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『パチン』


 イードルに先程『婚約解消』を持ちかけられたフェリアが笑顔で手を一つ叩いた。フェリアは前に出て、リナーテが少し下がり二人は並んだ。


「まあ! それは素晴らしいお考えだわ!」


 フェリアはイードルたちが意見をする間を与えずにリナーテに賛成した。


「おっ、おい、待てっ」


 イードルはびっくりしてフェリアの方へ手を伸ばしたが、それが目に入ったはずのフェリアはサッと右隣まで来た少女に視線を移してイードルを無視した。


 イードルの手が彷徨い力なく落ち、それから額に手を当てて今の話を思考しだした。

 イードルにしてみれば訳がわからないし、状況把握が正確にできない。


『そもそも男が淑女科へ行けるわけがない。

それにしてもフェリアはなぜこんなにも落ち着いているのだ? リナーテ嬢の意見に即賛成とはどういうことだ。

それにこの立ち位置?? なぜリナーテ嬢はそちらにいるのだ?』


 イードルが難しそうな顔をしていることなどお構いなしに話は進んでいく。


「ええ。わたくしも、賛成ですわ」


 フェリアの視線の先、フェリアの右隣に来た薄水色の髪に紺色の瞳、麗しいドレスを着た女子生徒が大輪の青薔薇のような笑顔で賛同した。

 フェリアもその笑顔に答え向日葵の笑顔を見せる。


「バーバラ……」


 サバラルはその賛同に驚いて婚約者を見た。サバラルの婚約者バーバラは侯爵令嬢である。


「もちろん、サバラル様もご一緒ですわ」


「とても楽しみですわね」


 リナーテの左隣に来た濃緑の髪をポニーテールにした女子生徒が金色の瞳を優しく三日月にする。少しばかり長身で姿勢がよく色白の肌に金色の瞳の彼女はカラーの花によく例えられている。


「ルルーシア! な、なにをっ!」


 婚約者の言葉を否定しようとゼッドが手を前に出すが、ルルーシアはカラーの花が咲き誇るような笑顔を向けるだけで手を伸ばしたりしない。ルルーシアも侯爵令嬢であるので、素敵なドレスを着ている。


「リナーテ様は『お三方』と仰ったではありませんか」


「「「「うふふふ」」」」


 イードルとサバラルとゼッドは婚約者たちの笑顔が恐ろしく感じ蒼白となっていた。


「では、早速、お着替えからしていただかなくては。

お願いね」


 フェリアが視線を投げれば、学園のメイドと思われる者たちがどこからともなく十名ほども出てきて、イードルたちを拉致していく。

 メイドとはいえ、女性たち三人に背中を押されさすがのイードルも思考が停止し、先程まで考えていたことはすべて彼方へ飛び去った。


 三人の背中が見えなくなるとフェリアとバーバラとルルーシアはリナーテに向かい合った。


「リナーテ様。次回の淑女A科一組のお茶会には貴女もご参加いただけるようにしておきますわね」


 向日葵のような優しい笑顔が花開く。


「フェリア様。ありがとうございます。光栄です」


 リナーテは制服であるがぎこちないカーテシーで返す。フラッとよろけてしまった。


「こんなんですけど、大丈夫ですか?」


 リナーテは苦笑いをした。


「ふふふ。貴女の今のお力は理解しておりますわ。それを理由に虐げるようなことはいたしませんわよ」


 青薔薇のような清楚な笑顔が咲く。


「バーバラ様。ご理解いただき感謝いたします」


「そもそも虐げるような浅ましい心根は持ち合わせておりませんもの」


 カラーの花のような凛々しい笑顔が輝く。


「ルルーシア様。皆様がお優しいことは存じております」


「「おほほほ」」「「うふふふ」」


 リナーテも野菊のように可愛らしく笑った。


 野次馬たちの一部が肩を窄めてそそくさとその場を立ち去ったのを四人は目の端に捉えるがわざわざ指摘はしなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃ、「事構える気はない」を明言しているし、本音が「淑女のつらさ、思い知れ」で一致しているのに牙を向けるほど狭量でも浅慮(敵意のない人間に牙を向けて敵に回してもしょうがない)でもないよねぇ…
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