家に見知らぬRPGゲームが届いた。
「お兄ちゃん! なんか届いてた!」
その声と同時に和人の自室のドアが開かれた。そこに現れたのは、だらしない恰好をした和人の妹、さくらだった。今日は休日ということもあってか、少しボサボサとした髪を後ろで束ねていた。和人とさくらの親はお出かけ中だ。
「なんだようっせぇなぁ、今勉強してるところだったのに……」
和人は少し不機嫌な態度を見せるも、すぐに機嫌を取り戻し妹のさくらの方向を向いた。
「で、何が届いたって? その手に持ってるやつか」
さくらの両手には何やら大きい箱を抱えている。もしそれがその箱に見合う重さだったのだとしたら、中2の妹ではこのように軽々と持てないだろう。恐らく箱の大きさに対し、中身はそんなに入ってないと和人は推測する。
「そうなのー! なんかインターホンの音がしたなって思って出てみたらこの箱だけが置かれてあって。お兄ちゃんが頼んだの?」
「ん? いや、ここ最近は何も頼んでないぞ? まだ届いてないものもないし……」
「じゃあこれは何? 親が頼むなんてことも絶対しないしなぁ」
「一旦開けてみようぜ。俺ん家に届いたんだし、開けてもいいだろ」
「そうだね! 開けよう開けよう!」
そう言って、さくらは床にその箱を置いた。和人もその箱の横に座る。
「じゃ、開けるぞ」
「はやくはやく!」
「急かすんじゃねえ。俺だって未知の箱をそう容易く開けられねーんだわ」
そう言いながらも、和人は箱の切れ目に手を当てた。さくらが「せーのっ!」といったと同時に和人はバッとどの箱を思い切り開けた。そこに入っていたものは……。
「なんだこれは……」
「……ゲーム?」
見るからに古い家庭用ゲーム機、ハードウェアだった。それもスーファミのようなテレビに繋ぐタイプの奴だ。というかほぼスーファミだ。十字キーといくらかのボタンが備わった有線コントローラも二機ある。
「まさかこんなものが届くとはな……。そもそもこれが俺らの物だなんて保証はないし、箱にも届け先なんて一切書かれていない。見るからに怪しいが……」
「せっかく届いたんだし、やろうよ!」
さくらはどうも一切躊躇せず、本気でこのゲームをしたがっていた。和人もやれやれと顔をしかめるが、諦めたようで箱を手に持った。
「ホント豪胆な妹だぜ……とにかくこの部屋にテレビはないからリビングいくぞー」
「了解ー!」
◇
「よし、これでいいか」
和人はその得体も知れないゲーム機をテレビに繋げていた。
「つける?」
「そうだな。見たところソフトウェアはないが、大丈夫か? 電源がついて終わりなんてことは辞めてくれよ」
和人はテレビの電源を付けてから、そっとハードウェアの電源も付けた。さくらの目は何故かすごく輝いている。
テレビの画面に映ったのは──
「RPG……だと? それも2Dか。まあこれだけ古かったら2Dで当たり前だと思うが」
映るのはごく普通の2DのRPGだ。昔に一時期流行ったのとほぼ一緒くらいの画素が低い感じ。
「なになにー? これ面白いの?」
「一般的にRPGは面白いと思うが、このゲームはどうだろうな。やってみないとわからない。見たところ二人でプレイ出来るみたいだから一緒にやるか」
「やるやる!」
二人はテレビの前に座り、コントローラーを握る。そのまま和人はスタートボタンを押した。
始まったのはゲームのオープニング。内容は魔王が何たらだとか。
「ふむ、このゲームのクリア条件は魔王の討伐ということか。普通だな」
「難しそう?」
さくらが問う。
「今のところじゃ別に難しそうに見えないけど」
「じゃあ、さくらも出来るね!」
「そうだな。どうせターン性の出番が少ないゲームだとは思うけどな。俺が1Pだし……」
「でもお兄ちゃんのプレイが見れるならいっか~」
「なんていいやつなんだ。お前も立派に育ったな」
「へへ~、お兄ちゃんの妹だからね!」
「く、泣かせる気かお前……」
「あ、始まったよ!」
さくらの声に和人は画面を見る。二人ともコントローラーを構え、そのストーリーにのめり込むのだった。
◇
──魔王の謁見──
魔王『ガハハハッ、よくぞここまでたどり着いた。』
1P『平和を取り戻すため、お前を倒させてもらう!』
魔王『やってみろ。我に勝てるかは知らんが。負けたときは貴様の側近を渡してもらうぞ。」
1P『負けなければいい話だ!』
魔王『そうか。では、いざ勝負といこうじゃないか。』
和人とさくらは見事に目の前のゲームにのめり込んでいた。
ここまでざっと四時間。RPGにしては意外と短かいストーリーだった。だが短いわりに内容も凝っていて、二人とも時間を忘れて続きを進めていた。今は最終ストーリーの魔王戦だ。こいつを倒せばこのゲームはクリアする。
魔王『よくぞここまで耐えた。我が最終必殺を見せるとしよう。さらばだ。〈エンドダストストーム〉!』
《HPが0になりました》
1P『なん……だと……』
魔王『ガハハハッ、矮小な弱小生物が。我に挑むとは1000年早い! ふむ、では約束通り貴様の側近を渡してもらおう。』
《魔王はあなたの側近、2Pをさらっていきました》
そのメッセージが表示されると同時に、プツンッとゲーム機の電源が落ちた。
「ふぅ、いつの間にかかなりのめり込んでたな。ストーリーもかなり凝っててやりがいもあったし。てか最後の攻撃強すぎるだろ。もっとレベル上げた方が良かったのか? いやそれでもあの攻撃は耐えれそうにないし……無理ゲーか……どうだった? さくら、楽しかったか? ってあれ、さくら?」
和人が横を見ると、そこには先程まで一緒にプレイしていたはずの妹がいなかった。
「あれ? トイレにでもいったのか?」
だが物音も何もない。そこにはただの静寂だけがあった。先程まで隣にいたさくらの温もりも何もない。
「まあいつか戻ってくるか」
そう言って和人はその場を離れ、水を飲みに行った。
それから数時間後。親も返ってきて、晩飯の時間になった。
「和人? さくらはどこ?」
「え、まだいない?」
「まだってどういうことよ。いつまでいたの? それにそのゲームは何よ。早く片付けなさいよ」
「え、ああ、まだ片付けてなかったか。それよりさくらはマジでどこにいったんだろう……こんな時間になっても帰ってこないなんて……」
和人はゲーム機を直そうとしてテレビに繋いでいたコードに手を掛けた。
2P『おにい……ちゃん…………たす、けて……』
「ん? さくら? いや気のせいか」
お読みいただきありがとうございました。
感想評価等頂けると嬉しいです。
反応が良ければ続編も書く予定です。