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第7話


そして、ついにその時がきた。

最終ステージのセットが完了した。後は開始を待つのみ。

控え室に集まるどのチームにも緊張の色は見えた。恐怖と緊張と気合が入り混ざった独特な空気となっていた。アナウンサーの声が響いた。

「さあいよいよ最終ステージです! 果たしてこのステージを制し、優勝を手にするチームはどこなのか!? このステージもA大学からのスタートです!」

円陣を組んで気合を入れたAメンバーは、赤いドアを開け中に入っていった。

控え室で待つ全員にも、緊張感が伝わってくる。

電子パネルから目が離せなかった。

開始早々、Aチームのスクリーム値は予想外に安定していた。今までのペースでは、序々に10や20ずつ上昇することが多かったが、数値は0からまったく動かなかった。

ルカが言った。

「アサギさん。最終ステージは、そのわりに穏やかなのかも」

「まだ分からないよ。それに、前のチームの状況を見て、こっちで勝手な予測を立てるのはやめたほうがいい。私はそう決めたからね」

「そうですね……」


10分が経過。しかし未だにスクリーム値は20であった。

今度はルミが。

「アサギさん。どういうことでしょうか? 本当に何もないんですか?」

「う~ん。分からないけど、最終ステージだけスクリーム値の基準が変わったのかな……」

「この様子だと私達もクリア出来そうですね」

そんな言葉を口にしていた時だった! 

突然、これまで穏やかであったスクリーム値に異変が!

20から200。200から400。400から800。800から1200!

そして次々に×印がパネルを埋め尽くし、瞬く間に×4つとなった。

一瞬の出来事であった……

パネルを見ていたBチームもアサギらも、何が起きたのか瞬時に把握できなかった。

機械の故障かと思った。

しかしアナウンサーの声で、それが現実のものと分かる。

「ああ~~っと!! 何ということでしょう! Aチームまさかの全員失格!! しかもスクリーム値は1590だ! いったいどうしたのか~!? 何が起きたのか!!?」

会場からどよめきが起こった。

「A大学が全員失格!?」

アサギの口からも驚きの声が漏れた。

赤いドアから出てきたAチーム4人の顔は青ざめていた。

いったい彼女達は何を見たのだろう……


次は注目のB女子大である。

BチームはAチームの事態を目の当たりにしても、まるで動じる様子はなかった。

落ち着き払っていた。

「いったい何なんだ、あいつらは……」

思わずそんな言葉がアサギの口からこぼれた。アナウンサーの声が。

「さあこれは驚きました。ムラヨシ先生の言っていたのはこのことだったのでしょうか! これまで第1、第2ステージを順調にクリアしてきたA大学がまさかの失格! どうなってしまう最終ステージ。しかし次はB女子大。ここまでずば抜けた成績で、一人の失格者も出さずに進んできました。注目いたしましょう。B女子大チームです!」

そしてBチームが赤いドアを開けた。

アサギらの緊張は高まる一方であった。

彰子はというと、心ここにあらずといった様子でぼんやりと状況を見ていた。

Bチームも出だしは順調に、スクリーム値0を維持した。

いつになっても0から動く気配がないほどの安定感を見せた。

しかし入ってから8分。またしてもそれは起きた。

突然スクリーム値が急上昇。

瞬く間に200…500…800…と増え、×印が付いた。

そして×の数が増えてゆく。

Aチームの再現を見ているようであった。

アナウンサーの叫び声が響く。

「なんてことでしょう! あのB女子大チームまでもが、この悪魔の罠に飲み込まれてしまったか!? スクリーム値が上がってゆく!! そして失格者がまたしても続出~!! B女子大も全員しっか…… おや、待ってください! 残っています。1人だけ残っています! B女子大チーム、3人が失格となりましたが、かろうじて1人残っていました!」

そして、その3分後。

「今、赤いドアが開いてB女子大のメンバーが出て来ました!! 見事最終ステージクリアです!!」

これまでにない歓声が沸き起こった。

控え室の赤いドアが開き、失格になったBチームの3人が、疲労の色を見せながらも、喜びの表情を浮かべ出てきた。

そして見事ゴールしたメンバーも控え室に飛び込んでくると、全員で抱き合った。

ゴールしたのは主将の進藤ではなく、別のメンバーであった。

「それにしても驚きました! 一時はA大学に続いて全員失格の危機かと思われましたが、一人でよく頑張りました! しかしここまでまるで隙のなかったB女子大チームがこのような事態に陥るとは、誰が予想したでしょうか! いったいこの屋敷の中に何が潜んでいるのか!? なんだか私まで恐ろしくなってきました。さあ注目のスクリーム値は、なんと1300スクリームです! これで全ステージ合計すると1700スクリーム! この後ラストに登場するN女子大の現在のスクリーム値が1500なので、その差は200! これでB女子大、優勝に大きく近づきました!」

喜びがおさまらないBチームは控え室から飛び出すと、会場にいた応援団に囲まれ、さながら優勝が決定したかのような騒ぎとなった。


会場は失格になったA大学、優勝をほぼ手中にしたB女子大の応援が減り、N女子大の学生とその応援が大半となった。人の数はピーク時のほぼ半数ほどになった。

「これはB女子大! 完全に優勝を確信しているようですが、まだN女子大チームが残っています! 最後、頑張ってもらいましょう!」

B女子大の応援団の、割れんばかりの歓声と熱気で、アナウンサーの声が控え室まで届かぬほどであった。

Nチームはひたすら気持ちを落ち着かせ、集中していた。

そして出番が回ってきた。ルカが聞く。

「アサギさん。どうします? 優勝は絶望的ですね」

アサギは真剣な面持ちで何かを考えているようで口を開かなかった。なのでルミが対応した。

「でも、もしこの最終ステージをクリアできればA大学よりも上にはいけるってことでしょ?」

「それもそうね。たとえスクリーム値が高かったとしても、失格さえしなければ準優勝できる」

「ビリじゃなければ私達のメンツも十分じゃない?」

「でも大丈夫かしら…… だってAチームばかりか、B女子大チームまであんなに失格者を出してるってことは、桁違いの恐さってことでしょ? 私達の全員失格も目に見えてない?」

「それはやってみないと分からないでしょ?」

「私、アサギさんからこのステージの先頭を任されたけど、今になって正直ちょっと自信なくなってきた……」

「それは分かるけど、みんないるから大丈夫よ」

「どう考えても失格になるのは目に見えているし…… ねえ、どうかしら? もう棄権できないかな……」

「棄権!? それじゃ賞金もゼロじゃない。私達がこの大会に出たのは、賞金を獲得するためでしょ?」

「そうだけど、どう考えても優勝は無理な訳だし……」

「準優勝だって特別賞がもらえる可能性は十分あるわけだから諦めちゃダメ!」

「そうね。でも困ったわ~ アサギさん! アサギさんはどう思います!?」

その問いかけに、アサギがついに口を開いた。

「私達が目指すのは優勝だけよ」

「ゆ、優勝!? でも今の状態から逆転するためには200スクリーム以内でクリアしなければ…… そんなの無理に決まっています」

「そこで何かいい方法はないかって考えたんだけど…… これに決めたわ!」

次のアサギの一言に、ルカ、ルミそして彰子は耳を疑った。

「この最終ステージは…… メンバー誰か一人で挑戦するわ!!」

「ひ、独りで!!?」

「そうよ。4人で挑戦したら1人50スクリームでアウトになるけど、一人だったら200スクリームまでの余裕が出る。優勝するには、これに賭けるしかないわ」

「それはそうだけれど、あのB女子大でさえ、4人でもギリギリだったこのステージを、1人でなんて考えられません! 絶対無理です。それともアサギさんが一人で行くとか?」

「いいえ。ジャンケンで決めましょう!」

その言葉に3人はさらに戸惑った。

中でも他人事でないのが彰子であった。彰子は恐る恐る聞く。

「ひとついいですか?」

「何、竹下さん?」

「私もそのジャンケンに参加しなければ?」

その質問に対するアサギの答えは冷酷なものであった。

「もちろんよ」

彰子は目の前が真っ暗に。そして反射的に。

「無理です! 一人でなんて!」

しかしアサギは甘さを見せなかった。

「この場に及んで泣き事言わないで。恐いのはみんな一緒だし。無理だと思うのもみんな一緒。あなたも最後くらいはチームの一員として参加してもらうわ!」

「でも無理はさせないって……」

「確かにそうは言ったわ。でもね…… 私達が第1ステージと第2ステージで、どのくらいの恐怖に耐えたかあなた分かる?」

アサギも追い詰められていた。

気持ちの余裕などなかった。

また、以前同じような局面で、ルカとルミが彰子のフォローに入ったことがあったが、今回はそうはならなかった。

ルカとルミもアサギの肩を持ち彰子に言った。

「そうよそうよ。あなたはすぐ喚き散らして逃げ出すからわからないでしょうけど、アサギさんはずっと先頭で、第1ステージでは割れた窓ガラスから現れたタタリンの恐怖、第2ステージでは失格になったけど、タタリンが足にしがみついたり…… その恐怖あなた分からないでしょ!?」

「でも、私はオカルトサークルではありません」

「そんなことは分かってる。でも考えてみてよ。私達だってこの春にサークルを作ってまだ半年。それまではあなたと同じ普通の学生だったのよ。あなたとさほど差はないわ」

「私も自分なりに頑張ったつもりです」

「よく言えるわよね。あなたなんて何? 第1ステージでは風の音に悲鳴上げて逃げ出すわ、第2ステージでは猫の鳴き声で逃げ出すわ! いい迷惑なのよ!」

「――酷い。あんまりだわ……」

いじめに近い状態。

彰子の目からは大粒の涙がこぼれた。

第1と第2ステージの極度の恐怖が、おそらくルカとルミの感情を狂わせていたのか……

もしくはAチームとBチームのあまりにも悲惨な結果を目にし、怯えていたのか……

アサギはさらに。

「それにもし優勝したら、あなただって賞金の25万をもらえる権利があるわけだから、参加する義務があるわよ」

「私…… 賞金なんていりません」

しかし時間は待ってはくれなかった。

係員が開始の準備を迫った。

アサギは慌てる。

「もう言い争いしている暇はないわ。ジャンケンいくわよ!」

アサギの掛け声でジャンケンが行われた。

瞬間的に彰子も涙でぬれた手を、その中に投げ出した!



会場では美香が祈る気持ちでN女子大のスタートを待っていた。

彰子のサークル仲間の声が美香の耳に入る。

「どう考えても無理でしょ~ やっぱ彰子が入った時点で負けが確定していたのよ」

「最終ステージまで来ただけでも上出来じゃない?」

「彰子はもう出る必要ないよね」

「まったくよ。他の3人だけで十分よね」

言葉ひとつひとつに、美香の胸は痛んだ。

そんな時、進行役アナウンサーから報告が……

そして、その言葉に会場中が衝撃を受ける……

「みなさん聞いてください。ここでN女子大チームについてのお知らせです。控え室の係員から報告が入りました。N女子大は、なんと! この最終ステージを、たった一人で挑戦するそうです!」

その意味が分からず、静まり返る会場。

「そして、挑戦するのは……」

会場を緊迫した空気が包む。


「竹下彰子さんです!!」


次回→26日

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