第二十九話 襲撃
夕飯を終え、暗くなると、アシュレイたちはすぐさま寝入ってしまった。
初日ということもあり、疲労も溜まっているのだろう。
三人が眠る中、テオドールは焚火を弄りながら魔術式を頭の中で構築していた。魔力感知・改弐を発動し、一瞬だけだが、半径1キロマトルまで探査範囲を広げ、精度も上げる。
(やっぱり三人か……)
野営地を囲うように三人の人間らしき魔力を感知できた。
(位置的に俺一人だと難しいな。まあ、バレずにやればいけるか? 相手の強さにもよるんだよな……)
中央の騎士のレベルが西部より低いとは言え、それはあくまで平均値の話でしかない。
当然、中には天才と呼ばれる者だっているだろう。特にアドラステア王国は政治闘争という緩やかな内紛状態が続いているので、諜報能力に長けている。リュカたちのような蟲の活動も活発だった。
(ま、強ければ強いで、そういう人材は稀有だろうし……それを削れば、かなりいい嫌がらせにはなるか……)
いくつかのパターンを頭の中で想定する。
(数は三人。一時の方角に五百マトル。八時の方向に三百マトル。四時の方向に五百マトル)
こちらを目視はできない距離だ。テオドールは椅子代わりに転がしておいた丸太に手を添える。
(これくらいで大丈夫か?)
魔術式を頭の中で並べ、自分の魔力を丸太に流し込むと同時に自分の魔力放出を落としていく。これで魔力感知上、丸太がテオドールのデコイとなってくれるだろう。
同時に魔力感知・改弐で討ち手の動きをうかがった。
(気づいているような反応は無いか……)
無事に欺けたようだ。
少なくとも魔術師としてのレベルで言えば、テオドールと並ぶ天級の者はいないらしい。あるいは気づきながら気づいていないフリをしている可能性もあるが……。
「リュカ、お前はここにいてくれ」
「かしこまりました」
それだけ言って、夜の森の中へと入っていく。体から洩れる魔力を消し、気配も消す。そのまま標的へと一気に距離を詰めた。
数秒で討ち手らしき男を見つける。闇に隠れ、顔を黒い布で隠していた。すぐさまテオドールの奇襲に気づき、ナイフを投げてきた。
(いい反応! 強い!)
ナイフを躱し、距離を詰める。首めがけて剣を突き出した瞬間、討ち手が魔術で閃光を放つ。視界が奪われるが、元より目で状況を把握していない。逃げる動きに呼応し、剣尖を翻し、奔らせる。
「がっ!」
片手で討ち手の首を刎ね飛ばした。そのまま体を蹴り飛ばすと同時に後ろへと飛びのく。討ち手の体が赤く光る。近くにあった木を背にして隠れた瞬間、爆発した。
(死亡と同時に発動するトラップ魔術か……これは本格的なプロだな……西部の蟲って感じがしない……)
敵の正体を誰何する余裕も無い。すぐさま魔力感知で残り二人の位置を確認。二人とも野営地へと向かって駆けていた。おそらく魔術行使や爆発でテオドールの襲撃を予見したのだろう。目的達成を第一義に置いて動いたと思われた。
(判断が速い! 狙いはアシュレイか!!)
もはや気配を隠す意味も無い。テオドールは身体強化の魔術式を奔らせ、一気に駆ける。慣性操作で加速し、疾風の如く木々の間を縫っていった。
野営地に向かう討ち手を横からタックルで吹っ飛ばす。同時に雷撃を入れていたが、魔術障壁で魔術を潰されたらしい。
(アーティファクトか!!)
討ち手は受け身を取りながら立ち上がり、ナイフを構え、攻撃してくる。白刃を躱しながら力量を把握。
(強い!!)
純粋な体術だけの戦闘では分が悪いと判断。すぐさま頭の中に魔術式を羅列。
(雷霆疾攻・改弐!!)
極太の雷がテオドールの手から生じ、爆音と閃光が討ち手を襲う。アーティファクトの魔術障壁を貫き切れなかったようだが、それでも電撃は体を貫いたようだ。ひるんだ男に近づき、そのまま首をわしづかみながら木にたたきつけた。
「寝てろ!!」
肌に直接触れながらの魔術ならば、魔術障壁を無視できる。電撃で意識を奪い、戦闘不能を確認。尋問要員を確保。だが、縛っている余裕も無いので、すぐさま野営地へと駆けた。
野営地の焚火は消えており、リュカと暗殺者が戦っていた。アシュレイたちも起きているようで、なにやら騒いでいたが、無視をする。
(リュカが仕留めきれてない……!?)
リュカはかなり強い。
アシュレイたちを守りながらの戦闘とは言え、押されているということは、先ほど仕留めた二人より強いと判断。
「リュカ! 左に避けろ!!」
――雷霆疾攻・改弐――
漆黒の闇に真っ白なヒビが奔る。
稲光は討ち手を穿つ前に雲散霧消した。
(アーティファクト!? いや、違う……相殺術式!?)
瞬間的に雷霆疾攻・改弐を相殺する魔術式を展開したとするならば、それこそテオドールと同じ天級の魔術師である。
(あるいは特殊天慶か……)
どちらにせよ、かなりの難敵であることに変わりはない。
だからこそ、止まるわけにはいかなかった。
(アレは確実に仕留める)




