46.お絵描き準備=彼女は他人の敵意に怯え、筆を折る。
「――――え……私の描いたデザインのせい……ですか?」
初めての企業案件を終えて浮かれていた私を絶望の底に叩き落す出来事は一本の電話から始まった。
電話をかけてきたのは私がデザインをした分身で配信をした企業所属の子。
そしてその内容は自分の配信が伸びないのはデザインが悪い、お前のせいだ、責任を取れ、という怒声染みた言葉の羅列だった。
私がデザインを担当した彼女との会話はこの時が初めて。デザインに関しては全て企業を通してだったし、その他の細かい設定も彼女の要望として向こうが提示してきたから直接連絡を取る機会はなかった。
デザイン自体は企業側から納得して喜んでもらえたと思っていただけにこの連絡は寝耳に水で、彼女からの罵倒に近い怒声に対して私は何も反論する事ができず、黙ったままひたすらに暴言を受ける事しかできないでいた。
物凄く長く感じたけれど、たぶん、実際に電話した時間は十分にも満たなかっただろう。
彼女は一方的に言いたい事だけいうとさっさと電話を切ってしまい、ツーツーという音だけが耳元で響く。
なんで、どうして、デザインはあれでよかったんじゃなかったのか、あの絶賛はなんだったんだ、形容し難い感情の渦と共に言葉が頭をぐるぐると回る。
私も彼女の配信はリアルタイムで見た。自分でデザインを担当した子が喋って動くのを見たいと思ったからだったけど、配信自体を楽しむ事ができた。
確かに有名どころの企業Vtuberと比べたら視聴者や登録者の伸びは良くなかったかもしれない。
けれど、それでも彼女と所属が同じ他のVtuberと比べて多かったし、これから伸びそうな予感だってした。
だから私は何も問題なく初配信は成功したと喜んでいたけど、彼女にとっては違ったらしい。
理想が高かったのか、自分ならもっとやれると思っていたのか、それは分からないが、ともかく彼女は結果に満足できず、その原因として私のデザインに目をつけたという事だろう。
「はっ……はっ……はっ……」
背筋に冷や汗が浮かんで呼吸も浅くなり、立っていられなくなるくらい苦しくなってその場にしゃがみ込むけれど、一向に良くはならない。
初めての企業案件を失敗してしまったという不安、デザインが悪かったという言葉の棘、そしてなにより、他人から向けられる本気の敵意に私の心は耐えられなかった。
そこから一週間、私は大学にもいかず、イラストも描かず、ただただ部屋の中で寝て起きてを繰り返すだけの無為な日々を過ごした。
流石に大学にはいかないといけないという義務感から動く事はできたけど、イラストに関しては机に向かう気力も湧かず、ペンを持つ事すら怖くなって全く描けなくなってしまった。
46.お絵描き準備をご覧くださり、誠にありがとうございます。
浮かれる中、届いた一本の電話。向けられる敵意に筆を折ってしまった彼女はこれから先、立ち直れるのか……気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「っ何ですのあの子は……!突然電話を掛けてきて当たり散らかすなんて…………」
「ちょ、まあまあ、落ち着いてオリィちゃん。昔の事だから……」
「昔だろうと何だろうと関係ありません!そもそも人気がないのを人のせいにしようという魂胆が許せませんわ!」
「……あの子の言っていた事も間違いじゃないと私は思うよ。実際、私のデザインが原因だったかもしれないしね」
「それこそありえませんわ。仮にお母様のデザインのせいだったとしても、そこをカバーするのは自分自身……間違ってもそこを履き違えてはいけませんもの」
「……そうかな?」
「そうですわ!お母様が気にする必要は一ミリもありません!」
「……ふふっ、ありがとね」




