15.配信準備=彼女は緊張し、その勢いに圧倒される。
電話越しでノーみりん先生と話した翌日、私はきちんとした格好……あのブラック企業の入社式以来、袖を通していないスーツに身を包んで待ち合わせ場所であるカフェに足を運んでいた。
「……どうしようか迷ったけど、流石にお仕事を依頼しようって場だから正装しないと失礼だもんね……まあ、まさか何年も前のスーツがすんなり入るとは思わなかったけど」
コーヒーを啜りながらどうでもいい事を独り言ち、ちらちらと時計を見やりながら約束の時間を待つ。
たぶん、私は緊張しているんだと思う。
コンビニでのちょっとした買い物を除けば、まともに人と会うのはあのブラック企業へ最後に出勤した時以来……対人恐怖症とまではいかないが、人と話すのは少し怖い。
「ふぅ……落ち着け。私から依頼するんだから変な態度は避けないと……大丈夫……相手は怒鳴ってくる元上司みたいな人じゃない……大丈夫…………」
店員さんに不審がられないよう小さな声で自分を落ち着かせるように呟くが、緊張が和らぐ気配はなく、無意識にコーヒーを口に運ぶ回数が増え、あっという間に飲み干してしまう。
っいつの間に……仕方ない、もう一杯頼もう……。
そう思って店員さんを呼ぼうと思ったその時、来店を告げるチャイムが響き、薄い栗毛の髪をした女性がこちらに向かって歩いてくる。
「――――やーごめん、ごめん。待たせちゃったみたいだね」
軽く笑いながら私の前に腰を掛けた彼女は隣の椅子に荷物を置くと改めてこちらに向き直る。
「ではでは、初めまして。私が美少女イラストレーターのノーみりんだよっ☆よろしくね」
「びっ……え?あ、えっと、はい、よろしくお願いします」
初っ端から随分とぶっ飛んだ自己紹介をぶっこんできたノーみりん先生に対して圧倒されるがままになってしまった私は緊張を忘れ、戸惑ったまま素の言葉を返してしまった。
いや、確かに美人は美人だ。
薄い栗毛の髪はさらさらで、肌も白く、同じ人間かと疑う程、顔も整っており、アイドルだと言われても違和感のない容姿をしている……まあ、少女と呼べる年齢には見えないが。
それでもさっきの言動が無かったら緊張しすぎて喋れなかったかもしれない。
「うんうん、よろしくよろしく……えーっと…………」
「あ、す、すいませんっ。自己紹介が遅れました!私は――――」
慌てて自己紹介をしようとする私を手で制し、チッチッチッ……と人差し指を振ってそのまま唇に添えた。
「ここでの自己紹介で本名を名乗るのはノンッだよ。私はノーみりん、貴女は為りたい自分の名前を名乗るの……分かった?」
「は、はい……わ、分かりました」
「うん、よろしい。素直な子は好きだよ~……あ、店員さん、ココアのアイスを一つね。こっちの子にはコーヒーのおかわりをお願い」
満足したように頷いたノーみりん先生は近くにいた店員さんを呼び止めて注文すると、再び向き直り、私を真っすぐ見据えてくる。
「――――さて、それじゃあ聞かせてもらおうかな。貴女の思い描く為りたい自分を」
15.配信準備をお読みくださり、ありがとうございます。
これはデザインの依頼をした翌日にカフェで待ち合わせ、現れたノーみりん先生のキャラクター性に彼女が圧倒されるお話です。
生真面目にスーツまで着て、それでも緊張からコーヒーをがぶ飲みしてしまう彼女の事が気になる、推せるという方はチャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!
「……生真面目にって……社会人としてこういう場は正装が当然ですわよ?それにこれから大人気イラストレーターという雲の上の存在に自分を売り込まなければならないなんて状況は誰だって緊張しますわ……ましてノーみりんお母様があんな――――」
「んー?あんな……何かな?ママに聞かせてほしいな」
「っい、いえ、何でもありませんわ!決して……決して良い歳してあのキャラはきついとか思ってませんわよ!?」
「……オリィちゃん、後でオハナシがあるから逃げないでね?」
「ひっ……ご、ご勘弁くださいまし〜!!」




