第三十七話 敵か友達か
不意に目が覚めた。
リュカが「もうお目覚めですか?」と心配そうな目を向けてきていた。
「どれくらい寝ていた?」
「一刻半ほど……」
「そうか……あまり休めてないか……」
深呼吸をし、呼吸法で精神を整えていく。
(……なんか変な夢を見た気がするけど、あまり覚えてない)
悪夢にうなされるのは日常茶飯事だが、今回は悪い夢ではなかった気がする。
「テオ様、もう少し休まれたほうがよいかと……」
「いや、変に目が覚めた」
リュカの言葉に苦笑いを浮かべて答えていたら、アシュレイが心配そうな顔で尋ねてくる。
「テオ、もう少し休んでくれてていいよ」
「心配してくれてありがとう、アシュレイ。でも、大丈夫だよ」
これが友情の美しさというものだろう。
実際のところ、疲れはほとんど取れていないし、むしろ寝る前より疲労感があった。だが、パーティーの支柱である自分が弱っているところを見せるわけにはいかない。テオドールはレイチェルへと視線を向ける。
「そうだ、レイ、たしか君はリュートを持っていたな。一曲、弾かせてくれないか?」
「はい」
レイチェルが倉庫の中からリュートを取り出し、テオドールに差し出してきた。
テオドールがリュートを構えた瞬間、「テオ様」とリュカが声をあげた。「どうした?」と視線を向ける。
「誰か来ます」
その言葉を受け、テオドールも魔力感知を奔らせる。魔力のゆらめきや輝きから察するに受付の者だろう。テオドールはリュートを自分の倉庫に入れ、皆を手で制しつつベッドから立ち上がった。同時に部屋の扉がノックされる。
「なんですか?」
「すみません。宿の代金に関してお話が……」
その言葉に扉を開けた瞬間、男が剣を突き出してきた。完全なる奇襲だったが、テオドールは自動的に躱しながら男を投げ飛ばす。
(魔術的な違和感はなかった……)
仮に魔術による洗脳ならば、魔力感知でわかる。まるで、この奇襲が合図だったかのように、外を歩いていた冒険者の動きが変わった。
一斉にテオドールたちが泊まっている宿屋へと向かって走ってくるのだ。
(まさか全員、魔術で作り出した使い魔だったのか?)
魔力感知的には、そういう結論には至らない。
(魔力的に一般人だ。だが、この数を魔術で洗脳するなんて……)
ありえるのか? と思った。
そもそも精神系の魔術は術式が複雑だ。
自己催眠ともなれば、多少は楽になるが、他者の意識を変容させる魔術はかなり高度な魔術である。仮に催眠に成功したとしても、動きの制御や単純な命令を行わせる程度しかできない。複雑な命令はより複雑な魔術式となるし、魔術式を組み上げる間、対象が大人しくしているという保証もない。よって、コストパフォーマンスがよくない。
更に洗脳系の魔術式は普遍化ができないため天慶化しても、個別の対象以外には効果が無い。脳の構造が違うため、一人一人、別々の魔術式を構築しなければならないのだ。
「戦闘準備!」
テオドールの言葉にリュカは窓のほうへと視線を向け、レイチェルたちは護身用の武器を構えた。
(この数を魔術で洗脳するなんて時間がかかりすぎるし、消費する魔力もバカにならない)
テオドールのように天級以上の魔術士ならば、三日かければ、かなりの数を支配下におけるかもしれない。だが、自分ならしない。効率が悪いからだ。
(特殊天慶か……もしくは、もっと前から計画されていたか……)
投げ飛ばされた男が立ち上がり「うああああっ!」と叫びながら剣をアシュレイに向ける。すぐさま最小限の雷撃を放ち、意識を奪った。
「全員聞け! 最低でも百人単位の冒険者がこちらに攻撃をしかけてくる! おそらく全員、精神系の魔術か天慶の影響下にある!」
「出ますか? 籠りますか?」
リュカの問いかけに「基本は籠城! ただし火攻めなど状況が変われば打って出る!」と叫びつつ廊下に出ながら冒険者を殴り飛ばす。
「リュカ! 窓からの侵入者は任せる。残りは魔術でリュカを援護! 四半刻ほど耐えてくれ!」
言いながら振り下ろされる剣を躱し、鎧通しの掌底で冒険者を殴り飛ばした。
(雷霆結界の魔術式を構築するまで他の魔術は使えないか……)
威力を考えなければ、すぐに構築はできる。
だが、それをやれば、死者の数が桁違いに跳ね上がるだろう。威力を調整する術式を組み込まなければならない。
それが厄介だ。
「敵の攻撃方法は不明だ! 最悪、こちらも相手の術にハマる可能性がある! 気をつけろ!!」
各々が了承する声が聞こえる。
そんな中、テオドールは迫りくる冒険者を殴りながら魔術式を頭の中で構築。それと同時に敵の狙いも類推していた。
体の動きはほぼ自動化。なにも考えない。魔術式は映像的に処理し、敵への類推は言語で考える。マルチタスクに辟易する容量すら無い。
(クソ……術者はどこだ? どうせ、あの逃げた二人のどちらかだろうけど……)
この状況を打破するのではなく、敵の狙いを覆す方策を考えながら、片っ端から冒険者を殴り飛ばす。
(さすがに人死にが出たら、その原因を友と呼ぶのは世間体的にもアウトだろうな……)
ただでさえアシュレイを暗殺しようとしている連中だ。
敵を友達にするには、アシュレイたちの感情が最も大きな障害となるため、殺人は避けたかった。
(どうにかして友達にしなければ……正々堂々と殺しあえば、きっと親友になれるはずだ!)
ただでさえ余裕の無い状況だったが、テオドールは敵を友達にする方法ばかり考えていた。




