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1)アランとヒューバート

「何か」

アランの視線に気づいたのか、ヒューバートが振り返った。

「いや、何と言うほどのことでもないが」

今の思いをどう言葉にしたものか。アランは暫く考えた。

「以前の俺に教えてやりたいと思っただけだ」

首を傾げたヒューバートを抱きしめる。

「こうして家族になれるとは思っていなかった」

長身のヒューバートの頭が、アランの肩に乗る。

「はい」


 アラン・アーライルはアーライル家の長男だ。長男は、家督を継ぎ、妻を娶り血を次世代へ家を繋げることが義務だ。だから、絶対に無理だと思っていた。


 聖女アリアはすべての愛は尊いものと説いた。聖アリア教は同性婚と異性婚は同格に扱われる。同性愛を禁止する東のティタイトや南のミハダルから逃れてくる者も多い。


 一方で貴族は、とくに長男は血を残すために女性と婚姻するというのが、ライティーザ王国の暗黙の了解だった。


 アラン・アーライルは男性に惹かれた。女性に関心を持てなかった。女性と交わり子を成すなど考えられなかった。悩みに悩んで両親に打ち明けた。恐る恐る打ち明けたアランに、父におそらくそうだろうと思っていたと言った。

「すまない」

父が察していたことよりも、謝罪の言葉を続けたことに、アランは驚いた。

「お前の望むように生きさせてやりたいと思う。だが、今のままでは、長男であるアラン、お前が家督を継ぐことになる。レオンが何らかの方法で、長男のお前より優れていることを、一族全員に示すことができればよいが。お前達二人の得意は異なっている。単純な勝負では、全員を納得させる結果が出せない。そうなると生まれ順が物を言う。今、レオンに家督を継がせ、お前を長男の務めから解き放つことは不可能だ」


 父の顔には苦悩があった。若かりし頃、姫騎士ヴィクトリアの再来といわれた気丈な母の目には涙が光っていた。


 アランは、父も母もすでに察していたことに驚いた。咎めたりせずにいてくれたことに感謝した。


 事態が急転したのは、イサカの町での疫病の流行だった。ティタイトとの国境にあるイサカの町は、かつて一族を含め多くが亡くなった戦争の始まりとなった因縁の地だ。


 父は、まだ若い成人したばかりのレオンの才覚に賭けた。イサカの町の疫病対策を一任されていたアレキサンダーにレオンを現地に派遣して欲しいと直訴した。最初は、レオンも若気の至りで何かしでかしたらしい。


「何もなかったわけではない。だが、己を顧みてきちんと謝罪し、行動を改め実績を出した。それ故、私は謝罪を受け入れ、実績を評価した。それだけだ」

アレキサンダーは、レオン・アーライルの功績を認め、アーライル家に侯爵位を授けた。先の戦争以来の、アーライル家復興を成し遂げた次男のレオンが家督を継ぐべきだという当主である父の言葉は、一族全員に受け入れられた。


 次男が長男を蔑ろにするのかという意見も一応はあった。だが、直後にアランとヒューバートが結婚し、事情を察したのだろう。アーライル侯爵家の家督相続について、あれこれ言うものはいない。


「二人で暮らせたら、それで十分と思っていたが、子供が欲しいな」

「アレキサンダー王太子様とグレース王太子妃様が、ソフィア姫様を慈しんでおられるご様子を拝見するに、つくづくそう思えてきます」

「あぁ。本当に。ソフィア姫様とミランダは可愛らしい。それに、近づいても泣かないでいてくださる」

アランの言葉にヒューバートが苦笑した。


「笑うな。結構悩んでいるのだから」

「はい。でも私も同じですから」

「好いてくれとはいわないが、嫌わないで欲しい」

アランの泣き言に、ヒューバートがまた笑った。


本日一時間毎に完結まで予約投稿しております。



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