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地下二層のボス

 ルフリンダンジョンの地下二層は相変わらずの真っ暗闇だ。

 ミーシャの持つ魔灯が、ほんのりと観音開きの鉄の扉を照らしている。

 ダニエルたちとパーティを組んで二日目。

 俺たちは、地下二層のボス部屋の前にいた。


 一日目は、初めて組むメンバー同士の連携を高めるために地下一層と二層をあえてゆっくりと回った。お互い何ができて、何ができないのか。メンバーのことを知るのは重要なことだ。

 分かったことは、俺たち四人は思いのほかバランスが良かったということだ。

 魔力ゼロの俺は言うまでもなく、最前衛。

 治癒魔法持ちだが、格闘前衛職でもあるディアーネは殿(しんがり)

 俺とディアーネに挟まれる形で、マジックユーザーであるダニエルとミーシャ。

 剣も使えるダニエルは前寄り。攻撃手段が魔法しかないミーシャは後ろ寄り。

 ――といった配置だ。


 もっとも、下手な前衛より頑丈で力持ちなミーシャは、あまりケアを必要としない。

 先ほどもアンデッドの群れに挟まれたが、ディアーネと二人で後ろから迫ったゾンビどもを挽肉にしていた。

 ミーシャの得物は、深淵の森より切り出された高密度の木で作られた杖だ。

 特殊な製法で加工された杖には魔力を溜めておく機能がついており、魔法を行使するたびに杖から魔力が補填される仕組みだ。

 威力を増すこともできるし、少ない魔力消費で魔法を撃つこともできる。マジックユーザーにとってみれば、かなり使い勝手の良い武器だろう。

 しかし、高密度木材でそれなりの太さと長さがあるので、かなり重い。

 非力な只人の魔法使いでは持ち歩くだけで一苦労だそうだが、そこはちみっ子とはいえドワーフ。軽々と振り回してスケルトンを粉砕している。使い方がちょっと違う気がしないでもない……。


「本当に、二人でやるのかい?」


 ダニエルがボス部屋の扉を見ながら言った。


「ああ、そもそも二人で倒すつもりだったしな。それに、せっかく後詰めがいるんだから、試したいことをやる好機だろう」


 俺の言葉にダニエルが頷く。


「そういうことなら、静観させてもらうよ」

「危なくなったら助けてくれるよな?」

「私のとこまで這ってくれば、治癒魔法ぐらいならかけてあげるわよ」


 とディアーネが笑いながら言った。


「十分だ。じゃあいくか」


 俺は鉄の扉を押し開く。

 ボス部屋はかなり広く天井の高い部屋だった。

 50メートル四方はありそうな空間だが、柱の一本もない。

 部屋の中央には大きなスケルトンが一匹。

 事前情報の通り、巨大スケルトンだった。


「てか……でかすぎねえか?」


 目線の高さから逆算すると、俺の身長の二倍を超えている。

 4メートルちょっとはありそうだった。


「大きさはランダムなんだよ。かなりの幅があるらしいんだけどね」

「これは、大当たりじゃない?」


 兄妹が軽く言ってくるが、さすがに倍以上の大きさは想定していなかった。


「大当たりっていうか……外れだとどれくらいの大きさなんだ?」

「僕の経験した限りだと、ジンよりちょっと大きいぐらいだったかな」

「差が激しいな、おい!」

「じゃ、ごゆっくり~」


 そう言って兄妹は半歩後ろに下がった。

 まあ、やりますけどね。


「よし、ミーシャ。まずは、いつもの戦法でいってみよう」

「はい!」


 俺は戦斧を両手に構えて狼ヘッドを深く被り、明るくなった視界で巨大スケルトンを観察する。

 相手の武器は鉄塊にしか見えないハンマー。

 あれを頭から喰らったら、身長が1メートルほど縮みそうだ。

 振り下ろしは横に避ければいいだけだが、薙ぎ払いが要注意だな。後ろに下がるか上下にかわすしかない。タイミングが難しそうだ。

 巨大な胸郭内部、心臓に当たる部分に大きな魔石がはまっている。

 スケルトンなら、アレを砕けば崩壊するはずだ。しかし、分厚い胸骨の中に納まっているので、飛び道具は通らないと思われる。

 魔石を砕くなら、下から突き上げないといけないな。もしくは、掴んで引っこ抜くか。

 さしあたって、魔石をどうにかすることを念頭に一当てしてみるか。


「行くぞ!」


 巨大スケルトンに向かって駆け出す。

 俺に反応して、巨大スケルトンがハンマーを構えた。

 一秒、二秒、三秒目で俺は頭を下げる。

 頭上をミーシャが放った火球が飛び去っていく。

 巨大スケルトンは、火球に反応できていない。

 俺はすかさず相手の左手側に回り込む。ハンマーは右手に持っていた。巨大な武器を振り回すには、自分の体が邪魔になるはずだ。

 俺に注目していた巨大スケルトンは、ようやく飛んでくる火球に気づいた。慌てたように左腕を胸の前に回した。魔石をかばうつもりのようだ。

 着弾の轟音と熱風がほぼ同時に襲い掛かってきた。

 狼ヘッドを深く被っているおかげで顔は焼けなかった。魔法防御が高くて助かる。

 ほとんど火炎の熱風を突っ切って、巨大スケルトンの左膝にすれ違いざま戦斧を叩きつける。

 とりあえず全力(物理)だ。


 ギャリーン!


 骨らしからぬ音を響かせ、オレンジ色の火花が散った。


「! 硬すぎだろ……なんで骨叩いて、火花が散るんだよ」


 赤熱した鉄の破片が飛んだということだ。鋼鉄の戦斧が骨に負けたのだ。

 かすかに痺れた左手を軽く握り直し、半歩距離を取る。

 真正面から骨を砕くという戦法は、無謀そうだ。物理防御が異常に高い。

 では、魔法はどうか。

 着弾したらしき左腕を見ると、前腕の子指側の骨である尺骨が半ば以上溶けて細くなっていた。やたらと硬いわりに、熱には弱いようだ。

 とはいえ、あの特大の火球を受けて腕一本落ちないという事実は重い。


 攻略の手順をあれこれ思案する俺に向け、巨大スケルトンがハンマーを振り降ろしてきた。

 これは半歩横にずれれば問題ない。

 鉄塊が石床にひびを入れるが、当たらなければどうということはない。

 反撃といきたいところだが、柄がやたら長い。斜め前方に踏み込むように避けて懐に飛び込むべきか。

 今度は横薙ぎに振るってきた。

 腕と得物の長さを見誤らなければ、喰らうことはないだろう。

 床を滑るように一歩後退る。

 ゴウっと空気をかき混ぜる音を鳴らして、鉄塊が眼前を通りすぎる。


 すかさず間合いに踏み込み、ハンマーを握る手を狙う。

 太い骨には歯が立たないが、指のような細い骨なら砕けるかもしれない。

 だが俺の目論見は、前蹴りという対策によってすぐさま崩れ去る。

 でかいだけあって、蹴りの射程も長い。

 横に回避したが、その隙に追撃の横薙ぎが襲ってきた。

 懐に飛び込むことを断念。二歩ほど後退して、横薙ぎを回避。


「この骨、動きがいいな……!」


 道中の雑魚スケルトンとは雲泥の差だ。

 後退した俺との間合いを詰めるように、巨大スケルトンが半歩踏み出す。

 そして、ハンマーを腰溜めに構えた。

 横薙ぎが来るなと思った俺は、軽くバックステップ。あの位置からならば、この程度で回避できるはずだ。そう思った。

 だが、巨大スケルトンはすぐには打ち込んでこなかった。

 口を半開きにして「コォー」っと、肺もないのに息を吸い込むような音を鳴らす。

 そして、胸郭の奥にある魔石がドクンと脈動したように見えた。


 ――マズい。


 そう直感した俺は、腕をクロスさせて防御姿勢をとってバックステップしつつ、体を宙に浮かす。ダメージを少しでも和らげるためだ。「浮身」ってやつだな。効果があるかどうか知らんけども。


 ズドンッ!!


 突然、不可視の壁にぶち当たったかのような衝撃を全身に受け、吹き飛ばされた。俺は文字通り空中を二秒ほどお散歩して、石畳の床を舐めさせられた。


「ひゃあっ! ……ご主人様!」


 ぺろぺろ、ちょっと塩味が効いてて、床がおいしいれす。

 脳が少々バグった。衝撃の強さに、軽く脳震盪を起こしたようだ。

 慌てて立ち上がると、眩暈がして激しく咳き込んだ。そして、全身を襲う激しい痛み。攻撃は喰らっていないはずだが……。


「げほっ、げほっっ! なんだ……!?」


 喉に引っかかる異物感。

 口を拭うと、手の甲が真っ赤に染まっていた。内臓か肺をやられたのか。しかも服が焦げ臭い。よく見ると、服の表面、外側の部分が焦げていた。おまけに自分の喋った声が妙に遠い。これは鼓膜が破れたか。

 慌てて駆け寄ろうとするミーシャを手で制す。

 ダメージを負ったが、深刻なものではない。


「……何が起こった?」


 巨大スケルトンを見ると、ハンマーを振りぬいた姿勢で残心をとっていた。

 骨のくせに生意気だと思ったが、俺は巨大スケルトンがいつ攻撃を放ったのか見えなかった。攻撃が来ると予想して、注視していたにもかかわらずだ。それほど速いスイングだったということか。

 ハンマーの直撃は受けていないはずだが、ダメージを受けてしまった。

 俺を吹っ飛ばしたのは衝撃波で、服が焦げたのは断熱圧縮熱ってことか?

 ありえない威力だ。


「スキルか……?」


 全身の痛みはじわじわと引いていき、聞こえる音も元に戻りつつあった。

 〈強靭外皮〉と自動再生のおかげで後に引くダメージはなさそうだが、アレが直撃したらさすがに即昇天だろう。


「そうだよ。数多の前衛を肉片に変えてきた攻撃さ……しかし、ほんとに頑丈だね。交代しなくてよさそうだ」

「治癒魔法かける……? て、大丈夫か」


 兄妹が他人事のように軽く言ってきた。

 まあ、この兄妹はこいつを撃破したことがあるのだ。余裕がうかがえる。


「ああ、まだ大丈夫だ」


 転狼のカードはまだ切らない。

 手こずるようなら、転狼してスピードで翻弄して魔石を砕けばいい。それで片が付くだろうという予想はつく。

 だが、せっかく味方がいるのだから、転狼からのゴリ押しはあまりしたくない。

 戦いの技術が向上しそうにないからだ。人の姿のままで強敵と渡り合ったほうが、様々な気づきが得られると思える。


「さて、仕切り直しだ」


 ミーシャに顔を向けると、彼女も頷き返してくれた。


「ちょっと細かい指示をだすけど、頑張ってくれよ?」

「え……はい、頑張ります!」


 良い返事だ。

 巨大スケルトンは俺がまだ生きているのを目にし、ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 あまり時間をかけるわけにはいかなくなった。

 恐ろしいスキルを持っている以上、悠長に攻略していては事故が起こる確率が跳ね上がる。

 俺は奴を迎え撃つべく、駆けだした。

 とにかく、ミーシャの近くで戦わないようにしないとな。

 あの子はちょっと敏捷性に問題があるので……。


「ミーシャ、岩壁を二回出す用意」

『はい』


 脳内にミーシャの声が響く。〈指揮〉スキルの便利なところだ。効果範囲内なら、距離も障害物も関係なく小さな声で指示が通る。


 巨大スケルトンの間合いに入った。

 けん制であろう横薙ぎを半歩下がって避ける。すぐに踏み込み、懐に入ろうとしたところでハンマーの石突が差し込まれたのでやむなく後退。


「……骨のくせに、長柄武器の扱いが上手いじゃねえか」


 追撃の斜めの打ち下ろしを避けて、相手の右側に回り込む。


 そんな俺に向けて巨大スケルトンは、ハンマーを腰だめに構えた。

 左からの薙ぎ払いがくる――。


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