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代償

「白き(かいな)よ、生命の回天をなせ――治癒(ヒーリング)


 体が春の日差しに包まれたかのように暖かくなった。

 とても気持ちが良い。

 ぐっすり眠れそうだ。

 ぐぅ…………。


「いいかげん起きなさいよっ、この犬っころ!」


 誰かに足を蹴られた。

 とても痛い。


「ってえなあ……」


 目を開ける。

 菫色(バイオレット)の瞳を涙に濡らし、ピンクブロンドの髪をショートボブにまとめた美少女の顔が目の前にあった。


「よかったあぁ!」

「……え、誰?」


 途端、菫色の瞳が綺麗なガラス玉に変わる。


「てか、ミーシャか? なんで? 昨日まで、もっとこう丸々と……」

「ご主人様のことが心配で心配で、何も喉を通りませんでしたから! それに、ずっと走ってたので!」


 寝転がる俺の上に乗っかったミーシャがそう言った。

 一日飯を抜いて走っただけで、そんな簡単に痩せるもん?

 てか、そもそも、俺はどうなったんだ?

 身を起こすと、ミーシャが転がり落ちた。


「きゃうん!」


 可愛い鳴き声をもらしたミーシャがちょっと心配になったが、今は自分の体だ。

 脇腹に手を当ててみたが、血に濡れることはなかった。


「……どうなってんだ?」


 手は見慣れた人間の手に戻っている。

 何故か掌には黒い炭がべったりと付いた。


「はぁぁ……まったく、いい気なもんねっ!」


 最近よく聞く声に顔を向ける。

 ディアーネだ。すぐ後ろにはダニエルもいる。

 俺の足を蹴ったのは、ディアーネなんだろうな。


「もしかして、ディアーネが助けてくれた?」


 治癒魔法を使って、俺の傷を塞いでくれたのだろう。


「そうよ、文句ある!?」


 何故か泣きそうな顔をしながら、ディアーネはそんなことを言った。


「いや、まったくない。ありがとう」


 俺が頭を下げると、ディアーネは顔をそむけた。


「お、お礼なら、その子に言いなさいよね!」

「ミーシャに?」


 俺の横に座りこみ、満面の笑みを浮かべるミーシャ。

 まるで置いてけぼりをくらった犬が、主人が帰ってきたことを喜んでいるかのようだ。

 腰の後ろにブンブン振られる尻尾が幻視できた。


 しかし、今の状況がまるで理解できない。

 とりあえず俺は死んではいないようだ。

 人間の体に戻っていることから、月が沈んで朝にはなったのだろう。

 場所は凄腕の男と死闘を繰り広げた部屋のまま。冷たくなっている男の死体もそのままだ。

 なのに、何故かミーシャとダニエル兄妹がここにいる。


「……ミーシャ、なんでお前がここに居るんだ?」


 ミーシャは宿でお留守番をしているはずなのだが。

 俺の視線を受けたミーシャの目が泳ぐ。


「えーと……宿から出るなとは言われませんでしたので……その、心配で……」


 なんのことはない、ミーシャは俺の後ろにいたのだそうだ。

 気づかれないよう、常に風下から俺を監視し、移動を開始してからも一定の距離を保って尾行をし続けたのだ。

 プロのストーカーかな?


 俺を追ってこの廃墟まで来たはいいが、中に入るわけにもいかず、外で様子をうかがっていたのだそうだ。

 すると、廃墟の中で戦っている音が聞こえ、しらばく経った後に人狼が飛び出して森に消えた。

 居ても立ってもいられなくなったミーシャは、恐る恐る廃墟の中へ入ったところで、昏倒している俺を見つけた。

 脇腹から血を流す俺を見て、咄嗟に火の魔法で傷口を焼いて止血をしたものの、小柄な自分一人では俺を運べないと判断したミーシャは、ルフリンの街に助けを求めるべく森を出たのだという。

 うまく俺が人狼であるということを隠しながらも、ミーシャは説明してくれた。


「ああ、脇腹の炭はそういう理由か。助かったよミーシャ。ありがとう」


 俺が礼を言うと、ミーシャはパッと表情を明るくした。


「い、いえ! 咄嗟のことで、焼いちゃったんですけど……」


 という割には火傷の跡など残っていない。

 ドヤ顔のディアーネが胸を張った。


「問題ないって言ったでしょ。それに、最小限の焼灼だったから魔力も少なくてすんだのよ」

「治癒魔法って、すごいんだなあ」


 俺が素直に感心すると、ディアーネはさらに胸を張る。

 ピッタリとした服装なので、形の良い胸の輪郭が綺麗に出ている。

 とても眼福です。


「も、もっと褒めてもいいわよ!」


 傷はもとより、火傷の跡すらないのは、ディアーネの治癒魔法のおかげのようだ。

 魔法といえば、そもそもミーシャが火の魔法を使えるなんて初めて知った。

 痩せた体をなんとかしようと過保護にしすぎたか。ちゃんとミーシャと向き合わないと駄目だな。彼女の過去も含めて……。


「ダニエルとディアーネは、どうしてここに?」

「昨日の夜、僕たちは北門のそばにいてね。そこで、狼の遠吠えが聞こえてきたんだよ」とダニエル。

「うん? 狼の遠吠えって、珍しいのか?」

「この辺りに狼はいないんだよ。深淵の森にもね。そして、満月の夜……」

「なるほど……人狼かもしれないと思ったわけだ」


 ダニエルがふっと笑う。


「もっとも、北に向けて走り出したのはディアーネなんだけどね?」

「ちょっと、兄ちゃん!」


 ディアーネが慌ててダニエルに振り向く。


「なんでだ?」


 と俺が訊くと、ディアーネはしどろもどろになりながらも、


「え、いや、人狼かもしれないでしょ? 退治したほうが、いいかなって……その、遠吠えが聞こえたから、ね?」

「そうだったかな? エディオスが、ジンが夜盗退治に出てるって言ってから飛び出したよね」

「そんなことないもんっ!」

「あっはっは……」


 ディアーネは顔を真っ赤にしてダニエルの背をしばきまわしている。

 そんなディアーネを見つめるミーシャの目は、何故かガラス玉になっていた。

 兄妹が仲良くしていることに、何か思うところがあるのかもしれない。


「それで、ミーシャと会ったのか?」

「そうです。ちょうど、ご主人様の残したキャンプにお二人がいたので、助けを求めたんです」


 ダニエルとディアーネが頷く。


「死にかけの人が居るから助けて欲しいって懇願されてね。しかも、名前がジンっていうからさ、さすがに慌てたよ」

「人狼にやられたのかと思った……」

「やられたのは人狼じゃないけどな」


 俺がそう言って笑うと、ディアーネに足を蹴られた。


「笑いごとじゃないでしょ!」

「はい、すみません」

「この子が、アンタが助けた奴隷の子なんだよね?」

「そうだぞ。ミーシャだ」

「ふうん……」

「あの……お二人は、ご主人様のお知り合いなんですよね?」


 と、ミーシャがディアーネに訊いた。

 訊かれたディアーネは、何とも言い難いといった顔をする。


「知り合いっていうか……」


 ダニエルはふっと笑って、


「飲み友達だね。今は」

「俺はもっぱらサンドバッグだけどな」


 俺が減らず口を叩くと、ディアーネがキッと睨んできた。


「うっさいわね!」


 ミーシャがディアーネを見つめた。妙に目力が強いのだが。

 負けじとディアーネもミーシャを見返す。こちらも妙に目力が強い。

 睨み合い、というほどではない。目と目で通じ合っているのかもしれない。

 仲良くできそうでなによりだ。


「ちょっといいかい?」


 と言ったダニエルが、剣を俺に向けてきた。

 返事をする間もなく、切っ先が俺の腕にささる。


「痛い!」


 軽く刺されただけだが、意味が分からなかった。

 俺の腕から流れる血をじっと見つめて、ディアーネが言った。


「……普通に血が出たね」

「当たり前だろ!?」

「拒絶反応は、なし……だね……」とダニエル。

「何の話だよ?」


 ダニエルが持っている剣は、厳密には剣ではなかった。

 俺がへし折った銀の剣の切っ先だったのだ。


「すまない。一応、確認させてもらった。ここはあまりに獣のニオイがきつくてね……」


 その言葉に、ヒヤリとする。


「えーと……俺が人狼じゃないか、確認したってこと?」

「こういう場合、確実に白黒つけておいたほうが、後々面倒がないんだ」


 ダニエルの言いたいことは分かる。

 人狼なんていう人に化けるケダモノが闊歩しているような世界だものな。


「はぁ……助かったよ……本当に」

「よかったです……」

「一人で無茶しすぎよ」


 ミーシャは涙ぐみ、ディアーネは唇を尖らせながらも頬は緩んでいた。


 もっとも、俺の安堵の溜息は、自分の運の良さに向けたものだ。

 ミーシャがここに入った時点で、日は登っていたのだろう。満月が消え去ると同時に転狼が解けて人の姿に戻っていたのだと予想はつく。だからこそ、銀の傷が広がらず、火の魔法による止血ができたのだろう。おかげで失血死せずにすんだ。

 そして、もう一つ。

 人間状態の体は、銀が猛毒にはならないが再生能力は阻害するという事実だ。

 追いはぎの弓使いに射られて出来た傷は、あっという間に塞がったのだ。なのに、先ほど刺された銀による傷は再生する気配がない。

 転狼は再生能力が飛躍的に向上するかわりに、銀に対する拒絶反応が激しくなるということか。


「ていうか、アンタ、なんで裸なのよっ!?」

「そういえば、そうでした!」


 ディアーネとミーシャがそろって声をあげた。


「え、今更……?」

「こ、これでも着てなさいよね!」


 そう言って、ディアーネはクロスボウで穴を開けられた板金鎧を投げつけてきた。

 いや、マッパにフルプレートはいろいろとマズイと思うんだが……。


「ひゃあぁぁ……」


 と言いながらミーシャは両手で目を覆っていた。

 指の間はスッカスカだが……。


「僕もそこはちょっと気になるね。どういう経緯でこうなったのか?」

「あー、相手が手強くてな……いろいろと奇策を弄していたらこうなった……」

「……奇策すぎでしょ」


 ディアーネは呆れているが、ダニエルは真剣な目で死んだ男の死体を検分している。


「この男は君がやったんだね?」

「……そうだ」

「頭と腹に剣で……いやこれは、斧かな?」

「正解」

「他の死体とは明らかに違うね」


 荒事に慣れてるダニエルからすれば手に取るように分かるのだろう。

 男の死体以外は、首筋にかぶりつき、テーブルに首を並べて、三枚おろしだ。

 状況に違和感が出ないよう、誤魔化すしかない。


「……俺がここに辿り着いたときには、すでに人狼が暴れていた。人狼はそこの男に返り討ちにあったみたいでな」


 いやほんと、返り討ちだったよな……。

 ダニエルは折れた銀の剣の破断面を指でなぞっている。


「逃げだした人狼と入れ替わるように、君がここへ来た、と?」

「そんな流れかな」

「この男が夜盗の頭目なんだね?」

「それっぽいことを言ってたな」


 ダニエルは何度も頷いた。

 折れた銀の剣と、俺が使った鋼鉄の斧を合わせるようにしている。


「君は運が良かったね……」

「そうだな。人狼を相手にしていたおかげで、銀の武器だったわけだ」


 まさに、ケダモノからバトンタッチして、人間の頭で勝ったようなものだ。

 ダニエルがじっと俺を見つめてくる。


「問題は、逃げた人狼か……人狼はどの程度、傷を負っていたかな?」


 さてこれはどう言うべきか。

 深手と言ってしまうと、追跡して止めをさそうとなりそうだ。そうなると痕跡が残っていないことに違和感が出てしまうな。


「爪は全部折られていたようだったが……深手を負っているようには見えなかった」

「それは、厄介なことになったね……いや、この近辺に居ると判明しただけでも僥倖か……」


 ダニエルは難しい顔で考え込んでしまった。


「放っておくとマズイか?」

「何も手を打たなければね……ギルドに報告すべき案件かな」


 ちょっと面倒なことになりそうだった。

 ただ、俺が人狼かもしれない、という疑いを持たれていないのが幸いだ。


「……銀騎士団を呼ぶのか?」

「ん? いや、必要ない。本隊を呼ぶには情報が足らないんだ」


 呼ばれても困るけどね。

 もっとも、どれだけ捜索しても、人狼は出てこないだろうけど。



    ○



「百手のヤクプだったのか……」


 冒険者ギルドのカウンターに置かれたカードリーダーの水晶玉を見ながら、エディオスが漏らした。

 エディオスの言葉に、ミロが頷く。


「私も最初は信じられなかったんだけどね」


 刺さっているカードは、俺が最後に倒した凄腕の男の物だ。

 ルフリンの街に戻ってきた俺は、夜盗どもから集めたカードをミロに提出した。

 夜盗の討伐依頼はルフリン衛兵隊から出されていたものだ。当然、隊長であるエディオスが検分することになった。


「しっかし、お前、マジで強ぇんだな……あのヤクプに勝つとはなぁ……」

「ほぼ相打ちだったけどな。百手のヤクプってのは、有名なのか?」

「ああ、歴戦の騎士だ。あらゆる武器を使いこなすことから、ついた二つ名が『百手のヤクプ』。数年前にクソ貴族を斬り殺して、数人の兵と共に姿を消した。連合王国は謀叛人として賞金をかけて手配していたんだが……そうか、あの人はこの辺りに潜んでいたんだな……」


 そう語るエディオスの表情は暗い。


「知り合いだったのか?」

「クソ貴族の私兵やってたころの上官だった。バカがつくほどに正直で高潔な人だったよ」

「私兵? 最初からルフリンの衛兵だったわけじゃないんだな」


 自嘲気味にエディオスは笑った。


「貴族の四男坊なんてのは、少しでもマシなとこに転がりこむために、いろいろやるしかないんだよ。運が良きゃどこかの貴族に入り婿だが、そうそう美味い話はない。もっとも生まれのおかげで身元は保証されてるし、読み書きができる分、かなり有利だがな」


 エディオスはやはり貴族出身だったようだ。

 とはいえ、四男ともなるとそれなりに苦労はするんだな。


「……母方の血筋のおかげでここの侯爵さまに拾ってもらえたんだよ。俺がここに来てすぐだったな、ヤクプがあのクソ貴族を斬ったと聞いたのは」


 斬られたクソ貴族とは、ルフリンと領地を接する男爵だったそうだ。

 先代の男爵が死んで領地を引き継いで以降、酷い浪費をして戦などないのに徴発を繰り返す、ろくでもない領主だった。とはいえ、連合王国としては地方領主としての責務を果たしている以上、領主のやりかたに口を出すわけにはいかない。

 だが、民はたまったものではない。じわじわと真綿で首をしめるように、民は干からびていった。

 その様を見るに見かねた筆頭騎士のヤクプがついにブチギレた。


「とある村の徴発を命じられたヤクプはその場で男爵を斬った。すでに家族が死に絶えていた彼にとっては、もはや何の枷もなかったんだろうな」


 ヤクプの息子は戦場で死に、妻は病に倒れ鬼籍に入っていた。

 妻の病は高価な薬さえ手に入れば治るものだった。だが、高潔で清貧なヤクプにその金はなかった。立場を利用すればいくらでも賄賂など取り放題だったのだが、彼は一切その手の汚い金を懐に入れなかったのだ。

 そして、あろうことか徴発をするように言われた村は、亡き妻の出身地であった。

 ミロがなんとも言えない顔で言う。


「でも、どんなクソであろうと、貴族は貴族……」


 その結果が謀叛人ヤクプの手配だ。

 カードリーダーの水晶玉にも「殺人犯」「謀叛人」という赤文字が浮かんでいる。

 やりきれない話だ。


「そういや、戦利品はどうした?」とエディオス。

「めぼしいものは持ち帰ったぞ。黒胡椒もあった」

「黒胡椒は早々に引き取りに来たから、代金受け取って口座に放り込んでおいたわよ。でも、ほんとうに二割でよかったの?」


 とミロが言いながら首を傾げる。


「ああ、黒胡椒のおかげで追跡できたようなものだからな。感謝の印だよ」


 俺はダニエルに肩を借りてようやく歩けるぐらいだったので、戦利品は体の調子が元通りになってから再度取りにいくつもりだった。

 素人が偶然来れるような場所ではないので、誰かに持っていかれる心配などなかったからな。

 しかし、何故だがミーシャとディアーネが張り合い、どちらが多くの戦利品を持ち帰ることができるか、みたいな話になっていた。

 二人とも山のような荷を背負い、ディアーネは「どっせー!」と気合を入れ、ミーシャは「ふんがー!」と雄叫びをあげた。

 なんかキャラ変わってないか……と思ったが、やる気を出してる女性陣の真剣な表情を見て俺は何も言えなかった。

 おかげで、戦利品を持ち帰ることができたのだが……。

 力持ちの女性って、なんだか怖いなと思ってしまった。


「現金は?」

「そういや、まるでなかったな」


 言われてみれば、金庫らしきものはなかったし、ありがちな金貨の入った樽とかもなかった。

 食料や酒はほどほどにしかなかったので、派手に飲み食いをしていたとも思えない。

 持ち帰ったものは、価値のありそうな武具や商品のたぐいだけだ。


「そうか……ここ数年、元男爵領の村々で謎の投げ銭があったんだが、ヤクプがまいていたのかもしれんな」

「……鼠小僧かよ」

「ネズミ?」

「俺の国の昔話だな。悪徳権力者から金を奪って、貧民に施したっていうな」

「どこの国にも似たような話があるのねぇ」


 鼠小僧の逸話はフィクションらしいが、ヤクプはマジもんの義賊だったのだ。

 貧しい民を陰ながら支援していた者を、俺は斬ってしまったのか。


「俺は……余計なことをしたのか?」


 ミロが苦笑いを浮かべた。


「アナタが無駄に優しいのは知ってるけど、悪い癖が出てるわよ。お国じゃどうだったか知らないけども、この国じゃ金貨一枚盗めば首が飛ぶの」


 エディオスは呆れたように肩をすくめている。


「実際、ヤクプたちに襲撃された商人は何人も破算している。家族もろとも路頭に迷ってんだ。債務奴隷に落ちた奴もいる。どんな理由があっても、強盗は重罪だ。お前は、正義をなした。忘れるなよ」


 エディオスの心遣いに苦笑いが出てしまう。


「お前もたいがい優しいよな」

「おう、俺は優しいぞ。気遣いのできる男だ」

「なのに女っ気がないのは、その良く滑る口のせいなんだろうな」

「あはははは! ジンもこいつのこと分かってきたね!」


 ミロは妙に受けているが、エディオスはどこかに何かが刺さったようで、しかめっ面をした。


「……俺だって分かってんだよ」

「口を縫い付けるか? ミーシャの裁縫の腕はかなりのものだぞ」

「くたばれ!」


 エディオスが投げつけてきたヤクプのカードを掴み取る。


「……このカード、どうするんだ?」


 ミロが溜息混じりに言う。


「あー……教会に持ってくしかないわね」

「リサイクルするのか」

「ちょっと違うが、まあ、神の元へ還すってことだ」とエディオス。

「んじゃ、還しにいくか」


 殺した俺の手で供養してやるのが筋だろうと思った。

 俺はそのまま冒険者ギルドを出て、教会へと向かう。隣にはエディオス。

 ちなみに、ミーシャはずっと俺の後ろをついてきている。大人の話をしているときは、まったく口を開かない良く出来た娘のような……いや、妹だ、妹のような存在だ。

 午前中のルフリンの街は静かなものだ。

 皆それぞれの仕事をして、日々の暮らしを支えている。


「後継者のいなかった男爵の領地は隣接するここの領地に組み込まれた。王の直轄地だな。おかげで無理な搾取はなくなった」

「けど、死んだオッサン……ヤクプは救われねえな」

「いいや、彼は望んだものを手に入れた。民を救うというな。その代償は、彼の神である秩序の神に支払われた。これでこの話は終いだ……」


 夜盗の討伐、謀叛人ヤクプの誅殺。

 そして持ち帰った戦利品。

 しばらくはラガービールを飲み続けても何ら問題がないほどの額面が懐に入った。

 金に名前は書いてないし、綺麗も汚いもない。だが、もらった金貨は金色には見えなかった。



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