第三十九話 誤算
次から次に沸いて出てくる冒険者を一撃で昏倒させながら、テオドールは考えていた。
(どうしたら、この状況から友達になれるだろう?)
テオドールが友達になりたくても、敵がそうとは限らない。少なくとも、討ち手の一人をテオドールは殺害しているため、その感情的な溝を埋めるのは難しそうだ。
(たしか、グスタフもヴォルフリート様と敵同士だったけど、三度フルボッコにされてから臣下になったと言うし……)
三回フルボッコにして許してやれば、友達になってくれるかもしれない。
(あと二回フルボッコにしてやればいいのか。まあ、難しくはないか……)
不意に火の球が飛んできた。魔術と気づき、躱す。
体勢が崩れたところに体ごとぶつかってくる突き技。咄嗟にその場で回転しながら刺突を躱し、後ろ回し蹴りで側頭部を蹴り抜く。
(魔術!?)
魔術による奇襲と、突進してきた冒険者は別だ。
そして、後ろ回し蹴りという不安定な状態を見過ごすとは思えない。雷霆失功の魔術式を組み上げている中、相殺術式を奔らせることはできない。今まで構築した魔術式が消えてしまうからだ。
だからテオドールは自分の右手で火の球を殴り飛ばした。当然、当たった瞬間、火球は炸裂し、テオドールの右手の指が吹き飛んだ。激痛に一瞬、顔をしかめる。
(あとで指をくっつけないと……)
利き手が使えないのは、かなり厄介だが、それでも左手と体捌きだけで迫りくる冒険者たちを窓の外へと投げ飛ばし、殴り飛ばしていく。
(こんな大ケガをしたのは久しぶりだ)
少し驚いていた。
(無関係な冒険者やクロフォード学園の生徒を傀儡にすることで、こちらの戦闘に対する士気を下げ、混乱に乗じて鋭い奇襲……性格の悪い奴だな……)
およそ戦術や戦略の基本は、相手の嫌がることを執拗に続けることである。倫理観や社会通念を容赦なく無視できると、尚いい。
(俺への嫌がらせを重ねるとすれば……俺への攻撃は陽動だな……)
狙いはリュカやレイチェル、リーズレット。更に目的のアシュレイだろう。
(俺への狙撃は、二人のうち、弱いほうか……)
それがわかっていても尚、テオドールは動けなかった。当然、動けないように誘導されてしまったのだからしかたがない。
(少し敵を舐めていたか? いかんな……西部の頃なら、もっと積極的に罠を張っていただろうに……)
とはいえ、それができなくても仕方がないという思いもあった。
騎士の頃は、家臣がいた。
ついぞ、最後まで本当の意味で心を通わせることは無かったが、皆、有能だった。リュカでさえ、アルベイン家家臣団の中では上の下くらいの実力である。
(リュカがいなければ、状況的に詰んでいたな……)
バチッと小さな静電気が、冒険者たちの前に生じた。
次の瞬間、空気を劈く雷鳴が同時に冒険者を襲い、一撃で全員を昏倒させた。
(さて、反撃開始と行くか……)
テオドールは周囲の足元を見まわす。炭化して転がっていた指を拾い、右手にくっつけてきた。
(くっつか? これ……)
傷口に強引にくっつけながら治癒魔術・改二を使用。焼けるような痛みに声が漏れそうになったが、どうにか三本の指をくっつけていく。
(神経はまだ繋がってないが、形にはなったか……)
倒れた冒険者たちを飛び越えながらテオドールは歩いていく。
(さて、見逃すにも見逃す理由ってものが必要だな。うん、そうだな、どういうロジックで行くべきか? やっぱり強者だから殺すに惜しい理論か?)
考えながら討ち手の元へと近づいていく。
「利き手を潰されたのには驚いたよ。この俺をここまで追い詰めたこと、誇っていい」
当然、狙いの相手にも雷霆結界の一撃は入っている。
「先ほど使った魔術はさすがに組み上げるのが大変だったんだ。魔術障壁を織り込んだアーティファクトによって、個別に威力の調整をしないといけない。でないと、死んだり、効果が無かったりするし……」
男がヨロヨロと立ち上がった。
「だから、最初に小さな雷撃でアーティファクトの反応を察知し、それに呼応して雷霆疾攻の威力を調整する。この辺の術式構築が難しくてさ……」
「バケモノ……」
男の口は呂律が回っていなかった。
「驚いたな。もう立ち上がれるのか……」
見逃すにはいい流れだな、と思った。
「殺すに惜し――」
「ビャクレン! 後は頼むっ!!」
男が叫んだ瞬間、テオドールは後ろへ飛びのき、魔術式を構築。突風を巻き起こし、飛び掛かってきた男の体を吹っ飛ばした。
同時に閃光と爆風。男の体は爆発四散し、辺りに肉片が飛び散っていた。あのまま組み付かれて自爆されていたら、テオドールも死んでいたかもしれない。
(えええええええええ!?)
愕然とした。
(諦めが良すぎるだろ! いや、まあ、俺を倒すとなれば、自爆しかないって思うかもしれないけどさ!! こっちは許す気だったんだぞ!! 会話の流れで匂わせてただろ!!)
これだからプロは嫌なんだ。
(またフラれた……今度こそ親友になれると思ってたのに……)
だが、死んでしまったらしかたがない。体が真っ二つに分かれるくらいだったら、テオドールの治癒魔術でくっつけられたが、粉々の肉片になられたら、さすがにどうしようも無かった。
(考えを切り替えよう。そうだ、もう一人いる。彼を友達にしたらいいだけだ)
魔力感知上、アシュレイたちの動きに変化はない。特に問題はないはずだ。状況を把握したうえで、最後の一人をどう友達にするか考えながら部屋に戻った。
(流れとしては、彼の仲間を殺してしまって忍びないから逃がす、みたいな感じだな。最初は憎まれるかもしれない。きっと俺に復讐をしてくるだろう。その度にフルボッコにして許してやる。それを繰り返していくうちに憎悪は友愛に変わるんだ。そうだ、俺がピンチの時に颯爽と現れて『お前を殺すのは俺だ。勝手に死ぬことは許さん』みたいな!!)
そう思い、部屋へと戻った。
「え……?」
テオドールは目を見開いた。
部屋には誰もいなかったからだ。
アシュレイたちがいない代わりに、魔力を帯びた人形が人数分転がっていた。




