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第十五話 リュカ

 テオドールは、わざわざベアルネーズをマグダラス邸に連れていき、介抱してやった。

 先ずは風呂である。裸のつきあいを通じて、健闘をたたえ合うことにした。


「う、家に帰してください……」

「まあまあ、そう怖がる必要は無い。背中を流そうじゃないか」


 恐怖に涙を流すベアルネーズに「君はすばらしい」「君はよくやった」と優しい言葉をかけてやりながら背中を流してやった。風呂から上がったあとは、当然、丹精込めてマッサージもしてやる。その後、料理を振る舞ってやったところで、ベアルネーズは泣きながら「俺が悪かったので、ほんと、もう勘弁してください」と心のこもった謝罪を述べてくれた。


 これで改心は完了だ。


 その後、レイチェルに対する態度は良くなかったことと、今後、このようなことが続けば、再び、今日のような決闘を申し込むことになると伝えた。


「もう二度としません!」


 テオドールはニッコリと微笑みながら「わかった」とうなずき、言葉をつづける。


「では、明日から放課後に時間を作ってほしい。君たち中央貴族のレベルは理解したので、俺が稽古を見てやろう」


「え?」


「やたらめったらと周りを威圧したり、攻撃するのは良くない。それは、元気がありあまっている証拠だ。どうせなら、騎士として正しき道を進むべきだと俺は思うんだが、どうかな?」


 ベアルネーズは絶望の表情を浮かべたが「それとも、また決闘したいか?」と微笑みかけたら「よろしくお願いします!」と泣きながら喜んでくれた。


「あ、それと君の周りにいた連中も連れてこい。逃げたら今日と同じ決闘だと伝えておいてくれ」

「……はい」

「なに、怯える必要は無い。これは、君たちのためでもある」

「……あ、ありがとうございます」

「これから、よろしく頼むよ」

「はい……」


 泣きながら喜んでくれた。

 中央でも「本気で殺し合ってこそ友」という文化は存在しているらしい。これこそ、男の友情である。


(よし、これで、生まれて初めて、同年代の男友達ができた)


 今のところ、まだ恐怖によるコントロールではあるが、アメとムチを使い分けていけば、そのうち勝手に尊敬してくるようになるだろう。

 男というのは単純だ。

 圧倒的な強者から認められるだけで、勝手に忠誠心を持ってくれるのだから。


 夕食の後、一緒の部屋で寝ようと誘ったのだが、泣きながら「一人じゃないと寝られないんです!」と言われたので、個室に案内した。


(……少し距離を詰めるタイミングを急ぎすぎたか? まあいい。ベアルネーズ、君がどう思おうと俺は君を友達にすると決めた)


 そんな決意をしながら自分の寝室に戻ってきたら、リュカが二人掛けのソファーに座っていた。


「まだ起きてたのか? どうしたんだ?」

「……ベアルネーズ様にテオ様を取られまいかと心配になったので」

「お前、まだ俺が男色家だと勘違いしてるのか?」

「……してはいません」

「即答しろよ」


 ため息まじりにリュカの隣に座る。


「ベアルネーズと、その取り巻きを俺の友人にしようと思ってな」

「なんのために? 侍従や護衛でしたら、私で事足りるでしょう?」


 リュカは無表情だが、声に棘があった。

 リュカは宣言どおり、女性に対して嫉妬しないが、男性に対して嫉妬することがあった。特に自分より能力の低い家臣が、テオドールにかわいがられていると、ふて腐れる。


 リュカのテオドールへの愛情は、主君に対する忠誠心のそれに近いのかもしれない。だからこそ、幼い頃から男装して戦に参加し、テオドールの側で働いてきたのだろう。


「そうむくれるなよ。俺にとって一番大切な家臣はお前だったぞ」

「過去形ですか?」

「今は家臣と主君の関係じゃないからな」


 テオドールがリュカの髪を梳くように頭を撫でると、リュカがもたれかかってきた。身を寄せながら「学園はどうでしたか?」と尋ねてくる。


「講義内容に関しては特筆すべきことは無いな。広く基礎教養を学ばせる場としては機能しているだろう。でも、なんというか……まだ見習いとはいえ、下級貴族のレベルが低すぎる。あれでは、戦で使い物にならんだろう」


 西部のフロンティヌス家が崩壊すれば、嫌が応でも中央貴族は援軍として派兵される。ベアルネーズたちの戦闘レベルでは、敵国の騎士に打ち勝つことはできず、あっけなく戦死の憂き目にあう。

 せっかく出会ったのだから、そういう未来は極力避けたい。


「クロフォード学園にもクラス分けがされていますからね。もう一つ上のクラスでしたら、上級貴族が少しはまともな授業を受けてると思います」

「家庭教師を使わず、あえて学園に通わせるのは、若い頃からの人脈作りと友情という名の派閥の形成か……」


 子爵以上の家ならば、家庭教師を雇って教育を施すことが普通だ。実際、テオドールはそうだった。それをしないと言うことは、すなわち登校することに利があるということだ。たしかに幼い頃から友情を育んできた家臣は、そう簡単に裏切らない傾向にある。


「中央貴族の皆さまは政治がお好きですから」

「政治もいいが、騎士に必要なのは武力だ。中央の文化的な先進性は素直に賞賛するが、平和ボケと断ぜざるをえない。もし、ヴォルフリート様が存命だったら、王に反旗を翻す可能性もあったな……」


 あと十年長くヴォルフリートが生きていたら、そういう未来もあったと思うし、おそらくスヴェラートは謀殺ぼうさつされていただろう。そして、テオドールはフロンティヌス家の血縁として、公爵家幹部として、精神的にすり潰されながら働き続けていたかもしれない。

 考えただけで、ぞっとした。


「……平民になったと言うのに、まだ国の行く末を考えるのですか?」

「あ、愛国的な詩のためだよ。そういうのもウケがいいし……」

「首を突っこみすぎて貴族の政治に巻き込まれないといいですね」


 リュカはテオドールの手をにぎってくる。その手を握り返しながら「ああ、かかわりたくないよ」とため息まじりにボヤいた。「なのに、腐っても貴族のアレを使うのですか?」と不快そうな声でリュカはつぶやく。アレとはベアルネーズのことだろう。


「吟遊詩人の詩を作るにあたって、やはり友情や青春というのは、大事なテーマだと思うんだ」


「……男の友情を私が理解できないとでも? お望みならば、ずっと男装しますよ。幼い頃は一緒に駆け回ってたじゃないですか」


「そりゃあ、まあ、そうなんだが……でも、そういうことじゃなくて……」

「冗談です。少しテオ様を困らせたくなっただけです……」


 いたずらっぽく笑うような口調だった。


「充分、困らせられたよ。レイと再会した時は驚いた」

「そのくらいは甘んじて受けてください。レイ様の心痛は私の比ではありませんでしたから」


 反論しようがないし、そのとおりだと思うので黙り込んだ。


「今後、どうしますか? レイ様と一緒に暮らしますか?」


「いきなりなにを言ってるの?」


「日替わりで家を行き来する形にしますか? 両方とも妻とお認めになられるのでしたら、レイ様を本妻、私は側室という立場で邸宅についていきますけど……」


「いや、それは……ますますもって貴族令嬢をすけこますヒモ野郎じゃないか……レイにも変な噂が立つだろ」

「本日の一件で充分大きな噂になるかと思いますが?」

「……そんなにイジメるなよ」

「時々、こうしてテオ様をイジメたくなるんです」


「リュカって猫耳族みたいにマイペースだよな」

「にゃあ……」


 もたれかかってきたまま、リュカがテオドールの首筋に口づけしてきた。そのままクスリと笑い、身を離す。


「このままだとテオ様を襲ってしまいそうなので、今夜は失礼しますね」

「お、おう……」

「では、おやすみなさいませ、テオ様。また明日」

「ああ、おやすみ。また明日」


 そのままリュカはテオドールの部屋を後にした。

 一人残されたテオドールは自分の股間へと視線を落とす。


(リュカのことは大好きなのに……まったく、うんともすんとも言わない……)


 テオドールは天を見上げた。


(まあ、今はこれでいいのか……リュカやレイに手を出そうものなら、なし崩し的に貴族に逆戻りしそうな気がする……)


 二人のことは愛している。

 だが、またあの生活に戻りたいとは死んでも思わない。


(平民のまま二人と結婚できたらいいのに……って考える俺はほんとにクズだな……)


 ため息をつきながらソファーから立ち上がり、自分のベッドへと倒れ込んだ。



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