第5話
第1ステージの控え室に各チームが集まり、それぞれに作戦会議が始まっていた。
N女子大は抽選の結果、3番目の、最後のチャレンジとなった。
アサギがメンバーに確認をとった。
「いい? 私が先頭を行くから、みんなちゃんと付いて来てよ」
「はい」
「悲鳴はあげないように、楽しく会話をしながら行こう」
「はい」
「竹下さん? 少し肩の力を抜いて、私達の後ろにちゃんと付いてきてね」
「は、はい……」
弱気な声が返ってきた。
しかし彰子だけでなく、ルカやルミも緊張の色は見えた。
控え室に係員が入ってきた。
「皆さん準備はできましたか? では大まかな手順をご説明いたします。第1ステージはA大学、B女子大、N女子大の順に行っていきます。入口はこちらの赤いドアになります」
係員は手でドアを指し示す。
「入る前に必ずドア横にあります特殊めがねを全員着用してください。着用しなかった場合、失格となりますので注意してください。また、この控え室には会場に設置されているようなモニターはありません。その代わりに、ドアの右手に電子パネルがあります。そこに、現在挑戦中の大学名、スクリーム値、失格になった人数などが表示されます。失格になった人は、めがねを外し、この赤いドアから控え室に戻ってきてください。以上です。それではA大チームからお願いします」
ついに決勝大会が始まった。
スタートしたのはA大学。4人が赤いドアを開け、慎重な足取りでステージ内に足を踏み入れた。
BチームとNチームの視線は電子パネルに注がれていた。Aチームの経過を見守った。
そして、屋敷に入って数分でスクリーム値は序々に上昇、80まで上がった。
中では未知なる恐怖が始まっているのかと思うと、緊張感が増す挑戦者達であった。それに引き換え、終始震えが止まらない彰子であった。
その後もスクリーム値はグングン増え、ついには340に。
そして開始から10分。会場アナウンサーの大きな声が控え室にまで聞こえてきた。
「おお、出てきました! 結果はA大チーム4人全員クリアでスクリーム値は420となりました!」
会場の拍手も控え室にまで響く。
ルカが聞いた。
「アサギさん。420スクリームっていう数字はどうなんでしょう?」
「ちょっと分からないわ」
アサギ達にとって初めての決勝。スクリーム値については詳しく理解していなかった。
しかし前大会優勝のB女子大は違った。Bチームの主将である進藤の声が聞こえてきた。
「420ポイント。けっこういい得点ね」
「進藤さん、そんなにですか?」
「悪くないわね。結構手ごわい相手かもしれないわ。私達も行くわよ」
「はい!」
気合を入れるBチーム。
その話を聞いたアサギは思った。
「――経験もあるし、実績もある。相手が悪いってものだろ」
アサギは弱気になっていた。
しかし勝負は最後まで分からない。余計な考えは振り払った。
そしてB女子大の出番がきた。
落ち着いた様子でステージ内へ。貫禄すらうかがえる。
Aチームに比べ、明らかに短時間でアナウンサーの声が響いた。
「B女子大チーム出て参りました! こちらも全員クリア! スクリーム値はなんと180!! これは凄い!!」
アサギらはB女子大の力を見せつけられた。
「180スクリーム…… さすがね。でも私が思うに、決勝大会のマスコットキャラはまだ登場していないと思う。タタリンっていうメチャ怖いヤツらしいんだけど、それが出ているとしたら、もっとチーム総崩れになるはずだから」
「そうなんでしょうか……」
「分からないけど、とりあえず気楽に行こう」
「うん」
N女子大は円陣を組んで、気持ちをひとつにした。
アナウンサーの声が聞こえる。
「さて続きましては第1ステージ最後の挑戦でありますN女子大チームです!」
そして係員からも開始の合図があった。
彰子はバクバク状態であった。
「――ああ…… ついに来ちゃった~ 神様~ 助けて~」
心の中で必死に叫んでいた。
そしてついに赤いドアが開かれ、Nチームの挑戦が始まった。
開始わずか数分後、入口のドアが勢いよく開き、彰子が泣きべそ状態で出てきた。特殊めがねは手に持っていた。
「ムリムリ…… こんなの絶対無理……」
へたり込む彰子に係員が近寄り声をかけた。
「大丈夫ですか?」
そして係員の肩を借り、椅子まで連れていってもらった。
電子パネルには、すでに310スクリームと表示されており、×印がブザー音と共に点滅していた。
一人失格になったことを意味していた。
アナウンサーの声が聞こえた。
「ああ~! 早くもN女子大300スクリームを越えてしまった! そして失格者が出ました!」
その声は彰子の耳に届いていなかった。
そうとうな絶叫をしたことは明らか。
それを察した係員がお茶を持ってきてくれた。彰子はそれを飲みながら気持ちを落ち着かせた。
Nチームのスクリーム値はその後も400から450と上がり続け、もう一人失格者を出した。
ルカが赤いドアを開け戻ってきた。
言葉も出ない様子で彰子の隣に座った。
係員はルカにもお茶を出した。
他のチームと比べると、多少時間はかかったものの、ようやく……
「おお! 出てきました! 二人の失格者を出しましたが、なんとかゴール致しましてN女子大チーム第2ステージ進出です。成績は680スクリーム! やや他の大学に遅れをとりましたが、まだまだ分かりません! この先が楽しみです! さて、第2ステージの開始は1時間後です! それまでしばらく休憩となります」
アサギとルミが控え室に戻ってきた。アサギが声をかける。
「二人とも大丈夫だった?」
「……」
彰子とルカは小さく頷くのがやっとであった。
「恐さは予想以上だったわ。アサギさんは?」
「同感ね。正直、他のチームの成績から勝手な想像していたけど、AチームもBチームも強敵だし、ステージの恐さも予選とは比べ物にならないわ」
アサギの感想を聞き、ルカは聞く。
「そういえばタタリンは出てきたの?」
「出てきたよ。後半にね」
「どんな?」
「窓ガラスが突然割れて現れた。幸い遠くだったから何とか近づかれる前にゴールできたけどね。でも姿はかなりヤバかったよ。思い出すと鳥肌がたつわ。近距離では見たくないわね」
「特殊めがねをしているせいか、もの凄い臨場感あるし、足もすくんじゃって……」
「厳しい戦いになりそうね」
「優勝なんて絶対無理ですよね……」
「まだ1ステージが終わっただけだから私は諦めてはいないけど、無理だったとしても特別賞をもらえるチャンスもあるわけだから、最後まで頑張ろう」
「そうね」
ルカは立ち上がった。しかし彰子は一言も話すどころか、まだ立ち上がれなかった。
「竹下さんも無理しないで、恐かったらさっきみたいにすぐに出てきちゃっていいから、もう少しだけ頑張って」
「はい……」
仲間に支えられ立ち上がった。
しかし彰子の本音としては、全員失格になって終わってくれればよかったのに…… というものだった。
気を取り直して第2ステージの控え室へと移動した。
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