第四十話 未知
ビャクレンは己の人生を退屈だと思っていた。
(どうして見極めができないのだろうか?)
と、他者に対して常々思っていたからだ。
才多き故に自分以外が全て滑稽に思えたが、それを表には出さなかった。
才多き故に自分以上の存在がいることを理解し、それに抗う気は無かった。
(勝てる相手に勝ち続けるだけでいいではないか……)
そんな単純なことをできない者が多いと気づいた時、他者に絶望した。あまりに愚かだからだ。いつからだろうか、ビャクレンにとって他者の全ては想定内のつまらない存在になり果てていた。
驚きも無いし、負ける気もしない。勝てない相手はいるが、時間をかければ勝てる目算がつく。
ただわかりきった道を選び、進むだけで評価される人生など面白味が無い。
(俺の人生はつまらん……)
王府執行特殊監査部と呼ばれる諜報機関で齢十八にして組頭と呼ばれる部隊長に選ばれた。他の組長には自分より強い者もいたが、時間をかけて鍛錬すれば勝てる見込みのある者ばかりだった。
周囲からは「天才」と呼ばれてきた。本人も自分が特別だという自覚があった。
(天才というのもつまらんな……)
そう思いながら命じられるがまま、任務をこなしてきた。上司もその上の権力者も全ては想定内の言動で、驚きが無い。抗う方法を考えても、権力や身分を覆す方法は存在しないし、無駄な努力だと思うばかりだ。
(毎日がつまらん。退屈で死にそうだ……)
そんなビャクレンが初めて、死に物狂いで逃げた。
簡単な暗殺の任務。さっさとすませて終わるだけの日常。
そんな中、予想外の怪物と遭遇した。
圧倒的だった。
勝てる気がしなかった。
生まれて初めて、全力で怯えた。
(そうか……こんなにも感情というものは世界をクリアーに見せてくれるのか……)
ジルギという仲間が死んだ哀しみより、予想外なバケモノと出会った驚きのほうが大きかった。
(だが、アレには勝てん……)
非日常の喜びよりも、決まり切ったルーチンである。
冷静かつ合理的に動く。
それが蟲という者の生き方だ。
でなければ死ぬ。無様に憐れに意味も無く。
(テオドール・アルベインに勝てずとも、標的を始末できれば俺の勝ちか……)
勝利になど価値を見出したことは無い。
最初から勝敗のわかる勝負しかしてこなかったから。
自分の想定を裏切る存在と出会ったことが無かったから。
(なるほど……これが挑戦の楽しみということか……)
ビャクレンは自分の足が震えていることに気づいた。
(未知というのは、こんなにも心が躍るのだな……生まれて初めての経験だぞ、テオドール・アルベイン……)
パンと頬を叩き、面隠しの布を縛りなおした。




