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悪魔と契約


「む、むりとは?」

「そんなクソみたいなつまらない願い叶えたくない」

「はっ?」


叶えたくないとは。

悪魔が魂を手に入れるためにどんな願いでも叶うという話は。


「え……っと、ささげる魔力が足りないとか?」

「あんたの魔力は十分あるな」

「じゃあ魂が不味そうとか?」

「いや、すげえ美味そうな匂いがするけど」


魂に匂いとかあるんだ、と一瞬興味がそそられたがそういう場合ではない。


「じゃあ何で無理とは」

「言ってるだろ。そんなつまらない願いなんて興味ない」

「興味あるとかないとかそういうことじゃないでしょ?!」


思わずリーフェは男をキッと睨みつけた。


「悪魔が餌に釣られてやってきたんだったら、ちゃんと対価払いなさいよ!」

「………こっわ。美人は怒ると迫力があるな」


ちっとも怖くなさそうな表情で、青年がにやにや笑っている。

何故そんなにも楽しそうなのか。


リーフェは苛立ちがさらに高まったのを感じたが、これ以上騒ぐと魔法で作った防音壁があっても門番が来てしまう、と落ち着くために一つ深呼吸をした。


「とにかく、言うことを聞きなさいよ。悪魔なんでしょ?契約の対価は受け取ったはず…」

「うん?あああの搾りかすな。あれはこちらにわたる対価でしかない」

「そんな」

「大体あんた、あのカスが邪魔で俺を利用しただけだろ」


ぎくり。


バレてることに、リーフェは一瞬身をすくめた。

悪魔は万能の力を持っていると言う。

お見通しというわけだ。


しかし、リーフェはここで負ける訳にはいかない。

この悪魔が"願い"を叶えてくれなければ大変なことになるからだ。


ラーヴェルだっているかいないかで言ったらいた方がこれからを思えばまだいた方がマシ(扱いづらいけど)だったのに、この先が完全に一人だなんてあり得ない。


まずどうやってここから出たらいいのだ。


ぐるぐると考えて、リーフェは意を決して、美しいその顔に笑みを乗せた。


「つまり、貴方は私の願いを叶える力がないというのね。悪魔のくせに」

「は?」

「だってそうでしょ?契約者の願いをつまらないなんて考えるなんておかしいわ。悪魔には人間の欲望も魂もご馳走なのにつまらないから、だなんて。ありえない」

「はん、挑発しても無駄だ」


(くっ、バレてる)


悪魔のプライドくすぐっちゃおう作戦はバレバレなようだ。

しかしリーフェはこれくらいしか思いつかない。

とにかく悪魔に力を与えてもらわないとこの先どうしたら良いのか、計画も何もあったものではない。


腕組みをしてそっぽを向いた男に、リーフェは言い募る。


「あらそんなこと言って!図星だからこそ意地を張ってるのでしょう。おかしいわ、私はちゃんと悪魔の名前を……一番強いとされる魔王とされる名前を詠唱したはずなのに、違うのが来たのね」

「……それは」


急に男が狼狽えた表情になった。

おや、とリーフェは目を輝かせた。攻めどころである。


「ああ、私ったら失敗したわ!名前間違えたのね!……じゃあやり直さなきゃ。こんな使えない悪魔じゃなくて別の」

「駄目に決まってんだろ!」

「っ!?」


牙を剥き出しにしていきなり怒鳴ってきた男に、リーフェはびくりと肩をすくめる。

青ざめるリーフェに気がついたのだろう男は、なぜかすぐにハッと口を自分の右手で覆った。

気がつかなかったが、爪は普通の人間と変わらないものの、手の甲にリーフェが書いた紋様が浮かんでいる。


「その、召喚紋……」

「あ、ああ。だから、お前は俺の契約者で獲物だから、今更他のやつとチェンジなんでできるわけないだろ」

「………では願いを叶えて」

「嫌だ」

「何でよ?!」

「だからつまらなそうだからって言ってる」

「こっちは切実なのよ!」

「まあ、そうかもしれないな」

「万能の力がないと、この先起こることを止められないじゃない!」

「この先起こること?」


ハッと今度はリーフェが口を閉ざした。

しかし男の探るような瞳に、リーフェは一瞬考え、それからできる限り平静に言った。


「マシェリ王子が私を邪魔者扱いしてるから殺されかねないの」

「ああ、あのクソみたいな無能男か」

「あのキャロルとか言う光の精霊の加護を持ったとかいう頭悪い女の口車に乗って裁判もかけず処刑とか言い出しそうだわ。あの人、私のことを邪魔者として嫌っているから。

「ああ、あの胸がやたらデカい口だけの下品なクソ女」

「クソって言葉好きね」


苦笑しながら、口だけと言うのはひどく頷く。

彼女はなんの努力もしていない。

ただ、光の加護があるからちやほやと特別扱いされている。

闇の加護だからと、何もかもを奪われたリーフェとは正反対だ。


「とにかく、そのキャロルは自分の思い通りにしたがるのよ。私を早く排除して王子妃になるつもりだわ」

「お前、あんなクソ男に未練があるのか?」


あんた、から、お前、に変わった。

そんなどうでもいいことを思っていたが、目の前の男が驚くほど冷たい表情になっていた。

何かに怒っているようだ。


リーフェが首を傾げると、男はますます苛立った様子で「あんな男の何がいいんだ」と問うてくる。


「えっ、あんな王子に何の未練もないわよ。まあ確かにあの人くらいしかろくに顔も見たこともない記憶しかないけど、向こうも私のこと嫌ってたし、別にいい思い出があるわけじゃないわ」

「あのクソ男とヨリを戻したいわけじゃないんだな」

「ええっ?まさか!あんな男、のしつけてくれてやるわ」

「なんだ」


急に美青年の機嫌が治った。

唇に笑みが浮かんでいる。


どういうことだろう。

しかし、リーフェはそんなことよりこの悪魔な機嫌がいいときに乗じようと再び口を開いた。


「とにかく、私は殺されたくないの。やっと自由になったんだから。これからは自由に生きたい。でも王族から逃げても闇の力は彼らに脅威だから追手をかけられる。だから強い力が欲しいの。誰よりも強くて何でもできる万能の力が」

「……復讐ってのは?」

「……そりゃああっちがやってきたらいままでの恨みを多少晴らしたい気持ちが」

「ふうん、じゃあ、あの男に未練があるわけじゃないのか」

「へっ?王子のこと?いえ、一ミリもないわ。そもそも別に情があったわけじゃないから未練も何もないわよ」

「そうか」


ぱあっと青年がはっきりと笑顔になった。


ドキュ!


心臓があまりにもおかしな音を立てた。


(えっ、な、なに?ほんと、美しいって暴力レベルなのね)


「じゃあ力を貸してやる」

「ほんと?!」


しかし、きゅうきゅうとまだおかしな感じのする胸のことよりも、熱くなった顔のことよりも、願いが叶いそうなことにリーフェは食いついた。


「ああ、だが俺たちは相手に力を与えることはできない。俺たち悪魔が契約者の代わりに力を振るうんだ」

「そうなの?」

「そうだ。だから俺はお前の願いが叶うまで一緒にいる」

「ふうん、願いが叶うっていうのはいつになるの?」

「お前が心から満足したとき、かな」

「……満足。なんだか曖昧ね」

「魂が光るんだ。俺たちには見える」

「でも、それを無視して食べたくなったら食べちゃわないの?」

「契約があるから契約者の意向に反しては食べられない」


男はそう言って右手に見せた。

赤いその紋様が綺麗に光っている。

ただ歪な形なのは書いたリーフェが急いでいたせいだろうか。ペンで描けたらもっと美しかっただろう。


「それに俺はお前のこと……」

「え?何か言った?」


紋様に気を取られていたリーフェは急にモゴモゴと小さくなった声聞き逃し男を見たが、男はなぜかむっとした様子で黙り込んでしまった。


「ごめんなさい?もう一度言って?」

「いやだ」

「何よ?大事なことじゃないの?」

「……うるさい。それより、正契約をしろ」

「正契約?」

「俺がお前だけの悪魔になる、お前は俺に魂を捧げるという誓いだ。俺の力をお前が使えるようになる」

「この紋様で呼び出しただけじゃ駄目なの?」


首を傾げ上目遣いとなるリーフェに、悪魔はなぜかパッと顔を反らせた。


「何か騙そうとしてる?」

「……してない」

「じゃあなんで目を逸らすの?」

「うるさい。早く復唱しないと俺は協力なんてしないからな」

「え、嫌よ」


怪しいところはあるが、なんだか目元を赤くしている男が企んでいるように思えなかったし、そもそもリーフェはこの悪魔の力に頼るしか先がない。


「手を貸せ」


リーフェは紋様がついた大きな男の手に自分の手を重ねた。

ぎゅっと握られ、悪魔なのに温かいと不思議に思う。


「何?」


じっと見つめてくる男の視線に、リーフェは真っ直ぐ応えた。男の赤い瞳のなかに、黒を纏う少女、リーフェの姿が写っている。


「いや、俺の名前を呼べ」

「ジルヴェスト」

「リーフェ」


男……ジルヴェストの聞き惚れる声が甘ったるくリーフェを呼んだ。

リーフェの心臓がまた跳ねる。

繋いだ手がじわりと熱くなった。


「俺の言葉を復唱しろ。"第一の悪魔ジルヴェストは契約者リーフェ=アドラアーツをーーーとし、そのーーーを捧げ、生涯を誓う"」


古代語で理解ができない部分があったが、リーフェは聞き取った音のまま復唱した。


「"契約者リーフェ=アドラアーツは、第一の悪魔ジルヴェストをーーーとし、そのーーーを誓い、魂を捧げる"」


唱え終わると、パァッと赤い光が二人を包んだ。

その眩しさに驚いていると、ジルヴェストがリーフェの手を引っ張り、そして、繋いでいた手の甲に口付けた。


途端に燃えるような熱さがリーフェのその部位に集まり、ふた見ればジルヴェストと同じ紋様が浮かんでいる。

不恰好だな、とリーフェは思った。


「これでお前は完全に俺のものだ」


声が弾んでいた。

赤い瞳もキラキラと輝き、嬉しそうだ。

それはそうだろう、美味しい食糧を手に入れたのだから。


「その前に貴方が私のものだわ」


だがまずは主人はこちらなのだと伝えると、ますますこの美丈夫は輝かんばかりに微笑んだ。


目が潰れる。


流石のリーフェもそう思うほどの美しい微笑みだった。

ごほん、と咳払いしたのは気恥ずかしさを誤魔化すためだったが、ジルヴェストがリーフェの紋様の刻まれた手に頬擦りを始め、何度も口付け、いや、紋様をねとりと舐め始めたから、流石に悲鳴をあげた。


「きゃああ!何してるの!」

「ん。うまそうだなって」

「だ、だ、だから!早く私の願いを叶えてよ!とりあえずまずはここから出して!」



急いで手を引き抜くと面白くなさそうな表情になる。

しかし真っ赤になってるプルプル震えているリーフェに満足したのか、ニヤッと笑って「いいぜ」と答えた。


しかし、その自信に満ちた表情は次の瞬間瓦解した。


「……どうしたの?」


堅牢な檻に向かって手を翳したジルヴェストが少しの間黙り込んで、それから、「マジか」と呟く。


「え?どうしたの?」

「力が……使えない」


うん?とリーフェが首を傾げる。


「力が使えない」


男がもう一度繰り返した。

リーフェはその意味を知り、「はあっ?!」と返す。


「ちょっ、ちょっと!どういうこと?!」

「わからん。体内にはあるんだが、外に出せない」

「いや貴方さっきから自信満々だったじゃないの!!」

「当たり前だ!俺は次期魔王だぞ!クソ!なんでだ?!」

「じきまおう」


ジルヴェストも焦っているらしい。

何度か詠唱をして、そのたびにポンっとかポフュとか可愛らしい何かの弾ける音をさせている。


唖然とするリーフェの前で四苦八苦していた美しい青年は、やがてその場に頭を抱えてへたり込んだ。


「力が出せない……」

「ちょっと!どうするのよ!嘘つきーーーっ!!!」


リーフェの絶叫が、自分で作った防音壁のなかに響いた。


とんだポンコツ悪魔と契約をしてしまったらしい。


次回更新は週末になります。

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