最終話
進藤は最終ステージ内部の説明を始めた。
「最終ステージにタタリンは3体まとめて出ました。場所は大きな立て看板のある所です」
それを聞いた彰子はすぐに思い当った。
「はい。看板ありました! 確か血文字で、仲間がひとりいない……とか書いてありました」
「そう。私が看板に書いてあったことを確認しようと振り返ると、そこにタタリンが3体立っていました…… 恐ろしい顔でこちらを見ていました」
「ええ!?」
彰子は驚いた。自分もあの時振り返ったが、確かに誰もいなかったはず。
「私も周囲を見回しましたが、誰もいませんでした」
「やっぱり! 間違いなく何かの手違いか故障だわ!」
進藤は強く主張した。
次にアナウンサーがB女子大で唯一クリアしたメンバーに話を聞いた。
「あなたこの最終ステージをクリアした訳ですが、あたなの状況も聞かせて頂けませんか?」
「はい。私は4人の一番後ろから付いていったのですが、看板の前に立って、みんなが文字を読み終えた時、全員の姿がタタリンに変化したのをこの目で見ました」
「仲間がタタリンに!?」
「そうです。その時私は瞬時に理解しました。これが最終ステージのトリックなのだと。そのためか、とても冷静になれました」
「なるほど。それで分かりましたよ。つまりこのステージは仲間がタタリンと入れ替わるトリックを使っていたから、一人で入った竹下さんにはタタリンは見えなかった。もしかしたら竹下さん本人がタタリンになっていたということは考えられますが……」
その時Bチーム進藤が目を丸くした。
「何よそれ!? 一人で挑戦した!?」
「ええそうですよ。ご存知なかったのですか?」
アナウンサーが説明する。
B女子大メンバーは、応援団も含めN女子大の経過や結果をまるで知らない様子であった。
その奇抜な作戦にBチーム進藤も驚いた様子。
進藤はアナウンサーに。
「確かに一人で入ったためにタタリンが出なかった可能性はありますけど、タタリンが一回も出てこないのに、クリアと認めるのは不公平ではないですか!? もう一度4人で入ってやり直すべきです!」
アナウンサーもやや困った様子。
「それはどうでしょう…… 現に今、最終ステージのトリックを話してしまいましたから、これから再チャレンジといっても意味があるとは思えません」
「それでも、こんなインチキで優勝が認められるなんて許されるのですか!?」
進藤は一歩も引かぬ姿勢をとった。
アナウンサーが渋々言った。
「それでは審査員長のムラヨシ先生をお呼びして、判断してもらうことに致しましょう。
この事態にムラヨシが呼ばれた。
進藤の抗議が認められるか、N女子大がそのまま優勝か。
それはムラヨシの判断に委ねられた。
「さてムラヨシ先生。今の話お聞きになりましたでしょうか?」
「はい。聞いておりました。私なりに色々考えた結果、N女子大チームの立てた作戦、行動に違反はありません。今回のことは私の設計したステージの穴といいますか、欠点です。N女子大はそこをついた訳ですから、文句のつけようはありません。よって、判定通りN女子大チームの優勝を認めてよいと思います」
「分りました。ということで審査員長の判断が下されました。優勝はN女子大に決定です!!」
一際大きな歓声が沸き起こった。
優勝が決まり、アサギ達は互いに抱き合って喜んだ。
逆にB女子大応援はブーイングの嵐となった。
Bチームの進藤らは納得がいかない様子ながらも、黙ってステージを降りた。
Bチームが会場を去ろうとした時、アナウンサーが呼び止めた。
「B女子大のみなさん! この後、表彰式になりますが、まだあなた方にも特別賞の可能性がありますから残っていただけますか!?」
すると進藤が一言。
「私達は優勝以外、興味ないわ」
そう言うと、会場を去っていった。
表彰式が行われた。
主将であるアサギにトロフィーが渡され、ルカが100万円の賞金を受け取った。
「いよいよ残すは審査員特別賞の発表です。ムラヨシ先生お願い致します!」
「はい。では発表します。今大会はまさに大熱戦でありましたが、最後に見事大逆転を果たしたN女子大チームが、大会を一番盛り上げたのは言うまでもありません。最終ステージの奇抜な作戦を立てた主将のアサギさんも立派でしたが、私はやはり、他のチームがことごとく失格していった最終ステージを、気力で、最後まで歩ききった竹下彰子さん。私の中で今大会もっとも強く印象に残った彼女に、特別賞を贈りたいと思います!」
「ということで、審査員特別賞は竹下彰子さんです!!」
大きい歓声が起き、ステージ上に紙ふぶきが舞った。
その結果を聞き、思わず涙が溢れ、両手で顔を覆う彰子。
美香やアサギたちも自分のことのように祝福した。
そして賞金30万が彰子の手に手渡された。
アナウンサーに一言求められ。
「信じられないです。夢のようです」
と興奮を抑えられない様子で語った。
誰もが惜しみない拍手を送った。
大会が終わり、アサギ達は帰る準備を整え、バスに乗り込もうとした。
そこでB女子大チームのメンバーと鉢合わせた。
バスが隣り合わせということもあった。
アサギはBチーム進藤のもとに近づき声をかけると、相手も気付いた。
「B女子大のみなさん」
「ああ。あなたはN女子大の主将さん」
「はい。今回はなんか…… 正々堂々とした勝ちかたではなかったことは認めます。本当にすいませんでした」
アサギが謝ると進藤は意外な態度を見せた。
「そんなことないわ。正直驚いたよ。最終ステージに一人で挑むなんて。あなたの作戦なんでしょ?」
「はい」
「私には出来ないわね。でも好きよ。そういう大胆な発想」
「とんでもないです」
褒められるとは予想していなかったアサギは、少々照れた。
そこへルカとルミ、彰子も姿を見せた。
進藤は彰子に対しても言った。
「あなた特別賞もらったんですって? おめでとう」
「ありがとうございます」
「あなた…… 話で聞いたけど読書サークルの人なんだって? 驚いたわ。その度胸に。私も昔メンバーを集めるために色んなサークル回ったけど、うちの読書サークルにあなたみたいな子はいなかったわ。この決勝大会に出場できるような子はね」
「わ、私も出場したくは……」
彰子は何か誤解されている気がしたが、気にしなかった。
「とにかくおめでとう。運も実力のうちって言うからさ。今回は私達の負けを認めるわ。でも来年リベンジするからね。また決勝で会いましょう」
「ええ。こっちも頑張るわ」
アサギは力強く返した。
Bチームメンバーは笑顔を見せると、手を振りバスに乗り込んだ。
「――B女子大チーム。本当に凄い人達だわ。今後もいいライバルになれそうかな。正直勝てる自信はないけど、来年もこの舞台で勝負したいわ」
アサギは思った。
こうしてN女子大チームの奇跡の優勝で大会は幕を下ろした。
彰子の活躍は周囲の期待以上であった。
大学に戻ったメンバーは大学中から熱い歓迎を受けた。
当然のことながら、話題もオカサーのことで持ち切りとなった。
彰子は一転、話題の的となったのである。
一番驚いたのは彰子本人ではなかろうか。
大会が始まる前は、まさか自分がNチームを優勝に導き、自らも賞金の4分の1である25万と、特別賞の30万。合わせて55万といった大金を獲得できるとは夢にも思わなかったはずである。
それは彰子にとって、生涯忘れることのできない貴重な夏の思い出となったのは言うまでもない。
同時にこの経験は、彰子に様々な変化をもたらした。
一週間後。
ようやく大会の熱気も冷めてきた頃。
美香は彰子と同じ読書サークルに入ることになり、部員からも温かく迎えられた。
以前と違い二人が会う機会は格段に増えた。
その日、いつものように大学の講義が終わり、図書室で二人、本を読んでいるとそこへアサギが姿をみせた。
「やっほ~ お二人さん」
「アサギさん」
「元気そうね。それよりどう? 二人でオカサーに入る話、考えてくれた? 正式部員として歓迎するわよ~」
「そ、それは…… 結構です……」
その問いには常に遠慮がちの二人であった。特に彰子は……
「そう? それよりも大会で優勝したお陰で、オカサーもようやく様になってきたっていうか。部員も新たに5人増えたのよ」
「本当ですか? やっぱり大会の影響は大きかったのですね」
「まあね。それだけじゃないの! オカサーがN女子大の公認サークルに認定されることになったのよ!」
「ええ~! それは凄いですね!」
「本当に嬉しくてさ~ これもあなた達のお陰だからね。本当に感謝しているわよ」
「いいえ。私の方こそ、すごい大金が貰えちゃって、本当どうするか困っているんです」
「好きなことに使えば? 欲しいものとか一杯あるんでしょ?」
その問いに考え込む彰子。
今は特別欲しいものはなかった。
「まあ報告はこんなところ。じゃあまた顔出すわね。あなた達もよかったらオカサーに遊び来てよ」
「ええ。きっと……」
あのサークル部屋には、未だに抵抗のある彰子であった。
アサギは以前に増して活き活きとしていた。
大会の緊張から解放されたためであろうか。
それは彰子と美香も同じであった。
美香がふと聞いた。
「ねえ彰ちゃん。獲得したお金の使い道ってあるの?」
「そうねえ。今のところはないんだけど、しいて言うなら読みたい本は一杯あるから、私もアサギさんみたいに読書サークル発展のために使おうかなって思ってる」
「それすごいわ」
「美香も何か読みたい本があったら私に遠慮なく言ってよ」
「本当に!? さっすが彰ちゃん。実はあるのよ」
美香がさっそく一枚の紙を取り出した。
そこには自分でメモした書名が10冊ほど書かれていた。
「これ全部!?」
「うん」
まるで母親におねだりする娘のようだ。
「しかも何!? 全部、怪談だの心霊スポットだのって、そんなのばっかりじゃない!」
「そうそう。いいでしょ?」
「あなたってやっぱりこういうのが好きなのね? いっその事オカサーに戻ったら?」
「もう彰子の意地わる~」
「わ、分かったわよ~」
彰子は財布を開けた。金を手渡すと言った。
「そのかわり買って読んだら、ちゃんと図書室に寄付してもらいますからね」
「分かってるって。じゃあ先帰るね~」
「うん。バイバイ」
上機嫌な美香は足早に図書室を出て行った。
最近では、美香は他の仲間ともすっかり打ち解けていた。
美香の姿がなくなり、サークル仲間が彰子に。
「ずいぶん気前がいいのね」
「まあね。私もアサギさんを見習っていこうと思って」
「へえ~」
「最近ちょっと思ったんだけど…… 私、アサギさんのことを尊敬しているみたい」
「それマジ? 人って変わるものね~」
「本当にそう。今回の大会も今になってみれば、出て良かったって思えるし」
仲間はつくづく感心していた。
「ねえそんなことより彰子! 美香さんと一緒に帰ったほうがいいんじゃない? もう外暗くなってきたよ」
「いいよ。もうちょっとこの本読みたいから」
仲間はその言葉に驚いた。
「残るって、あなた暗くなっても平気なの!?」
それに対し照れくさそうに彰子は答えた。
「うん。この前の大会以来、暗い道でも平気になっちゃった」
「嘘~ 一体どういうこと? 凄い変わりようね」
「変わったというか、人並になっただけよ」
「まるで別人ね。あなたその内、オカサーに入りたいなんて言い出さないでしょうね!?」
「それは絶対にありませんから~!」
図書室に笑い声が溢れた。
おしまいです。
季節違いな作品でしたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。