109.配信開始=彼女は理想を求め、最強は再臨する。
《――――こんな大仰な配信枠を立てて何するつもりなんだろ》
《――――さあ?騒動の弁明でもするんじゃない?いまさら何をって感じだけど》
《――――最強(笑)のびっちがどんな言い訳をするのか楽しみだ》
《――――どうせ人気だからって調子に乗ってたんだろ。いい気味だ》
待機中コメント欄が普段の配信以上に動き、心のない言葉が飛び交っている。
その中にはいつも見るような温かいコメントは見受けられない。
事務所側も酷すぎるコメントは削除したりで対応してくれているけれど、焼け石に水状態。騒動の大きさと知名度を考えれば仕方ない事だと思う。
そもそも、今回みたいな炎上騒動の対応としてこういう風に配信で何かするなんていうのは異例中の異例……普通はSNSでの発表なり、事務所からの声明なりで謝罪、あるいは事情説明をするものだ。
その結果、当人に非があるなら契約解除などの対応をして然るべきで、非がないにしても、全面的に矢面に立って問題を解決ないし、解消するのは事務所の役目……間違っても本人がこういう配信をするべきじゃない。
下手をすれば……ううん、下手をしなくても、余計に拗れ、さらなる火種を生み出す要因になる可能性が高くなる。
今回の騒動に私の非がない以上、事務所に任せて、落ち着くまで配信を控えるのが最良の選択なのだろう。
けれど、そうしてしまった時点で今回の騒動の禍根、残ってしまった噂は払拭できない過去となり、最強Vtuber〝漆黒ゆうぐれ〟は私の理想ではなくなってしまう。
たぶん、ファンの子達にとってはこんな賭けみたいな事をするよりも、最良の選択を取るのが正解なんだと思う。
「……でも、それじゃ私が納得できない。ただの我儘なのかもしれないけど、これは……漆黒ゆうぐれの在り方だけは譲れないから」
誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟き、目を開けて顔を上げる。
「十秒後にマイクを入れて配信を開始します……五、四、三、二、一、――――」
スタッフさんのカウントダウンを聞きながら、ばくばくと煩い心臓の音と共に高まる緊張を胸に私はゆっくりと口を開いた。
「――――皆の者、注目。私が……私こそが頂点。何にでも為れるし、何だってできる……けれど、唯一無二の存在……なりきり系最強Vtuber……〝漆黒ゆうぐれ〟とは私の事よ!」
炎上騒動なんてどこ吹く風と言わんばかりの不遜な態度でいつも通りの挨拶を口にする私。
きっとコメント欄は荒れているのだろうけど、ここで尻込みするわけにはいかない。
震えそうになる声をどうにか抑え、不敵な笑みを浮かべた私は事前の打ち合わせ通りに配信を進めるべく、そのまま言葉を続けた。
109.配信開始をご覧くださり、誠にありがとうございます。
誹謗中傷が吹き荒れる中、始まった漆黒ゆうぐれの配信……彼女は果たして最強を証明できるのか……?
今後が気になる、彼女達を推せるという方はチャンネル登録とグッドボタン……もとい、ブックマークと評価の方をよろしくお願いいたします……それでは彼女達から一言!
「そう、私が……私こそが漆黒ゆうぐれよ!」
「……どうしたんですの?突然」
「……しぃ〜……きっとゆうぐれちゃんはストレスで叫びたい気分だったんだよ」
「ああ、なるほど……それは、大変でしたわね」
「……ちょっと?勝手に決めつけるのは止めてくれるかしら。私はただ短いverの挨拶を考えようとしただけよ」
「本当にぃ?ストレス溜め込んだりしてない?」
「大丈夫よ。だって私は最強なのだから」
「……好きですわねその台詞……大丈夫の根拠には何もなってませんけれど」




