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銀色の二人

 エディオスは上機嫌で衛兵詰め所に帰っていき、俺は一人で冒険者ギルドに残った。

 ミロが座る受付カウンターが並ぶ部屋の逆側、エントランスを挟んだ向こうはギルド併設の酒場だ。

 ぼちぼち夕方になりつつある時間帯だ。むさくるしい男共……意外と女共もいる……がジョッキをテーブルに打ち付ける音を響かせはじめている。


 良い匂いが漂ってきて、腹の虫が「忘れてた!」と言わんばかりに騒ぎはじめた。

 この体になって、妙に鼻が良くなった。「気がする」レベルではなく、もうびっくりするぐらい鼻が良い。匂いの出元が20メートル先から分かるレベル。印象としては、視覚に近い。匂いが色と向きを持って知覚できると言えばいいだろうか。犬ってこういう感覚なのかな。

 まあ、いろいろありすぎて、食事をすっかり忘れていたのは間違いない。

 意識してしまうともう駄目だな。

 ハラペコすぎて、腹の皮が背骨にくっついちゃう。

 ひとまず酒場で何か食おう。ついでに、情報収集だ。


「みない顔だな? 新参か?」


 テーブルが並ぶ酒場の手前で、ガラの悪そうな顔と声の男が目の前に立っていた。

 思わず「わお」と声を出しそうになった。

 こんなイベントが起こるとは、予想していなかった。むしろ「起こらないだろうな」と思っていたぐらいだ。

 目の前の男を「テンプレ」と命名する。


 身長は俺と同じぐらいか。

 大男と言ってもいいぐらいだ。面構えも世紀末感が溢れており、転生前の俺が見たらコンマ一秒で百八十度回頭を即断するレベルだ。

 体の厚みは俺より分厚く、熊と鹿ぐらいのウェイト差がありそうな印象だ。

 もっとも、転狼すれば俺も熊ぐらいの厚みになってしまうのだけども。

 そういえば、転狼したときの服ってどうなるのかな。

 世紀末救世主みたいに、破れ飛ぶのかなあ。

 それはそれで困るぞ。転狼する前は、ちゃんと脱がないといけない。


「ダンマリか? それともビビッて動けねえのか?」


 テンプレが名前に恥じぬ言葉を吐いてくれた。

 こうでなくては!

 笑いそうになる口元を硬く引き締め、テンプレを無視して奥の酒場へと向かう。


「無視か、いい度胸だ」


 そう言ったテンプレが俺の肩に手を載せ、マントで手元を隠して俺の腹にパンチを打ち込んできた。

 いやもう、すごいなこの人!

 セリフもやる事も、「こうあるべき」を見事に踏襲してくれる逸材だ。


 メリッ、と嫌な音が鳴った。


「うがあああ!」


 テンプレが手を押さえてうずくまる。

 奥の酒場からこっそり見ていた冒険者の面々から、息をのむ声、怪訝な声、笑い声などさまざまな声が漏れ漂ってきた。


 腹筋に力を入れて、さらに〈強靭外皮〉を発動しておいたのだ。自分で言うのもなんだけど、かなりカチカチになったと思う。

 テンプレからしてみれば、布一枚通してコンクリの塊を殴りつけたようなものだろう。ていうか、自分の拳が砕けるぐらい力込めてたのかよ。

 自業自得ではあるが、俺に手を出した以上、交戦規定により反撃を行う。

 パンにはパンを、血には血を――だ。


 ゴッ!

 

 俺のゲンコツを後頭部に受けたテンプレが、うずくまったまま静かになった。

 冒険者の面々から「おー」とざわめきが起こり、小さいながらも拍手や笑い声が聞こえてきた。

 テンプレさん、嫌われてるやないですか。


 俺は何事もなかったかのように、酒場の奥へと向かう。

 目当てのテーブルは、一番奥の隅だ。

 照明の当たりが悪く、薄暗い一角。

 四人掛けのテーブルに二人が並んで座っている。

 俺はその二人の前に立ち、声をかける。


「ここ、座っていいかな?」


 俺がそう言うと、ざわついていた酒場が静まりかえる。

 口をつぐんだ冒険者たちの目が、一斉に俺に向けられる。その目には緊張と若干の恐怖。そして、好奇心。怖いもの見たさに高所から眼下を見下ろすような目だ。


 並んで座っていた二人が俺を見上げた。

 一人は男性。長身の男性だが、めちゃ美人だ。イケメンを通り越して、美しいに至っている。

 アルミの地金のような銀髪に、アイスブルーの瞳。長身痩躯だが、しなやかな肉付きの四肢。佇まいも美しく、背筋が伸びている。

 まわりの有象無象と比べてしまうと、場違い感が半端ない。

 年齢は二十台半ばといったところだろうか。

 お肌は荒事をこなしているとは思えぬほど綺麗なものだが、装備している胸甲は使いこまれて色がくすんでいる。くすんではいるが、大きな傷はまったくついていない。

 もう一人は女性。長身の女性だが、めちゃカワイイ。となりの男性と同じような顔立ちで、吊り目がちでくりっとした目をしたプリティな娘さんだ。

 背の高さは隣の男性よりかなり低いが、女性にしては長身だ。

 年のころはどう見ても十代後半。女子高生でも通じる。ただ、姿勢の良さと落ち着きのある佇まいから、見た目ほど若くはないだろうと思われた。

 そして、銀色の髪にアイスブルーの瞳。

 言うまでもなく、兄妹なんだろうな。

 髪の色は、妹ちゃんのほうが若干濃い。アルミとステンレスの違い程度だが。


「アンタ、誰かに何か聞いてきたワケ?」


 妹ちゃんが、俺に挑むような声をかけてきた。

 兄ちゃんは、興味深げに俺を無言で見上げる。

 なるほど、見知らぬ新参者が目の前に現れれば、そういう反応になるか。


「いいや。ミロにはベテランから話を聞いたほうがいいとは言われたが、君らのことは聞いてない」

「あん? じゃあなんで私らんとこ来たワケ?」


 見た目のカワイイとは裏腹に、当たりがキツイ子だな。


「君らが、この中で一番強そうに見えたからだ」


 俺がそう言うと、今まで口をつぐんでいたギャラリーから、ざわめきが漏れた。


「へえ……どうして、そう思ったのかな?」


 美人の兄ちゃんが、やんわりと口を開いた。

 怜悧な美人さんのイメージだったが、口当たりはかなりマイルドだ。


「雰囲気かな」


 一応、それっぽく言ってはいるが、嘘じゃない。

 〈生命探知〉のおかげだ。

 酒場に入る直前に、スキルを使ったのだ。

 このスキル、生きている者のオーラ――炎のようなものが見える。体が燃えているように見えるのだ。そして、生命力の強い存在ほど立ち昇る炎は強くなる。扉向こうや、薄い壁なら、身体が見えなくとも炎だけが透けて見える。

 山ほどいる冒険者の中で、この二人だけ異様に目立っていた。

 兄ちゃんは頭一つどころか、三つ抜けている。妹ちゃんも、兄ちゃんには及ばないものの、やはり二つ抜けている。

 ちなみに、この二人の次に派手に燃えてるのは、ミロだったりする。あの姉ちゃん、ただの受付嬢じゃないっぽい。

 他の連中はまあ、ドングリの背比べだ。テンプレはちょっと大きいドングリだった。


 兄ちゃんが、微笑を浮かべてテーブルに手を向けた。


「どうぞ」

「え? 兄ちゃん、なんで!?」


 妹ちゃんが、目を見開く。

 意外と「兄ちゃん」呼びだった。カワイイじゃねえか。


「ありがとう。俺はジン。今日この街に来たばかりなんだ」


 そう言いながら、俺が二人の向かいに座ると、兄ちゃんが笑みを浮かべる。


「僕はダニエル……」


 と言って妹ちゃんを見る。


「……私は、ディアーネ」


 妹ちゃんは、唇を尖らせて横を向きながらも、ちゃんと名乗ってくれた。

 案外真面目な子なのか、それとも兄ちゃんには逆らわない子なのか。


「見ての通り、僕たちは兄妹さ。普段は二人で行動してる」


 と兄ちゃん改めダニエル。


「なるほど。それだけ強いと、他の連中と組んでもペースがあわないってことか」

「面白いね、君は。僕たちが強いと分かっていながら、踏み込んでくる。戦闘狂な人なのかな? あいにくだけど、手合わせとかやる気はないんだ」

「そうじゃない。強いってことは、場数も踏んでると思ったんだ。だから、いろいろと聞かせてほしいんだ。この界隈のことを」


 と俺が口にしたところで、腹の虫が我慢の限界を超えたらしく、派手に不平の声を漏らした。

 妹ちゃん改め、ディアーネがケタケタと笑った。

 当たりはキツイが、性根は素直なんだろう。


「すまない……食事を摂らせてもらう。話を聞かせてもらうお礼と言ってはなんだが、好きなだけ飲み食いしてくれていい。勘定は俺が持つ」

「マジで? やったー、牛フィレのステーキ食べちゃおうっと!」


 ディアーネは食欲にも素直だった。

 ていうか、牛フィレってなんだよ。


「牛肉ふつうにあるの?」

「あるけど? ああ、辺境なのにってこと? ルフリンの北には牧場もあるし、この街は冒険者が多いからさ」

「冒険者は食に金をかける人がそこそこいるんだ。いつ死んでもおかしくないから、美味い物を味わえるうちに食べたいんだと思うよ」

「ほう……」


 意外と異世界の食糧事情は悪くなさそうだ。

 てか、牛のフィレとか、日本でも片手で足りるぐらいしか食った経験ねえよ。

 すまし顔で解説してくれたダニエルも、しれっとフィレステーキを注文していた。

 兄妹そろって欲望に素直だった。

 しかも、激レアで頼んでいる。ディアーネが「表面カリッと焼くだけでいいから!」と元気に注文していた。

 異世界の牛に興味がわいた俺も、同じものを注文した。


 結論から言うと、異世界の牛肉は、100%ビーフだった。

 当たり前なんだけども、日本と同じような味わいの牛肉が出てくるとは思っていなかった。さすがに和牛のとろける脂質のサシが入った肉とは比べられないが、輸入牛の高級品ですと言われれば頷くレベルの美味さだった。

 そして、兄妹は遠慮がなかった。

 追加でフィレステーキを三枚たいらげ、赤ワインを水のように飲んでいた。

 俺も負けじと腹の虫を黙らせにかかった。

 ギルド併設の酒場なんかたかが知れているだろう、と侮っていたが料理が美味い。

 羊っぽい骨付きのグリル。

 塩とレモンでざっくりと味付けしてあるが、肉の風味とマッチしてもりもり食える。

 ジャガイモのバター焼き。

 芋をスライスしてあるだけだが、焦げたバターと胡椒が良い塩梅でいくらでも食える。芋の名前は知らんが、見た目も味もジャガイモにしか見えないので、ジャガイモとしておく。

 トマト風味のポトフ。

 スープはコンソメによく似た風味の出汁が良く効いていた。根菜と芋とソーセージがたんまり入っておりボリュームもある。ソーセージは香草入りで、カリッとかじれば鼻に抜ける香味が肉の油を中和してくれる。

 ガーリックトースト。

 どう見てもフランスパンな表面が硬めのパンに、たっぷりのオリーブオイルと炒めたニンニクがドバっとかかっていた。旨味が染み込んだパンは食うのを止められない。オイリーな見た目とは裏腹に、後に引かないのもいい。

 そして、そこそこ冷えているエール。

 エールは冷やしすぎは良くないが、常温すぎてもやはり爽快感がない。

 酸味が強めではあるが、口内の旨味と油を洗い流してくれるさっぱりとした味わいで、水のように飲める。


 ひたすら飲み食いしていたわけだが、合間にいろいろと話を聞けた。

 城郭都市ルフリンのこと、ギルドのこと、深淵の森のこと。

 関わってはいけない貴族のこと――これは非常にためになった。

 そして、ダンジョンのこと。

 ダニエルによれば、この酒場の地下には地下水を引き込んだ冷蔵庫のようなものがあるという。酒が冷えているのは、そのおかげなのだ。地下水とはいうが、ダンジョンの地下三層にある地底湖から流れ出る水脈から引いているのだそうだ。

 てか、地底湖のあるダンジョンってどんなだよ。

 俄然、ダンジョンに興味がわいた。

 そもそも、この場所に街を作ったのは、百年ほど前にダンジョンが発見されたからだそうだ。ルフリンの城壁は外敵から身を守ると同時に、いざというときに魔物が外に溢れることを防ぐ檻でもあるのだ。ただ、当のダンジョンは、未だ踏破されていないという。

 ダンジョンは、深淵の森を切り開き人類の生存圏を広げる過程で、まれに見つかるのだ。腹にお宝を貯め込み、欲深い者を誘う甘い香りを立ち昇らせて。


「人類を食うためにダンジョンは口を開いているのだ、という人もいる。それは事実だし、間違いではないよ。でも、人は目の前にぶら下げられたお肉を無視できるようにはできていないんだ」


 膨大な数の人がダンジョンに入り、消えていく。ダンジョンで死んだ者は、痕跡を残さず文字通り消え去るのだ。

 それでも人はダンジョンに潜る。まだ見ぬお宝を求めて。

 自分だけはダンジョンに食われないはずだと勘違いをして。

 どう考えても、冒険者が持ち帰ったお宝よりも、消えた人間が生み出すはずであった労力や価値のほうが上なのだ。


「ダンジョンはね、魔物なんだよ」


 端正な顔から表情を消して、ダニエルはそんなことをとつとつと語った。

 あれだけ姿勢の良かった背筋が疲れたように丸くなり、ワイングラスを両手で抱える様は飲み屋でブツブツ言っているバーコードおじさんのそれだ。

 間違いなく酔っている。


 この兄妹もダンジョンに長年トライしているものの、どうしても踏破できないのだとこぼした。

 言ってはなんだが、二人だからじゃね。言わないけどさ。パーティを組まない理由があるんだろうし。


「にゃはははは! 犬っころも飲んでるぅ?」


 ディアーネが俺の背をバシバシ叩きながらワインを飲んでいる。

 絡み酒の上に乱暴者だった。腕が細いくせにやたら力が強い。とても痛い。

 ていうか、いつのまにか俺の隣に座ってるし。


「犬っころってなんだよ……」

「いや、アンタ、犬臭いし」

「犬っぽいか? うん、犬派だし、真面目だしな」


 俺は犬派だ。

 性格は温厚だし、タスクを地道にこなすことも好きだ。

 猫は猫でカワイイとは思うけども、やっぱり犬だな。

 犬は裏切らないしな!


「はぁ? 真面目とか、意味わかんね……スンスン」


 俺の背を叩きながら、俺の首筋に鼻を寄せるディアーネ。

 めちゃカワイイ子に、これだけ近づかれると少々困る。

 俺は身を固くすることしかできない。

 なんせ、女性耐性値はゼロなんで。


「くっさー! やっぱ犬臭い!」


 ディアーネは、口を四角くパカーンと開いて、目も大きく見開いていた。

 猫がこういう顔をするのを見たことがある。

 フレミングとか、フレーメンとかそんな名前の現象だったような気がする。


「俺のニオイかよ!」


 雰囲気とかそういうんじゃなかった。まんま、俺の体臭だった。

 つい昨晩に転狼したばかりだから、本当に犬のニオイがするのかもしれない。

 自分の肘の内側をクンクンやってみる。


「あ、マジだ。犬臭い」

「もう一回……やっぱ、くっさー!」

「猫なの? もしかして、君、猫なの?」

「あーなんかでもー、ちょっと癖になるニオイかもー……くっさー!」

「さすがにちょっと傷つくんで、やめてもらってもいいですか」

「にゃははははは! がたいがでかいくせに、玉が小さい!」


 お下劣なことを言いながら、俺の背を叩くディアーネ。

 雪のように白い肌なだけに、赤ら顔の鮮やかさが妙に目立つ。

 言うまでもなく、この娘さんも酔っている。

 いや、〈強靭外皮〉かけてるのに痛いって、たいがいだと思うんですよ。

 向かいのダニエルはワイングラスを両手で持ったまま、背を丸めてブツブツ言っている。ダンジョンで失敗したときの一人反省会のようだった。


「てか、ディアーネ、お前も臭うぞ」

「え!? うっそ!」


 俺がそう言うと、ディアーネは慌てた様子で胸元を開いて服をパタパタやった。

 白く輝く生の谷間がちらちらと俺の視界に飛び込んでくる。

 俺は慌てて顔を逸らす。

 ちくしょう、ガン見するだけの胆力が欲しい。

 俺を殺しにくるような手合いなら、後腐れなく殴れるし切り刻んでやれるのだが、これからも顔を合わせそうな女性とは、どうにも距離感を測りかねる。

 生来のコミュ障気質と育ちの悪さからくるものだとは思うが、社会人を長くやってれば慣れはするのだ。だが、苦手意識はつきまとう。


「ぜんぜん臭くないしっ! てきとーなこと言ってっとしばくよ?」


 既にさんざんしばいてますよ、お嬢さん。


「死んだ人の血のニオイだ」


 俺がそう言った途端、ディアーネの顔から表情が消えて無音で立ち上がりダニエルの隣へと戻った。


「ちょっと白けるんですけどぉ」

「君も鼻がいいみたいだね。同じニオイを漂わせているんだし、お互い様じゃないかな?」


 バーコードおじさんをやめたダニエルが表情のない顔で言った。彼も俺がまとう血のニオイに気がついていたようだ。


「ごめんごめん。追いはぎを蹴散らしたばっかりでさ、風呂に入れてないんだ」

「へえ……ここに来たばかりだと聞いたけど?」

「道すがらな」

「なるほど。じゃあ、僕らと同じだね。野盗のたぐいはよく討伐に出るからね」


 どうやら、この兄妹は率先して盗賊共を始末するようだ。ディアーネから漂ってきた人の血のニオイは、その時のものなのかもしれない。


「人気のない依頼だと聞いたけど?」

「ないね。冒険者と言っても、人を殺すのはやっぱり抵抗があるのさ」

「ダニエルたちは大丈夫なのか?」


 肩をすくめるダニエル。


「ここをホームにしている唯一の金級だからね。ミロに頼まれるとなかなか断りづらいよ」


 この兄妹、金級だったのか。

 しかもルフリンの街で唯一とか。通りで、頭二つ抜けてるわけだ。

 ボイム一家の討伐を受けていなかったのは、相手がスキル持ち三人だからだろう。

 そもそも、ミロの見立てでも金級のパーティが必要と言っていたぐらいだから、二人組のこの兄妹には振らなかったと思える。


「……そういやさ、野盗じゃない人外を狩るハンターみたいな人たちって居るのかな?」


 俺の問いに、兄妹がそろって首を傾げる。


「人外……?」

「って何?」


 俺はあえて間をとって答える。


「例えば……人狼とか」

「人狼?」

「出たの?」


 兄妹がそろって顔を寄せてくる。

 人狼に興味でもあるんだろうか。


「そういう人の姿をした人にあらずな奴らを専門に狩る連中がいるのか、って話さ。人狼とか……吸血鬼とかね」


 俺がこの街の冒険者に本当に訊きたかったことは、これだ。

 人の暮らしにまぎれながらも人の血をすする怪物を専門に狩るパーティなり組織なりがあるのなら、かなり気をつけないといけない。

 もし、このルフリンの街に居るのなら、早々にここからオサラバするつもりだった。


 兄妹はアイスブルーの瞳をまっすぐ俺に向けてきた。

 まさに、冷たい視線だ。


銀騎士団(シルバーオーダー)って組織があるよ。でも、今はこの街にはいないね」


 やはり存在したか。

 ただまあ、この街にいないのは幸いだ。しばらくはここにいてもよさそうだ。

 内心でホッとしながらも、顔に出すわけにはいかない。


「へえ……そういう人たちってやっぱりいるんだな」

「アンタ、銀騎士に用でもあるワケ?」


 妙にきつい視線を向けてくるディアーネ。


「あるないで言ったら、ないな」

「仮に会おうとしても、銀騎士は正体を明かさないよ。人の間に潜む魔を狩るんだからね」


 とダニエル。


「それもそうか……俺は銀の装備を持ってなくてさ。そういう人たちが居ないんなら、自前で用意しなきゃな、と思ってね」

「なんだ……そういう話か」


 興味を失ったようにディアーネはワイングラスをあおる。

 ダニエルは表情を緩め、薄く笑って肩をすくめた。


「はっきり言うけど、必要ないよ。まず、武器として弱い。それに人狼にせよ……吸血鬼にせよ……そもそも出会わない。持っていても、突然の遭遇戦なら装備を持ち替える前に自分が死ぬ」

「確かにな……」


 俺に蹂躙された追いはぎたちも、銀の装備に持ち替えるひまなどなかった。

 ほぼ壊滅状態に陥ってから、銀の矢が一本飛んできただけだ。


「ダンジョンでアンデッドが出る階層に行くなら別だよ。祝福された銀の武器があると格段に楽になるからね」


 銀騎士団の話からそれて、装備の話に流れが移った。

 ひとまずは、俺が人狼だと疑われるようなことはないはずだ。

 それから武器談議になったり、お勧めの武具屋とか、良い飲み屋を教えてもらったりした。

 いつのまにか再び俺の隣に座ったディアーネに背を叩かれながら。

 結局、〈強靭外皮〉は最後まで切れなかった。

 だが、この異世界に来て、良い出会いを得られたと思えた。久しぶりの美味い酒だった。


 あ……ミーシャのことを忘れていた。

 帰りに折詰でも買っていってやろう。

 酔っ払いのお父さんかな?


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