22.配信準備=彼女はその言葉を素直に受け取れない。
キッチンの清掃を終え、カレーもほぼほぼ完成した現在、私の目の前にはリビングの隅で膝を抱えて座る白崎さんという問題が発生していた。
「あ、あの……白崎さん?その、なんというか、そんなに落ち込まないでください。誰にだって苦手なものくらいありますから」
すっかり落ち込んで意気消沈してしまった白崎さんをどうにかして慰めようとするが、ありきたりな言葉しか出て来ない。
これがもっと白崎さんと仲が良ければ別かもしれないけど、生憎と私にその役目は荷が重く、一向に彼女が元気になる気配はなかった。
「……こんな駄目な私でごめんなさい……私みたいなダメダメVtuberとコラボする事になってごめんなさい」
「ちょ、どんだけ卑屈になってるんですか!?料理が苦手だって白崎さんが大人気Vtuberである事は変わりないんですからコラボできて凄く嬉しいですよ!」
「…………本当?嘘じゃない?誓ってそう言える?」
「ぅ……本当ですよ。私みたいな駆け出しも駆け出し……それも特に目立った個性もないVtuberが貴女みたいな大人気Vtuberとコラボできるなんて宝くじを当てるより難しいですからね」
思わず漏れそうになった面倒くさいという言葉をなんとか呑み込み、嘘偽りない本音を白崎さんにぶつけると彼女は目を瞬かせ、そっか……と小さく口にして勢いよく立ち上がる。
「そうだ……そうだよね!私はなりきり系最強Vtuber〝漆黒ゆうぐれ〟だ。料理の一つや二つできなくたってどうってことない!!」
さっきまでの落ち込みようが嘘のように見えるほど元気になった彼女はその場で意味不明なポーズを取ったり、くるくる回るといった奇行を繰り返しているが、ともあれあの暗い空気をどうにかできたのならそれでよしとしよう。
「……元気になったみたいで良かったです。さ、そろそろカレーもいい感じに馴染んできたでしょうし、晩御飯にしましょうか」
「うん!オリィちゃんのカレー楽しみだな~……あ」
お皿の準備をしようとキッチンに戻ろうとした矢先、上機嫌に鼻歌まで歌っていた白崎さんが何かを思い出したかのように声を上げ、危うく言い忘れるところだったとそのまま言葉を続ける。
「たぶん、私を慰めるために言ったんだと思うけど、それでも言わせて?オリィちゃんは自分の事を過小評価しすぎだよ。私は何もない子とお仕事するほどお人好しじゃないからね」
「…………それは」
「……今のオリィちゃんに言ってもすぐには伝わらないかな。まあ、私の言葉は心の隅にでも留めておいてよ」
言葉に詰まる私に優しくそう言った白崎さんは再び鼻歌を歌いながらキッチンの方に歩いていく。
「…………やっぱり私にそんな価値はないですよ」
ノーみりん先生、白崎さん、リィメンバーのみんなは優しいからそう言ってくれているだけだとどうしたって思ってしまう。
だって私にあるのは承認欲求だけ……自分がこれ以上苦しみたくないと仕事から逃げ、それでも欲求を満たしたいからという理由で配信をする浅ましい人間……それが〝礼嬢オリィ〟に隠れた本当の私なのだから。
22.配信準備をお読みくださり、ありがとうございます。
復活した最強Vtuberからの言葉を受け入れられず、自分を卑下してしまう彼女の今後が気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!
「……今でも私が浅ましい人間という認識は変わりません。けれど、こんな私でも見てくれる、応援してくれる方がいる……だからできる限りはそれに応えてみせますわ」




