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とても……大きいです

 巨大スケルトンがハンマーを右腰から横に振るった。

 ここだ――。


「ミーシャ、岩壁!」


 俺は巨大スケルトンの正面を指さす。

 一秒と経たず、床から赤黒い岩の壁が盛り上がる。


 ガギンッ!


 巨大スケルトンの横薙ぎが放たれ、岩と鉄塊がぶつかり合ってオレンジ色の火花を派手に散らした。

 ミーシャの岩壁は衝撃に耐えきり、ハンマーの動きを止めた。


「もういっちょ! 岩壁でハンマーを挟みこめ!」


 ミーシャは俺の指示を予想していたのか、一度目よりも早く岩壁が盛り上がった。

 ギャリギャリとハンマーの背面をこすりながら岩壁が斜めに屹立して、ハンマーを岩でサンドイッチにした。

 俺はすかさず踏み込み、ハンマーを抜こうとまごまごしている巨大スケルトンの右肘に向けて全力で戦斧を振り下ろした。

 骨とは思えない硬い衝撃が返ってきて激しい火花が散ったが、狙い通り前腕を肘から切断することに成功。

 懸念事項であった、スキルの発動はこれで封じたはずだ。

 驚いたように俺を見下ろす巨大スケルトンの黒い眼窩と目が合った。

 動きを止めたな。


「〈瞬脚〉!」


 周りから見れば、俺が消えたように見えただろう。

 目標地点は――天井。

 超速で巨大スケルトンの頭の横を通りすぎる。

 狙いは首。

 脛骨の間に当たるよう、戦斧を置いて(・・・)おく。この速度域で狙って振り抜くとか転狼状態でも無理だ。

 凄まじい衝撃が手に返ってくる。

 腕ごと戦斧を持っていかれそうになるが、根性で握りしめる。

 コンマ1秒とかからず、目標地点である天井に着地(・・)――。

 一瞬だけ重力の束縛から解放され、天井に手をついて眼下の巨大スケルトンを見下ろす。

 胴体と泣き別れた頭蓋骨が宙を舞っていた。

 握っていた戦斧を返して、刃を裏に回す。


「〈瞬脚〉!!」


 次の目標地点は、巨大スケルトンの左側の床。

 狙いは左上腕骨の上端。

 今度は、斬るではなく、砕くだ。

 首を飛ばしたときよりも、さらに猛烈な衝撃が手に返ってくる。

 そのまま戦斧を置いていきそうになるが、気合で握りしめる。

 速度ゼロで、床に着地。

 高い天井から自由落下より速く床についたというのに、まったく衝撃はない。

 スキルの理不尽さここに極まれりだな。

 振り向くと、ハンマーが床に転がっていた。右腕と左腕が付いたままだ。うまいこと左の肩関節を砕けたようだ。


「よしっ!」


 ほぼ考えた通りの結果に心中でガッツポーズ。

 首なし両腕なしの巨大スケルトンは、左腕をもがれた衝撃でよろよろと後退っていた。

 止めとばかりに魔石を狙って踏み出すも、巨大スケルトンはでたらめに足を踏み鳴らして接近を拒む。

 首を失ったことで、こちらの存在はもはや感知できていないのだろう。

 あさっての方向に体を向けながら、駄々っ子のように脚を振り上げ打ち付ける。

 アンデッドのくせに往生際が悪い。アンデッドだからか?


「さっさと死ね! 死んで土に還れ! 〈瞬脚〉っ!」


 右膝を砕いた。

 インパクトの衝撃に俺の手が音を上げた。砕けた膝の骨と一緒に戦斧が飛んでいった。

 だが、まだもう一本ある。


「……〈瞬脚〉ぅっ!!」


 左膝も砕いた。

 左手の戦斧も骨と一緒に、どっか行った。


 両腕と首がもげ、両脚は膝下からなくなった巨大スケルトンが仰向けに倒れる。

 だが、往生際悪く、まだウゴウゴしていた。生命力というのも変な話だが、異様なしぶとさだ。


「いいかげん、往生せいやあっ!」


 巨大スケルトンに向けて飛び上がり、踵で肋骨を踏み折る。

 蜘蛛の巣にからまった繭のように、いくつもの細い骨で胸骨の内側に浮いていた魔石に手を伸ばす。

 ありったけの力を込めて魔石を引っこ抜く。


 パキャーン!


 ガラスが砕けたような音が鳴って、すべての骨が一斉に弾けて空中で白い粉になった。

 雪のように元骨の粉がさらさらと降り注いだ。


「勝ったどー! ……てか、疲れた」


 引っこ抜いた魔石を掲げて、その場にへたりこむ。

 さすがに〈瞬脚〉の連続使用は体力の消耗が激しい。高い回復力をもってしても、追い付かない。あとで体力が尽きるまで〈瞬脚〉を使って、限界を見極めたほうがよさそうだ。

 降ってくる白い粉をよく見ると、四角い結晶に見える。立方体と言えなくもない。見覚えのある形だ。

 服に積もった白い粉を舌に乗せてみる。


「しょっぱ……やっぱ塩だわ」


 アンデッドのボスをやっつけると塩になるのか。


〈空震 I : 振るった武器の前方に衝撃波を発生させる。再使用待機時間30秒。使用するたびに体力を消耗〉


 期せずして、スキルゲットー!

 血じゃなくてもいいのか……。いやまあ、骨に血はないもんな。

 と同時に納得した。あの骨が放った見えない薙ぎ払いが、この〈空震〉というスキルだったのだ。

 そもそもが衝撃波を放つスキルだったみたいだ。いやまあ、直撃喰らうほうがヤバイとは思うけど。

 ゲームでよく見る空気の刃を飛ばす系とは違って、切断という線ではなく衝撃波という面で攻撃するスキルのようだ。

 斬撃に耐性のある高防御の対象にも効果が見込めるから、なかなか良いスキルだ。俺が血反吐を吐いたように、衝撃波は身体内部に圧力不均衡を発生させてダメージを与えるからだ。

 再使用待機時間というのは俗に言うクールタイムやクールダウンのことだろう。連続使用不可のスキルを得たのは初めてだ。


「ご主人様、大丈夫ですか!?」


 ミーシャが慌てて駆け寄ってきた。

 その場に座り込むなんて、この子の前では見せたことなかったもんな。


「大丈夫だ」


 手に持っていた魔石をミーシャに渡すと、目を丸くしていた。


「とても……大きいですね」


 観客と化していたダニエルとディアーネがやってきた。


「いやあ、倒せるだろうとは思っていたけど、すごいね。魔石を引っこ抜いた人を初めて見たよ……」


 ダニエルはどこか呆れ顔だ。


「アンタって、純粋に強いのね。私ですら目で追えない動きしてたし……あれって〈縮地〉なの?」


 ディアーネは興味津々の顔で訊いてきた。


「〈瞬脚〉だぞ」

「え、マジ……あんな速い〈瞬脚〉なんて初めて見た……てか、どうして私と手合わせしてるときに使わなかったの?」

「そりゃおまえ、『格闘』の訓練にならんからだ」

「ふうん……次から使っていいわよ」


 挑むような視線を俺に向けてくるディアーネ。

 この子、意外と負けず嫌いなんだな。意外でもないか……。


「〈瞬脚〉と〈縮地〉って、どう違うんだ?」

「えっと、〈瞬脚〉はギュンって感じで、〈縮地〉はシュパッて感じ」

「なるほど……分からん」


 この子、やっぱり感覚派だわ。

 ダニエルがくつくつと笑いながら補足してくれた。


「〈瞬脚〉は高速移動で、〈縮地〉は転移と言えばいいかな」

「ほう、〈縮地〉って、間にあるものをすり抜けるんだな」

「その認識で間違いはないけど、〈縮地〉の発動条件が目標地点の視認なんだよ」

「そこは〈瞬脚〉と同じか。ん、じゃあ、ガラスの向こうは行ける?」

「行けるね。ガラスを割ることもない。〈瞬脚〉でも行けるだろうけど……」

「……超高速でガラスにぶち当たるわけだ」

「そうだね、試さないほうがいいよ」


 体中にガラス片が突き刺さって血まみれだろうなあ。

 嫌な想像をしてしまった。


「しかし、妙に詳しいな。持ってたりする?」


 俺の問いにダニエルは苦笑いを返す。


「僕の父親が〈縮地〉持ちなんだ。残念ながら、子供には受け継がれなかったみたいだよ」

「親父さん、すごいんだな」

「お父ちゃんは、スゴイよ! 私、〈格闘術〉も〈治癒魔法〉も受け継いだから!」


 自慢げにディアーネが胸を張った。

 〈格闘術〉に〈治癒魔法〉、そして〈縮地〉か。有用なスキル三つは、確かにすごい。銀騎士団で名の通った騎士だったというのも頷ける。そこまで有用なスキルを揃えている人間には会ったことがない。強いて言うならミーシャぐらいだろう。系統がまるで違うが。

 俺は重い腰を上げる。

 しばらく休憩したおかげで、体力はかなり回復できた。


「……よっこらせっと。すまん、待たせたな」


 俺が立ち上がってそう言うと、


「もう立っていいの……? ていうか、アンタ、血吐いてたよね??」


 ディアーネは心配そうな視線を向けてきた。


「大丈夫だぞ。再生持ちだからな。知ってるだろ?」

「え、そうなの? アンタ、人間のときは銀で焼けなかったし、再生もしなかったよね」

「うん?」


 どうやら俺とディアーネで認識が違うようだ。

 そういや、この世界の一般的(?)な人狼とは違うんだった。普通の人狼は人の時でも焼けるんだったな。けど、俺は焼けないから、ディアーネは人の時は再生能力がないと思い込んでいたのだろう。


「俺って、人の時は銀で火傷はしないけど、再生能力自体はあるんだよ。能力は落ちるし、銀の傷は再生しないんだけどな」

「は……? そういうのは最初に言っときなさいよね! 心配して損した…………」


 ディアーネはぷりぷりとご立腹だ。

 確かに、回復役に俺の再生能力の仕様を教えてなかったのは問題だなと思った。

 素直に頭を下げる。


「ごめん。言い忘れてたわ」

「他には?」


 たぶん、スキルのことを聞いてるんだよな。


「防御系だと、〈強靭外皮〉ぐらいかな」

「やっぱ持ってたんだ……ランクは?」

「3だな」

「高っ! どんだけ殴られてんのよ」

「…………」


 お前のせいだぞっ、と叫びそうになったが面倒臭いことになりそうなので口をつぐんでおいた。

 俺の苦悩を理解しているのか、ダニエルは苦笑いを浮かべて手をパンと叩いた。


「さて……まずは、地下二層クリアおめでとう。ひとまず戦利品を集めて移動しようか」


 転がっていたハンマーに目を向けて、


「ハンマーはただの鉄塊だから、持ち帰る苦労の割には合わないけど……身体の部位が残るのはすごく珍しいね。持ち帰ったほうがいいと思う」


 確かに、ハンマーには巨大スケルトンの右前腕と左腕がまるっとついていた。あと、膝関節から下の左右の脛が床に転がってる。

 バラバラになることもなく、間接が繋がったままだ。なかなか不思議な光景だった。


「……意外と軽いな」


 ハンマーから骨を外してみたが、間接の自由度はまったくなかった。しっかりと固まっていたのだ。その硬さは、鋼鉄の戦斧を欠けさせたときのまま。

 そこそこ軽くてカッチカチ。アルミ程度の比重だが鋼よりも硬く、チタンほどの靭性はない。それでも、魔法の炎では溶けてしまう。不思議な物性だ。

 もっとも、鍛冶屋でもない俺には分かりようがないので、お持ち帰りすることにした。

 俺はミーシャが持ってきてくれた麻袋に骨を放り込みながら、気になったことをダニエルに訊く。


「二人は、どうやってこの骨をやっつけてたんだ?」


 俺に問われた兄妹はちらっと視線を交わしあい、


「僕が氷魔法で動きを封じて……」

「私が、グーで魔石を砕いてた」

「あっさりしてんな!」


 スマートすぎて突っ込み所がない。

 合理的というか、相性の問題か。


「だから、魔石や部位が残ることはなかったんだよ」

「ああ、そういうことかー」


 魔石を抜かれた巨大スケルトンは塩になったが、その前に本体から離れた四肢はそのまま残った。速攻で魔石を砕けば、塩しか残らないのだ。すごく珍しいと言ったわけだ。

 ディアーネが呆れたような視線を向けてきた。


「そもそも、バカみたいに硬いこいつの手足を落とすとか、普通無理なんだからね?」

「うん、確かに骨が折れたわ」

「……笑うとこ?」


 素で洩らした言葉に、「スン」とした顔をされても非常に困る。


お読みいただき、ありがとうございます。

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