第6話
1時間後。舞台の設置が終わり、第2ステージが始まった。
第2ステージもAチームの挑戦で始まった。
またしても電子パネルに目が釘付けとなる控え室のメンバー達。
誰もが、そのパネルの変動などからステージの内部を予想するのであった。
自分達の挑戦の時に、その知識が活かせるからである。
しかし間違った予想をしてしまうと、第1ステージのアサギ達のように、気楽に行きすぎて、逆に手痛い目に遭うこともある。
また恐怖が増幅してしまう可能性もある。
その辺りも駆け引きなのだ。
Aチームは常に先入観ゼロの状態でステージに臨もうと、先方をあえて選ぶという作戦だった。
各チームとも独自の作戦を考えていた。
Aチームは順調に進んでいたが、開始3分。突然スクリーム値が0から250に跳ね上がった。そしてブザーが鳴り、一人の失格者を出した。
赤いドアを開け、控え室に戻ってきたAチームメンバーの表情を見ても、第1ステージよりも遥かに恐ろしく、手ごわいに違いないと誰もが予感した。
Aチームはその後も一人の失格者を出し、540スクリームで第2ステージを突破した。
アナウンサーの声が聞こえる。
「さあ! A大チームは540スクリーム。第1ステージから通算すると960スクリームとなります。しかし第1ステージを軽々全員でクリアしたAチームが、二人の失格者を出すというところから見ましても、このステージの難易度が伝わってきます! さて次はB女子大です!」
Bチームの挑戦が始まった。
注目の結果は、開始からわずか10分後だった。
「おおっと!! B女子大チームが出てきました! しかもこれは凄い! 失格者ゼロの全員クリア! スクリーム値も220!! 1ステージから通算しても、400スクリームという圧倒的なスコアだ!! これが前大会優勝大学の実力か~」
一際大きな歓声が響いた。
B女子大の応援団の熱狂が伝わる。
「さて続いてはN女子大です!」
その声に、アサギは立ち上がると声をかけた。
「よし! みんな行くわよ!」
「うん、頑張ろう!」
メンバーが一斉に立ち上がった。
アサギは一端冷静になると、一人一人に注意点の確認を行った。
「まず、ルミはいつもどおり楽しく話し続けて」
「分かった」
「それとルカは、今回ルミと代わって3番目から付いてきて。私かルミに何かあったら冷静に判断してよ」
「OK」
「最後に竹下さんだけど……」
「はい!」
彰子は極度の緊張からか、異様なほどハイテンションになっていた。
それを落ち着かせようとアサギも声を静めて。
「たぶんこのステージも恐いとは思う。もし恐かったら失格になってもいいけど、絶叫したり悲鳴を上げるのはなるべくやめて。私達もつられて、ポイント的に大きなロスになっちゃうから」
「はい…… すみません……」
彰子は反省した。
しかし彰子自身、必死に我慢してはいるのである。
「じゃあいくわよ!」
再び円陣を組んで気持ちをひとつにしたNチーム。
赤いドアを開け、屋敷の中へと足を踏み入れた。
しかしまたしてもそのわずか2分後。勢いよくドアが開くと彰子が飛び出してきた。
ハアハアと呼吸が荒くなっている。
さながら2分間でマラソンを走り終えたかと間違えそうなほどの変わりようである。
やれやれといった様子で係員が彰子を椅子まで連れて行く。そしてお茶を出す。
パネルはすでに360スクリームになっていた。
彰子は気持ちでは頑張ろうとは思うのだが、体が勝手に逃げ出すのであった。
気が付くと目からは涙がこぼれた。
恐怖からか。不甲斐なさからくる悔し涙か。
おそらく両方であろう。
しかし第2ステージはN女子大チームにとって、かつてない過酷さとなった。
開始10分のことであった。
スクリーム値が突然680にまで跳ね上がった。そして一人の失格者を出した。
赤いドアを開けて控え室に戻ってきたのは、なんとアサギであった。
チームの柱であるアサギがまさかのリタイア。そのわずか数分後。今度はルミが失格となった。
第1ステージをクリアした2人の失格で窮地に立たされたN女子大チーム。
スクリーム値は820になっていた。
しかし直前のアサギの指示通り、ルカが役目を果たした。
アナウンサーの叫び声。そして会場が沸く。
「今出てきました! N女子大チーム! 三人が失格となりましたが、最後、一人になりながらも見事ゴールに致しまして、かろうじて第2ステージクリアです! しかし結果は820スクリーム。トータルにすると1500スクリームとなり、この時点で優勝は厳しくなりました!」
控え室にルカが戻ってきた。アサギとルミは立ち上がった。
「ルカありがとう。よく頑張ってくれたわね」
「うん。恐かったけどね。スクリーム値も抑えられなかった」
「いいよいいよ。これで最終ステージに進めるんだもの」
「でも優勝は厳しくなったわね……」
「こうなったら、後は最後までやるだけでしょ!」
「ここまで来たんだから、そうよね」
ステージクリアを喜ぶメンバー達。するとアサギがルカに。
「ちょっとルカにお願いがあるんだけど……」
「何ですか?」
「最終ステージはあなたに先頭をお願いしたいの」
「ええ? 私が?」
戸惑ったルカであったが、アサギを察した。
「分かりました。アサギさんずっと先頭でしたもんね。今度は私が代わります。でも期待はしないでくださいよ」
「ありがとう。最終ステージもクリアして、全ステージ制覇を目指して頑張りましょ」
「ええ」
アサギ、ルカ、ルミは疲労感こそみられるが気持ちを入れなおした。
彰子は話は聞いていたが、まだ立ち上がれなかった。
「――大丈夫。アサギさん達が全部やってくれるんだから、私は何もしなくていいのよ」
自分の心にそう言い聞かせていた。
しかし心のどこかに、自分が大きく足を引っ張ってしまっていることへの責任感も感じていた。
そして、残すは運命の最終ステージのみとなった。
最終ステージ開始にあわせて、会場には人の数も多くなってきた。
進行役アナウンサーがステージに上ると、ムラヨシも姿を見せた。
「さて最終ステージがまもなく行われますが、ムラヨシ先生。ここまでの展開をどうご覧になっていますか?」
「はい。正直どのチームも私の予想以上でした」
「なるほど。さすがに厳しい予選を勝ち抜いたチームということでしょうか」
「そうですね。中でも驚いたのは3チーム揃って最終ステージに残ったことですね」
「そうですか~ 3チームの中でも格の違いを見せ付けているのがB女子大でしょう。なんとここまで一人の失格者も出していません! これについてはいかがですか?」
「まさに驚きですね。ここまで400スクリームという数字も驚きです。これは自慢にはなりませんが、私もこの屋敷を作ったときに、自分でも入ってみて試しましたが、2つのステージを終えた時点で500スクリームを越えていましたから。ハハハ」
「先生でさえも!? これは面白い話を聞きました。それだけ恐いということですね。しかもお一人で500ということは、B女子大チームは4人でさらに低いスクリーム値で抑えているということですから、これがいかに凄いことかが分かります」
「同感です」
「さてそうなるとですね~ムラヨシ先生? 最終ステージもあっけなく突破されてしまうのではないでしょうか?」
「ハハハ。ところがそうはいきませんよ」
「おや? これは意味あり発言ですか?」
「私は昨年も、この決勝大会でB女子大チームに楽々と攻略されてしまいましたからね。今年はそうはいくまいと力を入れました。特にこの最終ステージ。私もまだ自分で体験すらしていません。というより恐くてできないというのが本音です。スタッフ数人に試してもらったところ、皆数日間は、ろくに睡眠が取れなかったと話しています。もちろん男性スタッフですよ」
「ななな、なんと~ これは最終ステージにして最恐のステージであることに間違いはなさそうです!」
「詳しくは語れませんが、何が起きるかは分かりませんよ……」
「これは爆弾発言です。ますます最終ステージが見ものです。楽しみになってきました!」
見所を語るとムラヨシはステージから降りた。
「さあ、会場にも人の姿が多くなってきたように感じます! まもなく運命の最終ステージです。果たして優勝するのはどの大学か!?」
運命の時が近づくにつれ、アナウンサーもヒートアップしていった。
ちょうどその頃、会場に一人の女子大生が姿を見せた。
人の山に身動きが取れないながらも、背伸びをして辺りをキョロキョロと見渡す。
「――う~ん。彰ちゃんいないな~。心配になって見に来ちゃったけど…… 大丈夫かな……」
紛れもない、美香であった。
大会直前のドタキャンもあり、顔を出しづらかったのだが、彰子が心配になって会場に駆けつけたのである。
到着したばかりの美香が周りをキョロキョロしていると、近くで『彰子』という名を誰かが口にした。
耳をそばだてると、どうやら彰子の話をしているらしい。
N女子大の学生のようだ。
「まったく彰子ときたら全然ダメなんだから~」
「仕方ないわよ、読書サークルだもん」
「私達だって代わりに出たら同じようなもんじゃない?」
「それでも、屋敷に入るなり、すぐ喚いて飛び出すのは酷すぎない?」
「その恐さは彰子にしか分からないわよ。だって私達はあの特殊めがねをしていないから…… モニターに写る画面は全然恐くはないけどさ。彰子はめがねをしてあの中にいる訳だから、その恐さは私達には分からないわよ」
「それに彰子は人一倍恐がりだものね~」
「やっぱり止めてあげたほうがよかったのかしら……」
「でも仕方なかったのよ。オカサーのメンバーに穴ができちゃったから。それも例の彰子の友達だっていうし。あの子が出るしかなかったんじゃない?」
「出たのはいいけど、ここまで完全な足手まといになっているわよね」
「なんだか彰子の友達っていうだけで、ちょっと私恥ずかしいわ~」
「それは言いすぎじゃない? 彰子も頑張っているわけだし……」
「それはそうだけど」
「でも他の3人はちゃんとステージクリアして、こうして最終まで残ったわけだから、それは立派よね?」
「そうね。私達はこれ以上彰子が恥をさらさないように願うだけね」
「同じサークル仲間なんだしさ。最後まで応援しようよ」
「そうだよ。私達が応援しないでどうするの!?」
「分かったわ。ガンバレ~!! 彰子~!!」
その集まりは、彰子のサークル仲間だと分かった。
しかし会話の内容一つ一つに美香の心は痛んだ。
「――ごめん彰子。私のせいで酷い目に……」
美香は心から詫びた。
そして願った。ただひとつ。何事もなく終わってくれることを……
美香は祈る気持ちで最終ステージの開始を待った。
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