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第四話 旅立ち

 全ての手続きを終え、とうとうテオドールは平民となった。


 屋敷も引き渡し、手元に残ったのは一月食べていける程度の金と、ボロボロのリュートだけだった。


(これでやっと肩の荷が下りた……)


 テオドールは鞄とリュートを背負い、屋敷から街のほうへと歩いていく。もはや、見送る者は誰もいない。


(この景色も見納めか……)


 領内に屋敷を持つ家臣たちは例外なく「自分が面倒を見ます」と言ってくれたが、すべて穏やかに拒絶した。義母の配下の者に暗殺される可能性があるからだ。

レイチェルの父であるグスタフや家宰フレドリクもスヴェラートを説得するから、しばらく大人しくしていろと手紙を送ってきた。

 だが、テオドールは貴族に戻る気はないと返信し、完全に縁を切った。


(レイチェルとリュカには悪いことをした)


 まとめて離縁し、実家に帰らせた。レイチェルは泣きながら抵抗していたが、心を鬼にして「足手まといだ」と怒鳴って黙らせた。思い返すだけでも罪悪感で胸が痛む。リュカは大人しくテオドールの申し出を「承知いたしました」とうなずき、その日のうちに実家へと帰っていった。あっけない最後だったが、無表情な瞳のなかに憂いと怒りがくすぶっていたのは見逃さなかった。


(二人の幸せを心の底から祈るよ)


 アンジェリカは、お取り潰しの件を説明した三日後に荷物をまとめて実家に帰っていった。その際、テオドールが買い与えたドレスや貴金属の類も根こそぎ持っていったのだから、たくましい女性だと思う。ここまで首尾一貫して毒婦だと、逆に清々しさを覚えるほどだった。あの苛烈な性格も気高さの裏返しだったのだろう。


(気高さや誇りなんてもんも、しょせんは気分の問題だけどさ……)


 貴族が重視する倫理観や思想も、今となっては戯言のようにしか思えない。

 正義のために戦をはじめ、理想のために人を殺す。数えきれない墳墓の上でふんぞり返るのが、貴族の気高さや誇りならば、そんなものは犬に食わせてしまえばいいと、今では本気で思っている。


(さて、今日中にフロンティヌス領を出ないとな……)


 引き渡しの準備中も、何度か殺気を向けられていることに気づいていた。リュカたちも気づいており「排除しますか?」と尋ねられたが、放置することにしておいた。

 もう貴族の政争に巻き込まれるのは御免だったし、下手に人を殺して恨みを買いたくなかったのだ。


(ま、どうにかなるだろ……)


 殺したくはないが、殺されてやるつもりもない。

 暗殺者を撒く手段を考えつつ、街のなかへと入っていった。



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