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だいたいお前のせい

「そうか、十日も経ってたのか……」


 ルフリンで三カ月過ごしたのに、日本では二週間ほどしか経っていなかったので、そんなものかと思わなくもない。ただ、神さまは時間はリンクしていないと言ってたので、この日に戻した理由があるのだろう。


「そんで、どうしてディアーネは俺の部屋で寝てたんだ?」


 俺たちはちゃんと服を着て、宿の食堂で対面していた。

 老婦人には夜も遅いので就寝してもらった。この宿に馴染みまくった俺もミーシャも居るので後片付けは問題ないだろう。

 ディアーネは顔を赤くして、俯いたまま何も喋らない。


「わっふ、わふわふ」


 俺の膝の上に収まっているアルバが俺を見上げてなんか言った。


「え? お前が頼んだの?」


 なんとなーくだが、アルバの言いたいことって分かるんだよな。

 人狼補正というやつかな。


「一人でお留守番するのが寂しいから、ディアーネに来てもらったってことか」

「わふん!」

「そ、そうよ! アルバに頼まれたから、仕方なくよ、仕方なくっ」


 赤い顔をしたままのディアーネがまくしたてた。

 そんなディアーネをミーシャは目を半眼にして見つめていた。

 宿の料金は一月分をまとめて払ってあるので問題はない。むしろ、アルバの散歩や世話をディアーネに丸投げしていたとも言える。


「そうか、ありがとう。アルバのことを見ててくれて」

「べ、べつにお礼なんか言わなくてもいいわよ。私もアルバは好きだし……寂しいんだもん、しょうがないよねっ」

「そうですね、寂しいですもんね……」


 ミーシャがボソッと言った。

 ディアーネは再び顔を赤くして俯いてしまった。

 このやりとりのどこに恥ずかしがる要素があるのか謎だ。


「そ、そんなことよりさ、アンタたち、どこ行ってたのよ?」


 ディアーネの問いに、俺は頷きを返す。


「まあそうだよな。まずは、そこを説明しなきゃなんだが……」


 どうせなら、ダニエルと一緒に説明したいんだよなあ、と思っていたら食堂の入り口の扉が開いた。

 入ってきたのは、ダニエルとエディオスだ。


「待たせたかな?」

「いや、とてもいいタイミングだ」


 ダニエルは頷き、ディアーネの横に座った。エディオスはダニエルの隣だ。

 〈指揮〉スキルで、ルフリンに戻ってきてすぐにダニエルに連絡をしておいたのだ。エディオスも一緒に来るとは思ってなかったが。


「お前、ほんと、どこに消えてたんだよ……おかげでこっちは酷い目にあいまくりだ。だいたいお前のせいだぞ」


 げっそりとしたエディオスが開口一番に文句を言ってきた。ほんとこいつは、文句垂れ蔵だな。

 というか、ダニエルとディアーネも頷かないで欲しいんですが。


「エディオス、痩せた?」

「おう、おかげさまでな……」

「そりゃなにより」

「うるせえよ!」


 ダニエルも苦笑いだ。


「んじゃ、まずは、俺たちがどうなって、どこへ行ってたのかを話そう」


 ミーシャを見ると、しっかりと頷いてくれた。

 俺は、地下下水道で死にかけてからのことを皆に語った。

 といっても、簡単な説明でしかない。亜佳梨のことや芳野のことを語る必要はないからだ。

 ヴァリドに殺されかけて、誰のとは言わないがスキルで元の世界に転移してしまった。ただ、神さまの手違いがあったようで、しばらく元の世界で過ごした後に、こちらに送り返された――ぐらいのざっくりとした話をした。

 いくつか質問に答えつつ、五分ほど話しただろうか。

 乾いた喉をコップの水で潤す。

 テーブルに置いたコップがコンと軽い音を立て、静まり返った食堂に響いた。

 エディオスがしばらく口をパクパクして、ようやく声を出した。


「…………えーと、もしかしなくても、アレか? お前って、召喚勇者なのか?」

「そうだ」

「マジかー。頭おかしい強さしてんなーって思ってたけど、そういうことかぁ」

「誰にも言うなよ? 領主にもだ」


 俺がそう言って半眼で見つめると、エディオスは苦笑いを浮かべた。


「言っちゃダメかー。ちなみにだが、言うとどうなる?」

「お前のあることないこと手紙に書いて領主に送る。お前のせいでワドワ連合王国を出るとも書く」

「おいこら、ふざけんなよ。物理的に首が飛ぶわ!」

「言わなきゃいい」

「へいへい……」


 エディオスは唇を尖らせ、腕を組んで口をつぐんだ。


「そうそう、これを回収しておいたよ」


 テーブルの上に、ダニエルが二枚のマイ神様カードを置いた。

 俺とミーシャのカードだった。


「あとは、君の斧を二本だけかな。あの斧が重すぎてね、他の物を持って帰るのは無理だったよ」

「斧回収してくれたのか! ダニエル、マジで感謝だわ。諦めてたんだが、すげー嬉しいよ」


 さすがダニエル。

 これは嬉しい誤算だ。あの黒斧は金を積んでなんとかなるような代物じゃあないからな。

 しかし、よくあの状況下でクソ重い斧を抱えて撤退できたものだ。死にかけの俺に止めをさすために、ヴァリドがダニエルの方に向かったはずなのだが。

 ということは――。


「ダニエルは、ヴァリドとやりあわなかったんだな?」


 俺の言葉に、ダニエルは頷いた。


「うん。ジンやミーシャの声は、指揮スキルで聞こえていたからね……尋常じゃないことが起こったんだと思ってすぐに動いたんだ」


 ダニエルによれば、俺が血を流しすぎて下水の床に転がった時点で、こちらに向かっていたそうだ。

 多すぎるお客さんは、ダニエルのユニークスキルである〈絶対凍結〉アブソリュート・フリーズを使って、北海道の雪祭り状態にして足止めをしたらしい。

 エディオスが呆れ顔で、


「いや、俺も話を聞いて、次の日に部下と一緒に下水に入ったんだけどよ、笑っちまったわ。変な恰好で固まった氷の像が二十ぐらいあったんだぞ。この兄妹に喧嘩売ったらダメだなーってしみじみ思ったよ」


 結局、ヴァリドはダニエルの前に現れず、追手もかからなかった。

 むしろ、件の地下下水道のアジトは裳抜(もぬ)けの(から)になっていたのだ。

 多数の手下が氷像になってしまったので、分が悪いと見て引き払ったのだろう。

 頭の中にクソが詰まってそうな言動だったが、退き際は鮮やかと言える。『死なずのヴァリド』という二つ名は、反射というチート級のスキルを持ちながらも、臆病ともとれる慎重さが合わさった結果なのだろう。

 ダニエルに反射スキルのことを伝えられなかったのが不安ではあったが、結果オーライというところか。


「兄ちゃんから、『消えた』って聞かされて意味が分かんなかったんだけど……ほんとに消えてたんだね……」

「ジンは召喚勇者だからね。神の御業を使ったのかな、と思ったんだけど……まさか転移とはね」


 どこか諦め顔でダニエルが肩をすくめた。


「まぁ、ダニエルが無事でよかったよ……結局、ヴァリドには逃げられたってことだよな?」


 渋い顔のダニエルとエディオスが揃って頷いた。


「すまん、俺が下手を打ったせいだな。けどまあ、やりあわなくて良かったよ。実は、ヴァリドも召喚勇者なんだ」

「はぁ!?」


 ガタンと椅子を鳴らしてエディオスが立ち上がった。

 これにはダニエルもディアーネも驚いたようで、目をまん丸に見開いていた。


「もし見つけても、迂闊に手は出さないようにしてくれ」

「いやいやいや、お前が殺されれかけたんだろ!? どんな化け物なんだよ……」

「奴は初見殺しなユニークスキルを持ってんだよ」


 ダニエルがぴくりと眉を跳ね上げた。


「ユニークスキル……ディアーネが、のされた理由なんだね?」


 その言葉で、ディアーネがしゅんとした。

 ディアーネが下手をうったわけじゃないから、気を落とす必要はないんだけどな。


「反射だよ。攻撃をそっくりそのまま相手に跳ね返すってやつだ」


 俺の言葉に、皆がギョッとした。


「なによそれっ! 反則ぅっ、チートよ、チート!」


 ディアーネがブチギレして、テーブルをバンバン叩いた。

 うん、チートだよな。気持ちは分かるが、テーブルは壊すな。


「なるほど。ディアーネや君が死にかけるわけだ」


 ダニエルが頷き、エディオスは顔をしかめていた。


「それヤバくねえか? 強い奴ほど、即死じゃねえか……てか、お前、よく生きてたな」

「ギリギリだったぞ。首がもげかけたからな。死なずのヴァリド、ってのは嘘じゃなかった」

「アンタ……勝てるの?」とディアーネ。

「たぶん勝てる。一応、確認したいことがあるけどな。そんで、俺が居ない間に何があったんだ?」


 俺がそう問うと、ダニエルは苦笑いを浮かべ、エディオスは苦虫を百匹ぐらい噛み潰した顔をした。


「むしろ、何もなかったんだよねー」


 と、ディアーネがお気楽に言った。


「うん、僕たちに関してだけならそうだね」


 うんざりとした顔のエディオスが口を開く。


「……俺は、しばらく泣いたり笑ったりできなくなった」

「予定通りだな」

「やかましいわ……まず、ミーシャが攫われたってことで侯爵さまがキレて俺に当たり散らした。下手人はヴァリド商会の連中だって言ったら、案の定、なんでそんなクソ共を放置してたんだって三時間ぐらい説教された。んで、お前が下水に入って消えちまった上に、ヴァリドに逃げられましたって報告したら、丸一日侯爵さまの椅子にされた……」

「椅子ってなんだよ……?」

「まんま椅子だよ、椅子! 四つん這いになって、侯爵さまの執務室の備品になるんだよ!」

「「うわぁ……」」


 ミーシャとディアーネがドン引きしていた。

 さすがに俺も笑えなかった。


「そうか……災難だったな……。もしかして、衛兵隊の隊長をクビになったりした?」


 エディオスは乾いた笑いを洩らして、


「むしろ、出世しそうだわ。それだけの失態を包み隠さず報告したことは評価に値するってよ……ヴァリドの首を持ってくれば失態は帳消しにしてやるし、ご褒美に今度の遠征軍の大隊長にしてやるってさー。嬉しすぎて家に帰って泣いたよ……どう考えても、任せとけって言っときながら、途中で消えちまったお前のせいだ。お前のせいだったらせいだ!」


 泣き笑いでエディオスが憤慨していた。

 消えてしまったことに関しては、悪いとは思っている。ただ、出世ウンヌンは俺のせいじゃないよな。


「すまなかった……でもよ、出世できるんならいいじゃないか」

「嫌だ……出世なんかしたくない。のんびりルフリンの衛兵隊で暇してたい。遠征なんか行きたくない……」

「とんだ引きこもり隊長だな」

「お前らみたいに、脳みそ筋肉なスキルなんか持ってねえんだよ! ハンコなの、ハンコ! 俺のスキルはデスクワーク用なの!」


 エディオスはテーブルをバンバン叩きながらキレていた。

 今日一番の災難を受けたのは、ここのテーブルだな。



お読みいただき、ありがとうございます。

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