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アイスドラゴン

 地下三層を突破してから二週間ほどを準備に費やした。

 途中、満月の日があったのだが、深淵の森に深く潜り込んで一晩はっちゃけてスッキリした。その夜は後詰にダニエルたちがいてくれたので、安心して暴れられた。

 ゴブリン無数とオーク多数、オーガの一グループとそれを率いるオーガの進化個体をチョムチョムした。

 そしてオマケのように進化個体からスキルをゲットしてしまった。


〈威圧 : 声を浴びせた対象を萎縮させる。対象の精神力によって効果時間が変動。使用するたびに体力を消耗〉


 強烈なスキルではないが、非殺傷スキルなので使いどころはありそうな気がする。

 そして、戦利品と討伐部位をダニエルたちが拾ってくれたおかげで、問答無用で冒険者ランクが銀級に上がった。


「ていうかね、十年突破できなかった地下三層を超えた時点で、銀級を超えてるの。支部長なんか、もう面倒臭いから金でもいいんじゃねとか言ってたし。さらに、コレでしょ? 次なんかやらかしたら金だからね!」


 とはミロの談である。

 実力とランクの乖離はギルド的には容認できない事項らしく、支部長権限で否応なしである。支部長からは、「普通は逆」と言われた。不相応な手合いのランクを下げることはままあるが、実力があるくせにまごまごするような奴は冒険者にはいないと言い切られた。

 冒険者ランクは、上がって困ることはない。高ランク冒険者に対する義務などなく、特典だけが上積みされていくからだ。

 ランクを上げるのを渋った理由は、悪目立ちを避けるためだったが、実際問題「手遅れ」もいいとこだ。ダニエルたちにはバレテーラだし、地下三層をクリアしてしまったので、無駄な足掻きでしかない。

 ダニエルは「ランクを上げるぞ、って脅される冒険者を初めて見たよ」と苦笑いだ。

 でしょうね!

 こうなったら、神剛級(アダマンタイト)冒険者を目指してやる。そんで盛大なカミングアウトだ。


 そんなわけで、ルフリンダンジョン地下四層である。

 氷の神殿は遠目で見たイメージより、かなり大きかった。

 巨大な氷のブロックを積み上げて構築されたアーチは、見上げた顔が口を開くほどの高さがある。

 正面には観音開きの巨大な扉。この扉も分厚い氷でできていた。


 俺たちはその大扉の前で、決戦前の小休止をとっている。

 熱々の生姜茶をすすりつつ後ろを振り返れば、首無しの氷の彫像が点々と回廊に散らばっていた。

 アイスゴーレムは、俺たちの敵ではなかった。

 初っ端こそヒヤリとする瞬間はあったが、動きのパターンを読まれてしまったゴーレムなど案山子に等しい。

 二、三回でパターンを完全に把握、それ以降は初手で撃破だ。

 トータルで二十体ほど倒しただろうか。最後だけは、一気に四体が出てきて多少の混乱はあったが、型に嵌めてしまえば順番に首を飛ばすだけでしかない。


「これ、全部売ったら、いくらになるんでしょうね?」


 ミーシャが(そり)の上に山と積まれた氷の生首を見ながら、目を$マークにして言った。

 橇は組みたて式の簡単なものだ。床が氷であるのは分かっていたので、コヴァルズヤの知り合いである木工職人に作ってもらったものだ。言うまでもなくドワーフだった。そして、お約束のように「お前は死んでもいい」と言われた。そんなに俺が嫌いか、ドワーフ男子。

 ちなみに、橇を引くのは犬……ではなく俺だ。似たようなものだが。


「二層の階層主から引っこ抜いたものほどではないけど、そこそこの大きさではあるから一つ金貨五十枚は下らないと思うよ」


 ダニエルがそう言うと、ミーシャは「むほほ」と悪徳商人のような笑い声を洩らした。


「金貨千枚ですか……美味しいお酒がいっぱい飲めますね……」

「手がプルプルしはじめると手遅れだから、一人で飲みにいくの禁止ね」

「むぅむぅ!」とミーシャが鳴いた。


 魔石は大きさごとに細かく等級が設定されており、一段上がるごとに倍々で値段が上がっていく。二層のスケルトンの豆粒魔石は等級一で鉄貨五枚程度だが、直径が100ミリを超えてくると大金貨と魔銀貨が乱れ飛ぶ恐ろしい世界になる。

 その理由は、魔石の特性によるものだ。

 魔石はエネルギー源としても使われるが、もう一つの効果として魔法増幅の効果があるのだ。増幅率は体積に比例し、巨大な魔石によって増幅された大規模魔法は、戦略級の火力が出るという。保有する巨大魔石の数は安全保障上の重要な指針とされており、大国は巨大魔石を確保するたびにその数を喧伝しているのだ。

 なんというか、核抑止力みたいな話だなあと思った。

 ちなみに、ワドワ連合王国は直径150ミリを超える魔石の所有は貴族を含めて禁止だ。もしダンジョンで転がり出た場合は、可及的速やかに冒険者ギルドへの提出が義務付けられている。違反した場合は、国家反逆罪で首に縄がかかる。怖い怖い。


 俺が地下二層のボスから引っこ抜いた魔石は、直径が10センチちょいで等級二十とされた。等級二十の魔石はかなりのレア物らしく、ギルド買取ではなく王都で行われる公営オークションにかけることになった。

 ダニエル曰く、ギルドの買い取り金額は需要を反映していないらしく、価格設定も古いので多少手数料が多くかかろうとも、オークションにかけたほうが高く売れるのだという。お値段は最低でも金貨二千五百枚は下らないだろうと言われた。


「一気に金持ちになった気がする。家買えちゃうな」

「買えば?」


 俺の隣に腰を下ろしたディアーネがさらっとそんなことを言う。


「つってもなぁ……冒険者は続けるつもりだし、色んなとこ行ってみたいし」

「帰る家があるってのは安心できるものよ」

「そりゃ分かるけどさ。ルフリンに買うのか?」

「あれだったら、うちの領地にする? お城の近くの家を紹介してもらおうか?」

「お城の近くて……いきなりぶっこんでくるな、おい」

「ぬっふっふ、大丈夫、お姉さんに任せなさーい」


 何が大丈夫で何を任せるのか、皆目見当がつかない。

 酒場で盛大な自爆カミングアウトしてから、ディアーネはちょっと変わった。

 妙にお姉さん風を吹かすようになったのだ。一応、ディアーネのほうが誕生日は早い。とはいえ、よくよく聞けば一カ月も差がなかった。


「いやいや、限りなく同い年だろ」

「うっさいわね。私のほうが先に生まれたんだから、お姉さんでしょ!」

「いふぁい、いふぁい」


 ディアーネにほっぺたを引っ張られた。

 あと、今までよりも距離が近くなった。物理的に。

 何かが吹っ切れたのか、それとも何かが振り切れたのか。


「ちょっと近いんですが。離れてもらっていいですか?」

「イヤ」


 さらに、俺のお願いが却下される率が上がった。


「お兄さん、妹さんをなんとかしてもらえませんかね?」

「うん? お義兄さんとしては、ほほえましい限りなんだけども」

「……オニイサンの発音が違ってないか?」

「あっはっは」


 二十代前半にしか見えないダニエルが、ニヤニヤとおっさん臭い笑みを浮かべている。もっとも、この男も見た目詐欺だ。間違いなく俺よりかなり年上だ。

 ことこの件に関しては、ダニエルは役に立たないようだ。むしろ、妹の背中を猛プッシュしている気配が濃厚。言葉にせずとも分かる――「早く片付け」なのだ。


 そして、ディアーネに対抗するようにミーシャの距離も近くなった。今も俺の腕を抱え込んでぎうぎうと締め付けている。

 なんというか、犬二匹に引っ張られる縄になった気分だ。今はまだ二匹とも首を振るほどエキサイトしていないが、そのうち頸椎を噛み千切られそうだ。


 というわけで、もろもろを諦めた俺は立ち上がった。


「んじゃ、いくか」


 毛皮のネックガードで口元を覆い、狼ヘッドを深く被る。

 瞬時に気分を切り替えた皆が、無言で頷き立ち上がる。

 おのおのが装備の確認をし、軽く体を動かす。


 俺も腰から吊っていた黒い斧を両手に持つ。

 ドワーフの鍛冶師コヴァルズヤの手によって作られた、俺の新しいメインウェポンだ。

 形的には戦斧というよりバルディッシュに近い。刃元こそ柄にはついていないが、刃末は上に向かって鋭く伸びて切っ先は尖っている。色は上から下まで真っ黒。刃先すら黒い。艶のある輝きは黒曜石のごとくだ。そのせいで、金属感はあまりない。

 常軌を逸した比重を誇る黒鋼で武器を作るということで、様々な軽量化の工夫が凝らされている。

 柄は金属製ではあるが、六角形の中空パイプだ。ヘッドもかなり薄く作られている。今まで使っていた鋼鉄製の戦斧と比べると半分程度の厚みしかない。だが、重さは倍ぐらいある。どんだけ重いんだ黒鋼。

 薄くなった上に硬くて重いということで、斧のくせに切れ味は抜群だ。アイスゴーレムの首をスパスパいけた。ただ、薪割りには向かないと思う。


「問題はないな?」

「はい!」

「ないかな」

「おっけー」


 俺は皆の返事に頷きを返し、足を氷の床に打ち付けて踏ん張りを確認する。

 床面が氷ということで、全員の靴底には鉄の爪――アイゼンが装着されている。

 最初はフラットな氷の上ということでスパイク付きブーツでいいかと思っていたが、軽く試したところで食い付きも剛性も足らないという事実が発覚。結局、しっかりとしたアイゼンを作ることになってしまった。

 ただ、ワドワ連合王国でも最南端に位置するルフリンは、雪が積もっても10センチ程度らしく、アイゼンという道具の存在すら知られていなかった。

 しょうがないので、俺がポンチ絵を描いてコヴァルズヤに作ってもらったのだ。

 デザインはオーソドックスな、前八本後ろ四本爪の2ピース構造だ。

 全方向に過重がかかる戦闘という状況のことを考え、剛性をかなり高めに作ってもらった。雪のない氷の床であることは分かっているので、爪はかなり短め。ただ、踏み込みを強くしたいので、つま先の爪は鋭くしてもらっている。

 俺の説明を受けたコヴァルズヤは、「これは北の鉱山で使えるかもしれん」と興味深そうにポンチ絵を見ていた。「売れるかも」じゃないのが、ドワーフらしいなと思った。一応、知識チートといえなくもないのかな。


「さ~て、ボスとご対面だ」


 分厚い氷の扉を押し開ける。

 神殿の内部は、驚くほど天井が高く、そして広大だった。

 巨大なドーム状の天井は一番高い所で30メートルはあるだろうか。青白い光が差し込む様は幻想的ですらある。そのドームを支えるように、直径が2メートルはありそうな氷の柱が天井まで伸びている。

 それ以上に、横幅と奥行きは予想をはるかに超えていた。サッカーコートが四面入るほどの広さだ。

 そして、最奥には氷の小山。


 俺が一歩を踏み出したとき、氷の小山が動いた。

 青白く細長い氷の連なりがゆっくりと前後に広がり、山の下から四本の氷柱が立ち上がる。

 氷の山ではなかった。

 白く輝く氷の鱗をまとったアイスドラゴンだったのだ。


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