0.礼嬢オリィのプロローグ
「――――よし、準備は万端。はーふぅー……」
画面の前、機材の準備を終えて後は配信開始ボタンを押すだけの状態で深く息を吸って吐く。
もう何度目かになるけれど、毎回、毎回この瞬間だけは慣れない……あ、マイクを入れるのを忘れないようにして…………配信開始っと。
「み、皆様ごきげんよう、元ブラック勤めの崖っぷち令嬢Vtuber……礼嬢オリィ……ですわ」
緊張のあまり声が上擦ってしまったけど、いつもの事だと割り切って配信に集中する。
画面越しに映る姿は普段の私とはまるで別人。ブロンドの髪にドレスといった風体に、ごてごてした設定とぎこちなく慣れていない語尾をつけて喋り動くのは私の分身、〝礼嬢オリィ〟だ。
≪待ってました≫
≪ごきげんよう≫
ぎこちない挨拶にもかかわらず、コメントをくれる人達に感謝しつつ、同時接続の人数に目をやる。
同接の人数は二桁、これでも無名の個人が始めた配信にしては見てくれてる方なんだよね……。
高い機材費用や依頼料を考えれば赤字も赤字、そも、収益化すらできていない現状では取り戻す当てすらない。
けれど私にとってはそんなのは些末なこと、少なかろうと見てくれている人たちに向けて文字通り、死ぬ気で配信するだけだ。
「ええと、そ、それでは今日は雑談……わ、私がこうなるに至った理由をお話しま……じゃなかった……いたしますわ」
どもりながらもあらかじめ決めていた話題……私がVtuberを始めるに至った経緯を話し始める。
まさかこの配信が後に伝説になるなんてこの時の私は想像すらしていなかった。
プロローグをお読みくださり、ありがとうございます。
これから始まるのはVtuber〝礼嬢オリィ〟が生まれるまでのお話です。
まだ最初も最初ですが、崖っぷち令嬢Vtuberである彼女に興味を持ったり、推していこうかな?と思いましたら、チャンネル登録……もとい、ブックマークの方をよろしくお願いします……それでは彼女から一言!
「え、ええっと……よ、よろしくお、お願い致します?……ですわ」