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第8話


アナウンサーの一言に、誰もが息をのんだ。

「ええ~~~!!?」

美香、そして読書サークル集団も驚きの声を上げた。

美香は嘘だと思った。自分の聞き違い。もしくはアナウンサーの言い違いに決まっている。

「――彰子がひとりで? 何がどうなっているの?」

とても理解できなかった。アサギさん達の身に何か起きたのかとも思った。

読書サークルの仲間からも批判の声が。

「何考えてるの!? なんで彰子ひとりなのよ! 酷いじゃない!」

しかしそれは紛れもない現実。

またそれはN女子大チームが決めたこと。

なので、誰にも覆すことはできなかった。

「それでは最終ステージ! ラストを飾るN女子大チーム…… ではなく…… 竹下彰子さんのスタートです!」

そして、会場がざわつく中、挑戦が始まってしまった。

挑戦者は『彰子』ただ一人である。

その時、N女子大以外のA大学、B女子大のメンバーや、その関係者は会場にいなかったため、この現状を知る由もなかった。

美香はモニターを見て、そこに写っているのが、確かに彰子であることを確認すると涙が出てきた。

手を合わせてひたすら祈った。もはやそうすることしかできなかった。

「――彰子! もういいから棄権して! あなたは十分頑張ってくれたんだから」

読書サークルから野次が飛ぶ。

「なんで他のメンバーは一緒に入らないのよ~!! 彰子だけに押し付けるなんて卑怯よ!!」

そこでアナウンサーは独断で考えた、この作戦の意図を説明した。

「しかしこれは思い切った作戦に出たものです。おそらくB女子大との差が200スクリームということで、4人では無理と判断したのでしょう。しかし最後の勝負にN女子大は竹下さんをたててきました。竹下さんはここまで、いまひとつ目ぼしい成績を残せていません。この起用に意味はあるのでしょうか!?」

まさかジャンケンに負けただけという理由だとは、誰も知らない……


そして彰子は。

「――始まっちゃった…… 恐いな~。何が出るんだろう~ とにかくゆっくり歩こう」

屋敷に入って2分。

彰子は直前にアサギと話した言葉を思い出した。

『悪く思わないでね。今までと同じように、無理はしなくてもいいから……』

『分かりました……』

『ただしこれだけは聞いて。第1ステージや第2ステージの時みたいに、何も起きていないのに、勝手にリタイアするのはやめて』

『リタイアしちゃ駄目なんですか?』

『そうは言わないけど、リタイアするなら然るべき場所でするようにってこと。前みたいに屋敷に入るなりリタイアとか…… そういうの笑いものになるからね』

『然るべき場所って?』

『例えばお化けが出たり。このステージにも、どこかにタタリンは出るはずだから、出来ればそこまで我慢して。タタリンでリタイアだったら誰も文句は言わないわ。会場にはN女子大の応援が沢山来ていることを忘れないで』

『タタリン?』

『そうか。あなた見ていないのよね…… いわゆる女のお化けよ。でも大丈夫。凄く可愛いくて、優しそうな感じだから』

『分かりました。自信ないけど、やるだけやってみます』

『お願いね。今回は私達がフォローしてあげられないけど、頑張って』

こうして肩をたたかれ送り出されたわけだ。タタリンが可愛いなんて絶対嘘だということくらい感づいていた。恐怖心を与えないための工作であることくらい。

しかしアサギも心身疲れ果て限界であったのだろう。

普通ならば彰子がジャンケンで負けた時でも、優勝のために自分が行くと自ら買って出るタイプの人間だ。

それがなかったということは、すでに勝負を投げ出したものと彰子は勝手に認識していた。

それがかえって気持ちを楽にさせた。

今回も前回のステージ同様、入口で逃げ出してしまうかもと心配したのだが、この最終ステージは赴きが違った。

第1、第2ステージは、舞台が学校と病院といった屋内だったのに対し、今回は屋外であった。

井戸があちらこちらに点在し、古びた民家が見える。草は生い茂り、時刻は夕暮れ時といったシチュエーションであった。

彰子にとっては意外であった。お化け屋敷の中にいることを忘れそうな光景だ。

少しは進めそうかと思った。

ゆっくり歩き続けた。

生き物のいる気配はない。

何よりも暗闇でないことが彰子にとっては救いであった。


控え室で見守るアサギらも、祈る気持ちで電子パネルを見ていた。

ルカがスクリーム値を見て驚いた。

「アサギさん凄いですよ。まだ0スクリームです。あの竹下さんが」

「ホントね。最終ステージは後半に恐怖ポイントがまとめてあるみたいね」

「竹下さん、ひとりで行っちゃったけど、気絶とかしなければいいけど……」


彰子はゆっくりであるが、沈み行く夕日を見ながら落ち着いて歩いていた。

風もなければ、恐ろしい効果音などもない。

「――最後までこんな状態が続けばいいのに……」

そう思っていた。

しかし屋敷に入ってから10分後。

日は沈み、辺りに闇が落ちてきた。

「――さあきたぞ。暗くなってきた。でもまだ少し明るいから行けるところまで行くしかないわね」

彰子は夕方の学校の帰り道をイメージして足を動かし続けた。

気のせいか。周りの風景は彰子の生まれ故郷に似ている気がした。

どことなく子供のころに返り、夕方まで遊んだあのころを思い出したりする。

回想にふけようかと思う彰子の前に、突如大きな看板が見えてきた。

古びた奇妙な立て看板。

それによって一転、現実に引き戻される彰子。

なにやら字が書いてある。

それは血文字で書かれていた。

「いやああ。恐い恐い恐い……」

彰子は怯えながらも字を読んだ。こう書かれていた。

『仲間がひとり、いないよ』

彰子には意味が分からなかった。

周りを見回してみる。

しかし誰もいない。

当然である。いるのは彰子だけだ。

「なんだろうこれ。控え室にいる仲間は関係ないよね……」

いささか考え込む彰子だったが気にせず先に進んだ。

しかし日はみるみる落ち、ついには完全に暗闇となった。

あちらこちらに外灯の明かりが灯る。

「ついに真っ暗になっちゃった! でもアサギさんに言われていたっけ。お化けが出るまでリタイアしちゃいけないって。我慢我慢……」

心臓は高鳴っていたが足取りはしっかりしていた。

子供の頃、遅くまで遊んでいる内に日が暮れて、迷子になったことがあった。

家に帰る道が分からなくなってしまい、何処までも歩いていた日の記憶が甦ってきた。

「――あの時を思い出すな~ 恐くてひとり歩き回って、最後はパトカーに乗せてもらって帰ってきたんだっけ~」

彰子は過去の回想をすることで、恐怖を和らげていた。

「――あの時は偶然近くにお巡りさんがいて、私に気付いてくれたんだった…… 懐かしいな~」

すると前方に赤い光のようなものが。

「あれ、なんだろう?」

彰子はパトカーのサイレンと見間違えた。

無意識に足はそちらに向かった。


控え室のメンバーは中の様子がまったく把握できていなかった。

「アサギさん。竹下さん入ってもう15分ですよ。いまだにスクリーム値が90ってどういうことでしょう?」

「分からないわ」

「もしかして中で気絶しているってことないですか?」

「それだったらスクリーム値がもっと跳ね上がるでしょ?」

「でも、声を出す間もなく失神することもあり得るでしょ?」

「あるけど、もし倒れていたら失格のブザーが鳴るはずだわ」

「機械が故障しているんじゃ? だってあの子がリタイアしていないどころか、スクリーム値が90なんてどう考えてもおかしいわ」

「そう言われればそうね。もう入ってから時間は経っている。今までの2チームが失格者を出した恐怖ポイントに到達してもいい時間帯だものね」

アサギは立ち上がると係員のもとに駆け寄った。

「あの、今挑戦している竹下彰子なのですが、中で気絶して倒れているってことは考えられませんか?」

しかし係員は首を横に振る。

「その心配はありません。中の様子は会場のほうでしっかり見ていますから。まだ挑戦中ですよ」

「本当に??」

アサギは信じられなかった。

ルカとルミの元に戻ると二人に言った。

「たぶん…… ちんたらちんたら歩いているのかも。あの子のことだから恐くてまともに歩けないのよ」

「そうなのかな……」

そんな話をしている時だった! アナウンサーの絶叫が響いた。

「し、信じられない軌跡が起きました! たった今、赤いドアが開き、N女子大の竹下彰子さんが出てきました!!」

アサギ達は我が耳を疑った。

「なんと90スクリームでゴール! ということは、まさかのN女子大!! 大逆転での優勝!!」

アサギ達は呆然とそのアナウンスを聞いていた……



一方会場では、フラフラになりながらもゴールにたどり着いた彰子に割れんばかりの歓声が起きていた。

彰子はステージの眩しいライトと歓声を浴び、自分がゴールしたことを知ると、気が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

アナウンサーが近づき手を貸した。

「大丈夫ですか?」

しかしステージに駆け上がり、彰子のもとに駆け寄る人物がもう一人いた。

美香であった。

彰子の体を抱きかかえると呼びかけた。

「大丈夫!? 彰ちゃん!?」

うつろな目が美香をとらえる。

「美香? どうしてここに?」

かすれた声で聞く。

「心配になって来ちゃった。彰ちゃん本当に凄かったよ!」

彰子は夢の中にいるようであった。

「私…… ゴールしたの?」

「したよ! ひとりで! しかも優勝だよ!」

「よかった…… 少しは役に立てたんだね」

「本当に凄いよ!」

そこへ控え室からアサギ達3人がステージに駆けつけた。

真っ先に彰子に駆け寄る3人だが、すぐに美香の存在に気付いた。

「美香! 美香じゃない!」

「木田さんどうしたの!? 何でここに?」

「はい…… やっぱり心配っていうか、みんなの事が気になっちゃって」

「そう。応援に来てくれたんだ」

「はい。みんなにはホント迷惑かけてすみませんでした」

美香は心から詫びた。

同時に胸につかえていたものが、す~っと取れた気がした。

アサギ達の反応は温かかった。

「気にしなくていいわよ」

「そうよ。あなたは私達と一緒に予選を戦った仲間ですもの」

「応援に来てくれてありがと」

美香は嬉しかった。自然と涙が溢れてきた。

そんな美香にアサギが笑って。

「ちょっと誤解しないでよ。主役はあなたじゃないのよ」

「そうよ。竹下さん、本当によくやったわ!」

「私達が優勝なんて信じられないわ!」

「竹下さん大丈夫? 立てる?」

彰子は仲間の手を借り立ち上がることができた。

アナウンサーが声高々に。

「さあみなさん! 見事優勝を果たしたN女子大チームです! そして予選大会で活躍した木田さんも、駆けつけてくださいました! 盛大な拍手をお願いします!!」

会場は沸き立った。

しかしその異様な盛り上がりにB女子大関係者が気付いた。

もはや自分達が優勝したものと疑わなかったB女子大チームのメンバーとその応援団が会場になだれ込んできた。

主将の進藤がアナウンサーに尋ねた。

「ちょっといったいどういうこと!? 何の騒ぎこれ!?」

「なんの騒ぎって…… N女子大があなたがたを逆転して優勝したために起こった騒ぎです」

「ちょっとどういうことそれ!? そんなはずないわ! 何かの間違いに決まっている! 第一私達は200スクリーム差だったのよ。負けるはずがないわ!」

「あなた方はN女子大の挑戦を見ていなかったようですね?」

「見ていなかったわよ。見るまでもなかったからね」

「N女子大は最終ステージを、わずか90スクリームでクリアしました。堂々の優勝です」

「90なんて絶対にありえないわ! 機械の故障よ! ちゃんと調べてよ!」

「いいえ。故障なんかではありません」

激しく言い寄る進藤。それを後押しするのはB女子大の応援団であった。

その時彰子が言った。

「あの~私の話を聞いてもらえますか?」

全視線が彰子に集中した。アナウンサーがどうぞと促す。

「私が90スクリームでゴールしたのは間違いないと思います。ほとんど声は出しませんでしたから…… でも故障かな?と自分で思う点があります」

「それは何ですか?」

アナウンサーは興味深そうに聞く。

彰子は包み隠さず答えた。

「私が屋敷内にいる間。一回もお化けに会いませんでした。タタリンという人もまったく現れませんでした……」

その言葉に皆驚いた。

確かに誰もが不思議に思っている点もあった。

あまりに何事もなく彰子がゴールに到達している。

他のチームは途中で散々な結果になっているのに対し、彰子のチャレンジは順調すぎるのである。

アナウンサーが彰子に聞いた。

「タタリンが一体も出なかったというのは本当ですか?」

「はい」

「あなたが気付かなかっただけでは?」

「そんなことないと思います。まるで音ひとつない状態でしたから」

その言葉にBチーム進藤が。

「ほらみなさい! それ間違いなく故障よ! この最終ステージにはタタリンが3体出るのよ! しかも超至近距離で。それで私達はほぼ全員失格になったんだから」

「3体!?」

彰子は驚いた。すかさずアサギが彰子に聞く。

「本当にタタリンでなかったの?」

「はい。いませんでした。第一出たら私がクリアできるはずないです」

「それもそうか……」

彰子のことをよく知るメンバーは頷く。

アナウンサーがBチームの進藤に聞いた。

「できれば詳しく教えてください。どの辺でタタリンは出たのか? その状況を」

「分かりました。お話します」

進藤の発言に注目が集まった。


次回(最終話)→29日予定

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