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ルフリンダンジョン地下四層

「ようやく、ここまで来れたよ……でも、挑み続けたかいはあったね」


 ダニエルがそう言って、ほうっと吐いた息が白く染まった。

 長い間、地下三層で足踏みをしていただけに、その顔はどこか感慨深げだ。そこはかとない喜びが表情に浮かんでいた。


 ルフリンダンジョン地下四層。

 そこは、淡い青色に満たされた氷の世界だった。

 空間自体は地下三層と比べれば狭いものだが、それでも奥行きも高さもかなりある。そんな空間が、すべて氷で覆われていた。超巨大な氷の洞窟と言えなくもない。

 何より目を引くのが、ひたすら真っ直ぐな回廊。この階層は迷路状になっていないのだ。

 幅20メートルはありそうな回廊には、氷の彫像とでも呼べそうな複雑な意匠が凝らされた太い氷の柱が等間隔に並び、突き当りには氷のブロックを積み上げた荘厳な建造物。

 氷の柱の上端からは眩い青白の光が放たれており、暗さは微塵もない。むしろ、明るすぎると感じるほどだ。


「なるほど、氷の神殿と呼ばれるわけだ」


 十年前、この階層を訪れた冒険者が残した数少ない情報の一つだ。

 曰く――地下四層は氷に閉ざされた階層であり、一本道である。そして、現れる敵はアイスゴーレム。

 その程度の情報しかないが、手探りの状態から探索するよりはかなりマシだろう。


「どうする? 少し進んでみるか?」


 俺の問いに、ダニエルが頷く。


「そうだね。アイスゴーレムが出るらしいから、一度だけ戦って引き上げよう。さすがに防寒装備がない状態で、長時間ここに居るのは無謀だと思う」

「だな。俺は転狼しちまえば、毛皮のおかげで寒さは感じなくなるんだけどな」


 スパンとディアーネにケツを叩かれた。


「アンタと一緒にしないでよっ。私らはどう頑張っても、毛皮なんか生えないから!」

「ですです。わたしも寒いのは苦手です。あ、強めのお酒を持ってきたほうがいいですね♪」


 ミーシャがディアーネに乗っかって、自分の欲望を滑り込ませてきた。

 ちょっと釘を刺しておいたほうがよさそうだ。


「体温維持に酒は逆効果だぞ」

「え……? でも、お酒を飲むとポカポカしますよね?」

「それは体表の血管が膨張して、暖かく感じているだけだ。むしろ、放熱が加速して体全体の温度が下がる」

「えぇぇ……」

「だから、酒を持ってくるのは禁止な」

「しょぼーん」


 あからさまに肩を落とすミーシャを見て苦笑いが漏れる。

 そんなに酒が好きか。ちっこくてカワイイ系の見た目に騙されそうになるが、この子もやはりドワーフだ。アルコールの管理はしっかりしないとなあ。手がプルプルし始めてからでは遅い。


「んじゃ、アイスゴーレムの面でも拝んで帰るか」


 両手に戦斧を握って、回廊の中央を進む。すぐ後ろにはダニエルとディアーネ。最後尾はミーシャだ。

 風のないダンジョン内部だが、歩くたびに冷たい空気が肌に爪痕を残していく。

 濡れた体は水砲で脱水済みなので服は乾いているものの、この寒さはちょっと堪えるな。


 寒さに耐えながらしばらく進み、太い氷の柱が間近に迫ったところで、左右から氷が砕ける音が鳴った。

 見れば、柱の中から氷の彫像がゆっくりとその身をせり出してきていた。

 柱に刻まれた彫刻かと思っていたが、まるっとゴーレムが収まっていたようだ。


「寺の仁王像みたいだな……」


 アイスゴーレムというぐらいだから、てっきりカチ割り氷を寄せ集めたごつごつした形なんだろうと想像していたのだが、ぜんぜん違った。

 顔はきっちり人間の顔が彫られているし、手足も人間と同じ造形だ。

 身長は3メートルぐらいか。

 二層で戦った骨のボスよりはだいぶ小さい。それでも、拳の大きさはミーシャの頭ぐらいの大きさがあるので、殴られたら痛いではすまないだろう。


「アイスゴーレムの弱点ってどこだ?」


 俺が訊くと、ダニエルがアイスゴーレムの頭を指差した。


「基本はアンデッドと同じ。コアを破壊するか抜けば崩壊するよ。ただ、こいつらは頭にコアがあるね。ちょっと面倒かな」


 言われてよく見れば、確かに頭部の氷の中に輝く魔石がかすかに透けて見える。


「直接叩くにゃ、位置が高すぎるなあ」


 確かに面倒だ。とはいえ、やりようはある。

 ゆっくりとこちらに向かってくるアイスゴーレムに向いて、両手の戦斧を構える。


「ミーシャ、土魔法の出はどうだ?」

「問題ありません。氷の層のすぐ下に岩があります。ワンテンポ遅れますが、地下の利点でかなり相殺できます」


 ミーシャの冷静な声が背後から聞こえた。


「結構。ダニエルはどうだ?」

「相性がよくないけど、環境は最高だね。なんとかなると思うよ」

「おっけー。んじゃ、右から殺る。ディアーネは左の奴の相手を頼む。回避優先でな」

「はーい」

「ダニエル、相手が足を止めたら右脚を氷漬けにして、地面に縫い留めてくれ。そこから、俺が左の膝を砕いて、首を落とす」

「……なるほど。了解だよ。凍らすのは膝下までだね」


 察しの良いメンバーで非常に助かる。


「よし、いくぞ!」


 氷の床面は濡れてはいないので、いきなりすっ転ぶほどのツルツル具合ではない。ただ、激しい動作を繰り返す中で靴裏の氷が溶け、いきなり牙をむきそうではある。要注意だ。

 足裏の感触を確かめつつ駆けだした俺に反応して、右側のゴーレムが足を止めて腰を落とした。

 両手を胸の前に回し、しっかりと俺に目線を向けてくる。

 きっちりと造形された氷の手は、ゆるく指を開いており、打撃も掴みもできそうな構えだ。

 姿勢も様になっているし、微妙に踵が浮いていることから、体重移動も考慮しているのだろう。まるっきり人間の動きだ。ぶっちゃけ、ゴーレム感がまるでない。

 警戒度を一段上げる。ただ殴ってくるだけのゴーレムを想定していたが、こいつらは舐めてかかると駄目な気がする。


 双方の間合いに入った。

 向こうは巨体で徒手だが、こちらは戦斧という得物がある。リーチ差はほぼない。

 まずは牽制として、左の戦斧を相手の拳を狙って突き出す。そもそもダメージを与えることは考えていない。相手の出方や反応速度を見るためだ。


 アイスゴーレムの反応は激烈だった。

 突き出された戦斧を真っ向から迎撃するように左の拳を突き出してきたのだ。

 戦斧の穂先がアイスゴーレムの前腕をガリガリと削り、氷の塵が舞う。

 それでもお構いなしに、氷の拳が俺の顔めがけて迫る。


「いきなりカウンターかよっ」


 咄嗟に外側に避ける。

 氷の拳をやりすごし、引き手に合わせて踏み込んでやろうと思ったのだが、そうはならなかった。

 アイスゴーレムは、拳を突いた状態から手を開いて俺の頭を掴みにかかったのだ。


「うおっ!」


 慌ててしゃがんでやりすごす。

 そこに、追撃の右脚によるローキックが飛んできた。

 しゃがんだ状態から、出来ることは多くない。後ろに転がってやりすごす。さらに追撃のストンピング。これも転がって避ける。一気に間合いを詰められて、マウントポジションを取られそうになる。


「ヤベ……」


 3メートルの巨人に馬乗りされるとか、洒落にならん。

 転狼して凌ぐしかないか……。

 そう思ったところで、唐突にアイスゴーレムがバックステップした。

 ほんの一秒前まで、アイスゴーレムがいた場所を特大の氷の槍が通り過ぎる。


『大丈夫かい? しかし、あれを避けられるとはね。魔力の流れが見えているのかもしれない』


 ダニエルの声が脳内に響く。


「助かったよ。ダメージはないんだが……めちゃ強いな、このゴーレム」


 人間のようにしなやかに動き、理に適った技術と高い反応速度を持つ。それでいて、生物特有の痛覚や出血という弱点を持たない。

 冷静に評価を下すと、むちゃヤバイ。地下二層のボスより手強いと感じる。

 誰だよ、ゴーレムに格闘術をインストールしたのは。って、神さまだよなあ。この世界の神さまは茶目っけがありすぎる。


『ほんと、教本みたいな動きしちゃってさ……ああ、もう!』


 ディアーネもかなりいらついているようだ。

 ちらっと見た限りだが、アイスゴーレムの攻撃はディアーネにかすりもしていない。とはいえ、ディアーネの返しのパンチがアイスゴーレムの表面を削りとってはいるが、有効打には程遠い。

 どちらも決め手に欠けているが、有利なのはアイスゴーレムだ。奴らは疲れ知らずのはずだ。そのうちディアーネのスタミナも切れる。

 撤退――という単語が頭をよぎったが、幸いにして後方は安全地帯だ。撤退と決めれば、ほぼ確実に逃げ切れる。

 今後のためにも、もう少し戦っておきたいところだ。


「教本か……」


 ディアーネの言葉に少し引っかかりを覚えた。あんな性格だが、格闘術の腕は確かだ。そんな彼女が教本と言うぐらいだから、このゴーレムの動きはかなり正確なものなのだろう。


 仕切り直しとなったアイスゴーレムと相対する。

 再び、間合いに踏み込む。

 先ほどと同じように、左の戦斧を突き出す。すると、まったく同じように、アイスゴーレムが左のカウンターを放ってきた。

 びっくりするぐらい正確な軌道だ。さっき戦斧で削った前腕の溝にそのまま刃先が滑る。

 今回は戦斧を振りぬかず、途中で引き戻す。

 すると、アイスゴーレムも左腕を戻し、相対したときと同じ姿勢に戻った。


「振り出しに戻る、ってやつか」


 なんというか、ロボットと対戦しているような気がしてきた。いやまあ、ゴーレムだしな。ロボットみたいなもんか。


「教本……ロボット……どれ、やってみるか」


 今まで放った左の刺突攻撃を、最初と同じようにアイスゴーレムの拳を狙って放つ。

 すると、まったく同じように、アイスゴーレムが左のカウンターを放ってきた。戦斧の刃が氷の溝を滑る。

 拳の外側に避けると、これまた同じように俺の頭を掴みにくる。

 その行動は予想していたものだ。

 さらに半歩外側にステップしつつ、掴もうとしてきたアイスゴーレムの手首めがけて右の戦斧を振り下ろす。


 バキャン!


 石に叩き付けたような衝撃が手首に返ってきたが、地下二層の骨よりはマシだ。所詮は氷でしかない。鋼鉄の戦斧が打ち負ける理由はない。

 白い氷の粉と共に切り飛ばされたアイスゴーレムの手首が宙に舞った。


「予想通りだな」


 軽くバックステップで距離を取る。

 アイスゴーレムは、手首がなくなったことなどまるで気にしていない様子で、同じ構えをとった。

 こいつらは、相手の行動に対するリアクションをしているにすぎないようだ。

 最適と弾きだしたモーションを再生しているだけなのだろう。機械っぽいというか、ゲームっぽいというか。


「こいつら、同じ動きには、同じリアクションしかしないぞ」


 俺の言葉に、ダニエルとディアーネ、ミーシャがハッとした。

 すぐさまダニエルが氷の槍を放つ。

 アイスゴーレムは、まるで見えていたかのように半歩後退して避けた。

 そして、再び同じ軌道でダニエルが氷の槍を放つ。

 さっきと同じ動きでアイスゴーレムは回避したが、半歩下がった瞬間、背後から突き飛ばされたかのように前につんのめった。

 地面から斜めに立ち上がった岩の壁に背中を強打されたのだ。


『ほんとに、同じ動きをするんですね。ちょっとびっくりしました』


 ミーシャの声が聞こえた。

 察しの良いメンバーで、ほんと助かるわ。

 ダニエルの誘導とミーシャの待ち伏せ魔法。

 このチャンスを生かさないとな。


 背中を強打されて、四つん這いになったアイスゴーレムに肉薄する。

 首元めがけて戦斧を振り下ろすと、案の定相手は左腕を掲げて斬撃を受け止めようとしてきた。だが、それは織り込み済みだ。左の戦斧を氷の腕に叩き付け、その反動を利用して飛び上がるように上体を持ち上げ、右の戦斧を上から首筋に叩き付ける。


 バゴンッ!


 氷を斬ったとは思えない音を轟かせて、アイスゴーレムの首がすっ飛んでいった。

 首無しのアイスゴーレムを見ると、地面についている右手が氷の塊に覆われていた。


『右脚じゃなくて、右手になったけどね』


 ダニエルが右手の自由を奪ってくれていたのだ。

 すんなりと首を刎ねることがことができたわけだ。


「作戦通りだ。問題ない」


 一応、最初のプラン通り、相手の動きを制限して首を刎ねたので、作戦通りなのだ。結果オーライなのだ。

 残りの一体も、パターンが分かってしまえば攻略は容易だ。

 そもそも、もう一体のアイスゴーレムは、ディアーネに完全に行動を把握されていた。倒せなかったのは、単純に火力不足なだけだ。

 まるで演武を見ているかのように、アイスゴーレムが型に嵌められて動きを止めたところでダニエルが拘束。避けようがない状態でミーシャの石弾が頭に命中し、もんどりうって倒れた。


「まったく、手間ぁ取らせてくれちゃってさ!」


 ディアーネが悪役みたいなセリフを吐いて、アイスゴーレムの頭を踏み潰した。


お読みいただき、ありがとうございます。

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