56.お絵描き準備=彼女はようやくその答えに辿り着く。
次の日、久しぶりに彼女が押しかけてこない落ち着いた一日を過ごした私はどこか物寂しさを覚え、何の目的もなく街の方へと足を運んでいた。
「……やってきたはいいものの、一人でなにすることもないし……どうしようかな」
ぶらぶらと街中を歩きながら道行く店に視線を移ろわせるが、特に入りたいとも思えない。
……ちょっと前まではただ大学と家を行き来するだけで、用もなく出掛けるなんて考えもしなかったのになぁ。
行き交う人をぼんやりと見やりつつ、そんな事を私は考える。あの失敗以降、ただただ漫然と日々を過ごすだけで、楽しいなんて思う事はなかった。
けれど、あの子が現れた日を境に私は振り回されながらも、毎日、毎日、感情を揺り動かされていた。
強引だったけど、その在り方と笑顔を前に私はどこか居心地の良さを感じていたんだと思う。
「…………そっか。今、私はあの子がいなくて寂しいんだ」
あの子が一緒だったからどんな場所も楽しいと思う事ができた。文句を言いながらではあったけど、何もかもを諦めていた私にあの子は楽しさや嬉しさを思い出させてくれた。
……認めたくはないけど、あの子との日々は私の中でそれなりに大切なものだったんだ……それこそ自然に彼女をモデルにしたデザインを考えてみようと思うくらいには。
昨日の別れ際、彼女が冗談交じりに言った言葉が本当だった事は少し癪だけど、どうやら一日、会わないだけでもこんな事を考えてしまうくらい私はその存在に助けられていたらしい。
「…………っこんなんじゃあの子の事をとやかく言えないかも」
たぶん、今、鏡か何かで自分の顔を見たら羞恥のあまり真っ赤になっている事だろう。
あれだけ遠ざけようとしてきたのに実は憎からず思ってましたなんて恥ずかしいにも程がある。
これじゃあまるで私は好きな子に意地悪する子供みたいだ。
うぅ……恥ずかし過ぎて顔が熱い……何か冷たいものを…………
そう思ってお店を探そうと辺りを見回したその時、視界に見覚えのある姿が映り、自然とその方向に目を向ける。
「あれは……白崎さん?どこに行くんだろう」
その姿を見つけ、思わずそう呟いた私は気付かない内に彼女が進んで行った方へと歩き出していた。
後を追って少し経った頃、彼女はとある建物の前で立ち止まり、緊張した面持ちでその中へと入っていく。
「ここは……レッスンスタジオ?」
彼女が入っていった建物はお金を払って借りる事の出来るレッスンスタジオ。ダンスやヨガ、撮影などといった様々な用途に使うところだが、少なくとも私には縁がない場所だ。
どうして白崎さんが…………あ――――
理由を考えたところで私は彼女が何の目的でここを訪れたのかを察し、反射的に声を漏らしそうになる。
……そうだ、そうだよ……あの子は何のために私のところを訪ねてきた?一緒に楽しくお昼を食べるため?一緒に遊ぶため?……違う……あの子はイラストレーターとしての小鳥遊ミリアを必要としてきたんだ。
ならあの子は……白崎朝陽は――――
自問自答を終え、いてもたってもいられなくなった私はその場を後にして必死に駆け出した。
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街中で偶然見つけたあの子を追いかけ、明るい表情に隠された努力を知った彼女は一体何を想うのか……先が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「……ゆうぐれ様の用事というのはデビュー前のレッスンでしたのね」
「……ええ、ママにデザインを担当してもらうにしてもそこを疎かにしたら元も子もないでしょう?」
「…………全く、私が引き受ける保証なんてどこにもなかったのに……ゆうぐれちゃんは頑固だね」
「フッ、私がデビューするにあたって妥協は絶対しない……それが事務所との契約だもの。ママ以外にデザインしてもらう気はさらさらなかったわ」
「……デビュー前からその我儘が通るのは流石、最強Vtuberですわね」




