57.お絵描き中=彼女は全てを賭けてそれと向き合う。
あの後、駆け出した私が向かったのは自分の家だ。勢いのままに玄関を開け、着替えもしないまま薄っすら埃を被った作業机の前に座り、PCの電源をオンにする。
「大丈夫……もうアイディアは浮かんでるんだから後はそれを形にするだけ…………」
PCが立ち上がるまでの短い時間、ぶつぶつと自分に言い聞かせるように呟き、大きく深呼吸した。
「…………よし、やろう――――っ」
タブレットを手元に持ってきてペンをその手に握ろうとした瞬間、急激に視野が狭まり、呼吸が荒くなる。
「はっ……はっ……はっ…………っ……こんなの……何でも……ない…………っ」
きっと身体……というより心が拒否反応を示しているんだと思う。だって今、私はずっと描けないでいたイラストへ無理矢理向き直ろうとしているのだから。
荒くなった呼吸のまま、震える手でペンを握る。こんな状態で描こうとしたところでペン先がブレて話にならないだろう。
けれど、それでも、ここで苦しさに負けてペンを止める訳にはいかない。
もし、ここで手を止めてしまえば今度こそ私は全てを失ってしまうだろう。
……ずっと私は絵を描いてきた。それは単純な理由で好きだったからだ。
けど、一度の失敗で私は好きへと向き合えなくなった。
でも、そんな私にあの子はもう一度、向き合うチャンスをくれたんだ。
「っ……この……チャンスを……掴め……ない……なら……私は……もう……生きてる……意味が……ない……!」
変わらず呼吸は荒いし、視界は霞んで、冷や汗が滲み、手だって震えたままだけど、私は描くのを止めない。
あの子のため……なんて高尚な事は言わない。これは徹頭徹尾、自分のためで自分のせいだ。
線を描いては消し、またブレた線を描いて消して、まともに進んでいない……でも、少しずつ……確実に自分の中に浮かんだイメージを描いていく。
っ失敗したって、上手くいかなくたって、どう言われたって、私はただ描いた……生み出した子と向き合ってちゃんと愛してあげれば良かったんだ。
あの時も言われるがままじゃなく、私がきちんと向き合うだけできっと変わってた……だから――――!
込み上げる熱い想いと後悔に身を焦がしながらも、私はひたすらに描き続けた。
描いて、直して、描いて、直して、歯を食い縛りながら……日が暮れて真っ暗になるまで気付かない程に集中し、そして――――
「――――でき……た。これが、今の……私に描ける……全力の………………」
そのイラストデザインが完成すると同時に限界を迎えたらしい私の意識はそこで途絶え、暗闇の中、泥のように眠る。
映し出されたままのディスプレイには不敵に笑い、爛々と目を輝かせる少女の姿が表示されていた。
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トラウマと向き合い、決意と共にそれを乗り越えようとする彼女の今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「……ノーみりんお母様が子供たちを大事に想うのにこんな理由があったなんて」
「この辺りの詳しい事情は私も知らなかったわね。まさかあそこまで重症だとは思わなかったわ」
「…………まあ、こんなの人に話すような事でもないからね。苦しむのも克服するのもあくまで自分だし」
「……だとしても、一人で抱え込まないで私達に相談してほしいですわ」
「そうね。絶対、力になれる……なんて烏滸がましい事は言わないけれど、話を聞いて一緒に考えるくらいはできるもの」
「……うん、何かあったら相談する。だから二人も何かあったら私を頼ってね」
「………………善処しますわ」
「……その間はなんなのかしら、その間は」




