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百分の一の奇跡

作者: 間抜け
掲載日:2025/10/31

空を、見ていた。耳元で戦ぐ、風の息吹を感じながら。


微かに、鼻腔を擽る、湿った土の匂いと、草の香りは、やんわりと、僕を、包み込んでいた。


何だか、無性に居た堪れなくなって、そっと、目を瞑る。瞼越しでも分かる、太陽の視線は、少し、僕には眩しすぎた。


見つめられる気恥ずかしさか、向き合えない情けなさか、その視線から、逃げるように顔を背けたその先で、恐る恐る開けた目に映る空は綺麗で、天球の端に近づくにつれ、何処までも深みを増していく青は、僕を拒んだりはしなかった。


どうしようもなく、滲んでいく視界。馬鹿だな、孤独だなんて、きっと、気のせいで、僕はまた、1人でいたいだけだった。


一体、いつ迄そうして居たのだろう。太陽が、天球の中心を明け渡してから暫く、時間の感覚すらも失って、揺蕩う僕の意識を、微風がそっと、引き戻す。


そろそろ、起きなきゃな。思い出すさせるように、彼からぶたれた頬が、じんじんと痛み出す。激励にも似た、その痛みに背中を押されるように、ゆっくりと、体を起こす。少し汗ばんだ体には、肌寒さを感じさせる春の風さえ心地よく、思わず、笑ってしまった。


彼の言葉にも、きっと、向き合わなきゃいけない。この頬の痛みが消えないのは、多分、そういうこと。でも、今は、今だけは、この世界に、浸っていたかった。


嗚呼、このまま、この世界に埋もれてしまいたいなぁ。


そんな思いが、胸に、よぎるけど、頬の痛みは、消えてはくれなかった。


みんなの居る場所に戻ろう。心地よい気怠さを振り切るように、勢いよく立ち上がる。湧き起こる、立ちくらみに負けたい気持ちをこらえて、ふらふら揺れるこの体を、地面に、しっかりと支えて貰う。


まずは、案内図なんかを、探さなきゃいけないかもしれない。薄々、感づいてはいたけれど、辺りを見渡してみても、見覚えのある景色なんて、どこにもありやしなかった。


当たり前と言われれば、グゥの音も出ない。あたり構わず、子供じみた癇癪に身を委ねて、がむしゃらに、走ってきたんだから。


あーあ、どうしようか。久しぶりに、枝占いでもしてみようか、なんて思っていると、どこからか、泣き声が聞こえてくる。


条件反射で動こうとした身体が、彼の言葉が頭によぎって、動きを止めるものの、今は、そんな事を考えてる場合じゃないと、その声に向かって、真っ直ぐ走り出す。


次第にはっきりと見えてくる、遊具群と、その真ん中に聳え立つ、大きな木に近づくにつれて、徐々に大きくなる泣き声の先には、木の下の滑り台の上で俯く、小さな女の子の姿があった。


「どうしたんだい、そんなに泣いて。焦んなくたって大丈夫、僕は、どこかに居なくなったりしないから。先ずは、深呼吸をしよう。ほら、一緒に。そうそう、大丈夫だから。ゆっくりでいい、ゆっくりでいいから、僕に、何があったのか教えてくれるかい。もしかしたら、君の力になれるかもしれない。」


滑り台の階段の所でしゃがみ込み、女の子と目線を合わせる。ようやくこちらに気が付いて、縋るような目で、必死に何かを伝えようとする女の子の涙を、腕を伸ばして、ハンカチでそっと拭いながら、女の子に、ゆっくりと、言葉を区切るように優しく話しかける。


「あ、あ、あのね。お姉ちゃんから貰った帽子をね、あの木がとっちゃったの。だ、大事にしてた、宝物なのに。うわああああん。」


言葉にするうちに、思い出して、悲しくなってしまったのだろう。再び泣きじゃくる女の子が、何度も懸命に指さす方には、大きな木の、一際太く、長い枝の先に、リボン付きの、かわいらしい麦わら帽子が、引っ掛かっていた。。


「ごめんごめん。辛い事を訊いたね。教えてくれて有難う。大事な宝物を、木に取られちゃったら、悲しいよね。でも大丈夫、僕が、取り返してきてあげる。だから、泣かないで、ほら、これ、綺麗なハンカチでしょう。君の帽子には敵わないけど、これだって僕の大切な宝物なんだ。これを、君にあげる。いや違うな。君に、代わりに守って欲しい。僕が、あの木と戦っている間に、このハンカチが、木に取られちゃうかもしれないから。出来るかい?」


そう、女の子に声をかけて、、木の節や、枝を使いながら、木に登っていく。


ようやく、もう少しで帽子に手が届くかというところで、聞き覚えのある声が、自分と、おそらく女の子の名前を呼ぶ声が聞こえる。


自分のこんな姿を、枝にみっともなくしがみついている姿なんか、彼女に見られたくない。その思いで、帽子を女の子の方へ投げると、さらに木の上に登って、姿を隠す。


「あ、お姉ちゃん、それに帽子。あれ、お兄ちゃんどこ、おにいちゃーん、どーこー、帽子、ありがとねー。」


すっかり元気になった女の子の声に、顔をほころばせつつ、ばれないように、女の子と彼女の様子を伺う。


そこには、かがんで、女の子と目を合わせながら、楽しそうに女の子の話を聞く彼女の笑顔があって、僕は本当に馬鹿なんだなと思う。


別になんだっていいじゃないか。自己満足だって。こんなことが、おんなじようなことが、また起きる確率なんて、百分の一以下かも知れない。それでも、僕は、この奇跡を求めて、彼にはまた怒られてしまうかも知れないけれど、間抜けのままでいよう。






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