのかね?」


 使者たちは、一応、出向いた先の近辺きんぺんの様子も報告するように、と命令されているので、変わった様子には、調査するようにしている。


「へぇ、あの」と、声がする方に振り向いた行商人が、王家の紋章を身につけた一行に、ギョッとして平身へいしん低頭ていとうした。


「あぁ、そんなにかしこまらずとも良い。なにか、困っている様子とお見受けしたが?」


 親切そうな表情を崩さず、使者が問う。


「へぃ、あの、ここに、この屋敷に召使いのお坊ちゃんがいるんですがね、いつまで経っても出てこないんですよ。いや、いつもならね、この時間には、もう出てきてるはずなんですがねぇ〜⋯」


 困ったように、行商人は、ボリボリと頭をかいて、ハッとして慌てて、頭に置いていた手を下ろした。


「通いのものでは、無いのか?」

 使者が、問う。


「へっ?いいえ〜。それは、ないと思いますぁ。このお屋敷を一人で管理してるってね、たしかに前に言ってたと思いやすよ。前に見かけた時は、そりゃあ、忙しそうに働いてやしたし。いや、あのお兄さんは、いっつも忙しそうだったなぁ〜。いやね、大体、私がここに来る日は、庭の掃除をしてるんですよ。ここ、この広さ。これを一人でみてるっていうから、大したもんですやぁねぇ〜」


 行商人は、そう言うと感心したように頷いた。


「年の頃は、いくつぐらいだろうか」

 使者が、問う。


「とし?えーと、私が初めてここに来た時は、こんくらいだったから、いくつぐらいだろうなぁ〜?」


うーん、と手振りを添えて、生真面目に考える行商人に、


「大体で、いのだ」

と、助け舟を出す使者。


「じゃあ、お城の王子様より下ぐらいですわな!綺麗な顔したお兄さんなんで、年齢不詳なんですわ!初めて会った時は、女の子の格好でしたし!」


 その言葉に、ピクリと反応した、使者。


「ちょうど服が無かったんですかね?何回かその格好の後は、ずーっと、従者の格好ですわ!」


「ほう?」


 嘘が無さそうな、行商人の言葉に、使者は、なにかが引っかかった。


「では、私が代わりに呼んでこよう。なに、これも人助け。気にすることはない」


 使者一行は二手に分かれ、ひとつは行商人と共に待つように言い、先程来た道を戻った。



 突然の、使者再訪に、驚愕する継母。


「ど、どうしたのですか?なにか、我が家に⋯。もう用は済んだと思いますが⋯」


 驚愕で表情が作れない継母は、ぎこちない表情で、そうやんわりと抗議した。


「いや、まだ済んでいない。先程、ここを通りかかった者の聞くところによると、ここは、三人で住まわれているそうだな?」


 使者は、じぃっと継母の様子を見て問うた。


「なにかの聞き間違いでは?私と娘、二人だけに、ございます」


 引きつるように笑みを浮かべ、継母は、答えた。


「ならば、問おう。身の回りのことは、主に二人でか?」


「はい、親子二人、慎ましく⋯」

 継母は、落ち着いてきたのか、恭しい態度をとりだした。


「炊事などは?」

「それは、通いのものが」

「通いのものがいない時は?」

「多めに用意しておりまりますので、あまりそういう機会は⋯。

ございませんが、その時は、娘と二人で」


 継母の、恭しい態度は、変わらない。


「ならば、用意しろ」

 使者が言い放った。


「は?」

 つい、継母は、聞き返してしまった。


「我らは、王子の代理でここに来た。様々な家で、様々な歓待を受けた。茶の一杯も出さない家は、ここが初めてだ」


 初めて来訪に来た時と違って、えらくぞんざいな態度で、使者は言う。


「も、申し訳ございません。なにぶん緊張をしておりまして⋯」

 継母は、頭を下げた。


「なに、良い良い。これから受けるのだから、な?」

 使者は、継母を見据え、言い放つ。


 継母は、震える声で、

「あの、その、歓待したい気持ちはいっぱいなのですが、なにぶん食材がございませんので⋯」

継母の、精一杯の言い訳だった。


「それなら、ちょうど良い。そこに行商人が来ているのでな。そこから、買うとしよう。金のことは心配するな。慎ましく暮らす母子への、国からの援助だと思え」


 使者が言いながら片手を上げると、もう一人の使者が外へと出ていった。


「ひぁー!こんなこと人生で初めてでさぁ!さすが、王族ともなると、買う規模が違いますぁねぇ!」


 屋敷に呼ばれた行商人が、続々と品物を持って屋敷と外を往復しながら歓声をあげた。


 全ての荷物を荷台から下ろすと、「まいど!!」と、行商人は笑顔で去っていった。



 玄関ホールに、荷台いっぱいにあった、山のような食材を目の前にし、継母は、呆然とした表情でただ、食材を見つめ、佇んでいた。


 使者は、その様子をチロリ、と見、

「母君は、あまりの量に言葉も出ないようだな。娘、この荷物を運ぶ手伝いをしたい。案内してくれるか」

と、使者たちは荷物を移動するのだった。


 継母の頭の中は、この難を乗り切る事で、頭がいっぱいだった。

 応接室に使者たちを放り込んで、その隙に、シンデレラを連れてきて、料理を作らせるのが、一番手っ取り早く感じた。


 しかし、思い描いたとおりに行動しようとしたが、なかなか事は、上手く運ばない。


「母子二人で消費するには、ちと量が多すぎたな。昼餉(ひるげ)も兼ねて、皆で食そう。手伝いのものも、ここに置いておく」

と、使者一人を置いて、その場から出ていった。


 使者は扉の前で立っており、まるで監視者だ。


 調理場から出てきた使者が、残りの使者たちを集め、こう命じた。


「扉の鍵が、かかっている部屋を探せ。地下、屋根裏、抜かり無くな」


 その言葉を聞き、使者たちは素早く散った。


 程なくして、一人の使者が耳打ちしてくる。


「なに?屋根裏部屋とな?」


 案内されるまま、使者は屋根裏部屋を目指した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ