お茶の時間は、恋の時間
王族の馬車が遠ざかり、街はすぐにいつもの喧騒を取り戻した。
シンデレラと義姉は、義姉ごのみの店へと向かった。
普段着のドレス選びは、義姉からの質問攻め──
『このドレスのオススメは?』『これを着た私の魅力は?』──をなんとか切り抜け⋯⋯⋯⋯
やっと納得のいく品物が手に入った。
足が疲れた、という義姉を横抱きにして馬車へ運び、ようやく帰宅。
さて、自分の仕事を、と思えば義姉から、
「今日の仕事は、もうしなくて良いわ!早速私は、着替えてくるから、貴方は、お茶の準備をして!今日は特別に同席を許すわ!」
と、言うので、シンデレラは、今朝焼いた菓子を準備し、義姉が、一等気に入っている茶葉を用意した。
頭の中は、今日崩れたルーティンの立て直し。
翌朝の継母と義姉のスケジュールと、屋敷の仕事の段取りを、立て直したルーティンに組み込むことに、頭を悩ませていた。
「シンデレラー!シンデレラー!」
義姉が呼ぶ声がする。
一人で着れる普段着を、選んだはずなのに、どうしたのだろう。
「はーい!ただいま〜!」
今日は、早めに休もう、と義姉の部屋に向かいながら、そう決意する、シンデレラだった。
急いでシンデレラは、義姉の部屋をノックした。
「申し訳ございません、遅くなりま――」
入室の許可を得てドアを開けたシンデレラの言葉を、義姉の「ジャーン!」という声がかき消した。
「どう?シンデレラ、貴方が見立てたドレスだけど⋯⋯」
義姉は、早くドレス姿を見せたかったようだ。
「大変よく、お似合いですよ。私の見立てに間違いはなかった」
「そうでしょ〜?」
義姉の瞳を見ると、『もっと褒めて』と言わんばかりの期待がにじんでいた。
「ええ、貴方の白い肌に、薔薇色の頬を彩る色彩。けれども、不思議ですね?似合っている筈なのに、貴方の美しさに、素敵に思えたドレスも、霞んで見えてしまいます」
まじまじと義姉の全身を眺めながら、そう答えると、義姉の顔色は、赤く染まり、ニマニマと嬉しそうに笑った。
どうやら、この答えは、気に入ったようだ。
シンデレラは、義姉が気に入る褒め言葉を、頭に叩き込む。
義姉をエスコートしながら、義姉が毎回お茶を楽しむための場所へと、移動する。
シンデレラに、しだれかかる義姉が「ねぇ〜、シンデレラぁ」と甘えるように話しかけてきた。
「そろそろ、私を“お義姉様”じゃなくて、名前で呼んでも良いんじゃない?」
上目遣いで、こちらを見ながら、義姉は言う。
「申し訳ございません。それはお継母様が、許してはいません。⋯⋯ご容赦ください」
機嫌を損ねるだろうか⋯⋯。
答えながら、義姉の顔色を窺った。
「⋯⋯そうよね。許しはしないわよね」
義姉は、シンデレラの言葉に口を尖らせ、そう呟く。
「じゃあ、仕方ないっか!お茶にしましょう!」
空気を変えるように、笑顔で義姉は言った。
やはり、実母には逆らえないようだ。
義姉の所望どおりに、シンデレラは口元へ菓子を差し出す。
義姉は、雛鳥のように口を開け、じっと待っていた。
同席の際は、かならずこうするように、と命令されているのだ。
義姉の口元についた菓子くずを、掬い、微笑む。
義姉は、ウットリと、ただシンデレラを見つめた。




