23.配信準備=彼女はどうしてもそれを知りたい。
夕食のカレーを食べ終えた後、流石に洗いものくらいは任せてくれと彼女が進んでやってくれたので、その間に私はお風呂を沸かし、寝床の準備を整える事にした。
「……お泊りセットとは言ってたけど、まさか寝袋まで持ってきてるなんて」
最悪の場合、私がソファーで寝る事も覚悟していたけど、これならその必要もなさそうだ。
「お風呂もすぐに湧くだろうし、先に入ってもらって……あと他に今日しないといけない事は……特にないかな?」
配信周りは明日でいいし、どうしても今日やらなければならない事はない。だから後はのんびりと過ごしても問題ないと思う。
「――――洗い物終わったよ。食器は乾燥機に入れたけど良かった?」
「あ、はい。ありがとうございます。お風呂、湧いてるんで先に入っちゃってください」
キッチンから顔を出した白崎さんにそう促すと彼女はにまりと笑い、何故かお風呂場ではなく私の方に近付いてきた。
「?どうしたんですか白崎さ――――」
「せっかくだから一緒に入ろう?親睦を深める意味でもさ~」
近付いてきた勢いのまま抱き着いてきた彼女は私の耳元で囁くようにそう提案してくる。
今日一日、彼女と過ごす中で何度もその距離の近さにたじろいできたが、今の白崎さんの行動は照れや動揺よりも私に一つの疑念をもたらした。
「…………白崎さんって、もしかして男性よりも女性の方が好きだったりします?」
デリケートな問題というか、話題なので遠回しに私が問うと、彼女はきょとんとした表情を浮かべてすぐにプッと吹き出し、そのままお腹を抱えて笑い出す。
「……割と真剣に聞いたんですけど、何ですかその反応は?」
「ふふっ……ご、ごめんね。だ、だって、オリィちゃんったら、わ、私が、ふっふふ……」
堪えきれないといった風に笑う白崎さんに対し、私は少し馬鹿にされた気がして思わず不満そうに頬を膨らませてしまった。
「…………もういいです。変な事を聞いてすいませんでした。お風呂はお一人で入ってください」
「ふふ……本当にごめんってば。大丈夫、心配しなくてもオリィちゃんの貞操の危機とかじゃないから」
「てっ!?……いや、その、だって、いくら女性同士でも一緒にお風呂とか…………」
あまりにもド直球なその言葉に動揺する私を他所に白崎さんはあっけらかんとした様子で不思議そうに首を傾げる。
「そのくらい仲の良い友達同士なら普通だよ?だからほら一緒に……」
「い、いや、普通じゃないですし、入りませんから!!」
迫ってくる白崎さんから距離を取って身を守る仕草を見せつつ、冷めるから早く入ってしまってくださいと残念そうな顔をしている彼女をお風呂へどうにか送りだし、この場は乗り切る事ができた。
そして次の山場は就寝時間だ。
いくら彼女本人の口から心配はないと聞いたからといって、正直、あの距離の近さとノリは油断できない。
だからどうにか別々の部屋で寝たかったのだけれど、そう上手くはいかず、白崎さんは嬉々として私のベッドの隣に寝袋を移動させてくる。
まあ、最初は同じベッドで寝ようとしてきたし、それを阻止できただけでも良しとしよう。
「ふふふ……女子会の醍醐味と言えばこのお喋りの時間だよね……今夜は寝かさないよ~」
「……寝かさないって……夜ふかしはできませんよって言いましたよね?」
「う……で、でも少しくらいならいいでしょ?ね、ほらせっかくの機会だし、私に聞きたい事とか……」
「……少しだけですよ?」
確かに距離感の近さはともかく、大人気Vtuberとのオフコラボという機会は貴重だし、明日に支障が出ない範囲ならいいかと聞きたい事を思い浮かべ……たった一つ、どうしても知っておきたい……いや、知らなければならない事に思い至った。
「…………一つだけ聞きたい事を思いつきました」
「ん、いいよ。なんでも聞いて」
「なら一つ……今……いえ、今日一日を通して私が見てきた白崎さんは素の貴女ですか?」
「…………へ?」
私の質問があまりに予想外だったのか、何でもどんとこいと構えていた白崎さんの口から間の抜けた声が漏れた。
23.配信準備をお読みくださり、ありがとうございます。
夜ふかしと引き換えに最強Vtuberへある質問をした彼女の今後が気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!
「……きっと、この質問は普通の人なら聞かなくてもいい事……いえ、聞いちゃいけない事なのだと思います。だってそれは関係性に罅をいれるもの……けれど、それでも私はそれを聞かずにはいられなかった……だから問われてなお、私との関係を絶たずにいてくれた彼女には感謝しかありませんわ」




