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頬を染めるイードルたちを見たメイドたちはサッとスカートを元に戻した。
制服組のスカートは七分丈が黒のタイツや膝までの靴下を履くことが義務づけられている。メイド服も平民服もスカートは長い。
ほっそりとした生足首は若造には眩しいものだった。
イードルたちが邪な気持ちを抱いていることに思いもつかないフェリアたちは、イードルたちはヒールの高さに驚愕していると思っている。
「わたくしたちのヒールの高さは七センチですわ」
バーバラに合わせて妖艶な笑みが並ぶ。
「外での茶会でしたら太いヒールですけれど、室内茶会でしたらもっと細いヒールですわね」
イードルたちの靴はどう見ても極太ヒールで安定感がありそうだが、フェリアたちのヒールは細かった。
「ダンスで翻った時にお靴を見られているのですわ。三センチのヒールでは恥をかきますわね」
フェリアたちはクスクスと笑いながら話している。
「いやいや、足を見るなどマナー違反だろう?」
イードルはしどろもどろだ。
自分たちから覗いたわけではないが今マナー違反をした自覚はある。そしてその背徳感がさらなる邪な気持ちを呼ぶ。
「イードル殿下。それは紳士のマナーですわよね? 女性たちは足元を見ております。無様なお靴も履けませんし、無様なステップもできませんわ」
「夜会ではパートナーに合わせてもっと高いものを履きますわ。わたくしは普段は十二センチのお靴ですわね」
ルルーシアはフェリアとバーバラより頭半分ほど背が高い。しかし、ゼッドはイードルとサバラルより頭一つ背が高い。
「「ゼッド様は高身長ですものねぇ」」
「お二人もでしょう?」
「わたくしは十センチのお靴ですわ」
「わたくしもですわ」
フェリアたちの会話にイードルたちはあ然とする。それぞれの婚約者たちとのダンスは何度もしているが、まさかこんなハイヒールのもっとすごいものを履いて踊っていたことは知らなかった。
六人の話を他所に、いつの間にか後片付けは済まされていた。イードルたちの服も衣紋掛けにキレイに掛けられている。
「では、わたくしたちはこれで失礼させていただきます。明日の朝、また参りますので」
メイドリーダーらしき者が挨拶してきた。
「ありがとう。王妃陛下によろしくお伝えくださいませ」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げて多くのメイドたちが退室した。六名ほどが残る。
「王妃陛下と言ったのか?」
イードルが震える声で確認した。
「ええ。彼女たちは王妃陛下の専属メイドですわ。王妃陛下がご厚意で遣わせてくださいましたの」
そう言われれば、王子であるイードルにも遠慮のない着替えさせ方であった。
「その特注のお靴も王妃陛下からのプレゼントですわ」
「明日からもお着替えのお手伝いをしてくださるそうでよろしかったですわね」
「私たちは嵌められた……?」
「イードル殿下。それは違いますわ。わたくしたちはみなさまの『真実の愛』を応援しておりますのよ」
フェリアの笑顔にイードルは震える。
「フェリア……。殿下……呼び……」
「婚約を見直しているところですもの。当然ですわ」
フェリアは普段は『イードル様』と呼んでいる。少しの違いかもしれないが、イードルにとってフェリアが『殿下』ではなくイードル自身を見てくれているようで、その呼び名を気に入っていた。
イードルはガクリと項垂れた。
「僕たち(サバラルとゼッド)は何も……」
サバラルは涙目でバーバラを見た。サバラルとゼッドは『リナーテを愛している』とは公言していない。だが、リナーテが王妃となることが決定のような発言はしたし、淑女教育が簡単なものであるような発言もしている。
「サバラル様ったらっ! うふふ。
リナーテ様が男爵令嬢であるだけでは『彼女が望む国』を作るなんて、まわりが許してくれませんわよ?
リナーテ様に王妃になっていただきたいのでしょう?」
「違う……違うんだ……」
サバラルの頬に一筋の涙が流れた。
「…………」
ゼッドは口をパクパクさせている。
「ゼッド様も、男爵令嬢であるリナーテ様を『近衛騎士としてお守りする』ことはできませんでしょう? リナーテ様に淑女A科に移籍するお気持ちを持っていただかなくてはなりませんわねっ?」
ルルーシアは『ねっ?』を強調するように細い首を傾げた。