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 教師が入室してきた。イードルとサバラルとゼッドがいることに何も反応しない。学園側が協力していることが決定的となり、三人は気落ちする。心のどこかで『ここは淑女科です。男性は出ていきなさいっ!』と言われることを期待していたのだが無駄である。


 イードルとサバラルとゼッドという強烈な存在を無視して淑女学の教師は授業を開始した。


「それでは、教科書五十一ページ。本日は花言葉についてです」


 イードルたちの前にも教科書は用意されており、手元の力加減を変えると転びそうな三人のためにメイドが教科書を開いてくれる。


 教師の指示で指名された女子生徒が立ち上がって音読をした。音読が終わったタイミングでイードルが手を挙げた。


 教師は普通のことのようにイードルを指名する。


「はい。イードルさん。どうしましたか?」


 イードルは立ち上がろうとしたが、教師はすぐさま止める。


「そのままで結構ですわ。立ち座りに時間がかかるのは困りますから。それは後ほど練習なさっておいてくださいね。お茶会などでは必要なテクニックですよ」


 イードルは息を呑み、ゼッドは目を丸くし、姿勢もままならないサバラルは顔を青くした。


「では、このままで失礼します」


 王族といえども生徒なので、名前は『さん』付けで、敬語使いである。


「花言葉など何に必要なのですか?」


「男性的な質問ですね。みなさんにとってもとても新鮮な質問なのではなくて?

お答えしてみたい方はいらっしゃる?」


 何人かの生徒が手を挙げ、教師が一人を指名する。指名された生徒はスッと立ち上がる。このクラスにとってこの格好での立ち座りはできて当然のことなのだと目の当たりした。


「社交に必要だからですわ。贈り物一つでもお心遣いがわかったりいたしますわ」


 サバラルが手を挙げた。


「ここから暫くはディスカッションにいたしましょう。わたくしが指名した方は立ち上がらず意見を述べて結構ですわ。では、どうぞ」


 教師が指名したのはサバラルだった。


「贈り物なら贈っていただいた後に調べればいいし、贈る時に調べればいいのではないですか?」


 次に手を挙げた女子生徒を教師が指名した。


「突然目の前で贈り物をされて、その意味を理解せずに受け取ることは失礼ではありませんか? これは有名なので知らない方はいらっしゃいませんが、薔薇の花束をいただいて『好意』を知らないふりをされたら困りませんか?」


「それなら、贈り主に理由を聞けばよかろう?」


 ゼッドが首を傾げながら問うた。


「聞くことが相手に恥をかかせることもありますわ。今の例で申しますと、薔薇の花束を受け取る前に『わたくしには好きな殿方がいます』とお断りするのはいいですが、『どんな意味の花束ですか?』とお聞きしてから断ってはお相手を傷つけてしまうだけですわ」


「それに逆恨みされることもありますわよ。去年、子爵令嬢様が侯爵子息様に刺されましたでしょう? とても美しい子爵令嬢様で、その侯爵子息様から『ストック』の花束をいただいたそうですの。ストックの花言葉を『永遠の美しさ』とお取りになったようですわ。ですが、侯爵子息様は『求愛』という意味で贈られたのでしょう。後日正式に婚約のお申し込みに赴かれお断りされ、その数日後に殺傷事件となりましたわ。

子爵令嬢様が両方の意味をご存知でありましたら、きっと花束を受け取らなかったのではないかしら?」


 クラス中がゾッとした。

 高位貴族が下位貴族を虐げた事件なので特に国としては問題とはされなかったものの社交界では噂になるし、そんな乱暴をする侯爵子息に嫁ぎたがる令嬢はいないだろう。その侯爵子息は領地の隅で隔離されている。


 それから花束を贈り物にすることについて意見がいくつか交わされた。


「イードルさん。このように贈り物についてだけでも花言葉の重要性は理解されましたか?」


「はい!」


 イードルは真面目な顔で頷いた。

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