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侯爵夫人はうっとりとしていた顔を今度は顰めさせる。
「彼女の娘さんをお嫁さんとして迎えられるなんて、なんて幸せかしらと感激していたのよ。
それなのにっ!」
『ポスポスポス』
侯爵夫人はゼッドを思い出してクッションを殴った。
「あちら様はなんと?」
「ルルーシアの判断に任せると仰るの。『ルルーシアは己をしっかりと持っているので大丈夫ですよ』ですって。
嫁いでも親になっても凛として堂々とした姿はかわらないのよぉ!
本当に素敵な親子なの」
「まあ! それはそれは素晴らしい方々とご縁を持てましたのですね」
「ご縁が持てるかどうかはあのおバカ次第よっ! 本当に癪に障るったらないわっ!」
侯爵夫人は再びクッションを殴る。その手をクッションの上で止めた。
「でも、ルルーシアが涙を見せたなら、まだ可能性はあるかもしれないわね」
「そうですね。期待と情があったからこそ耐えきれず涙なさったのでしょうから。それにゼッド坊ちゃまに少しはお心を赦していらっしゃるということでしょうし」
真顔で頷きあう二人。
「そうよね。
だけどあのおバカにはそんなこと教えてあげないわ。図に乗りそうだもの。
それにしても、ルルーシアが家の外で泣くなんて余程よね」
「それに関してルルーシア様には淑女としてご注意申し上げるのですか?」
淑女なら外で涙を流すなどあってはならないことだ。
「まさかっ! ルルーシアはまだ十七歳なのよ。特級淑女見習いとしてとてもよくやっていると思うわ」
「ふふふ。そうですね。お嬢様が学生の頃はもっとヤンチャでしたものね」
メイドは思い出して楽しそうに笑う。
「もう! お嬢様呼びなんて恥ずかしいわ」
「お外ではいたしませんよ」
侯爵夫人はぷぅと頬を膨らませた。
「淑女が飛んでおいでです」
「わたくしもお外ではいたしません。あの頃だってお外ではヤンチャではなかったでしょう?」
二人は目を合わせて笑う。侯爵夫人は紅茶を口にした。温くなってしまっているが、本来はこれが侯爵夫人の好みであることを知っているメイドは咎めない。
「ルルーシアなら、学園を卒業する頃にはわたくしよりずっと素敵な淑女になっているわ」
侯爵夫人は今日一番の優しげな微笑みとなる。
「いえいえ、奥様も大変立派な淑女でございますよ。ルルーシア様も素敵な淑女となってご卒業されるでしょうね」
メイドも優しく目元を下げた。そしてポットの中の温い紅茶を注ぐ。茶葉はとうに出されており、苦さも香りも侯爵夫人の好みになっている。
「ルルーシアを無事に迎えるためにも、ヤツが二度とルルーシアに楯突かないように締め上げなければ! ねっ!
きっかけは侯爵夫人への憧れだけど、今ではルルーシアをとても気に入っているものっ。絶対にうちのお嫁さんになってもらいたいわっ!」
侯爵夫人は拳を握りしめた。
それから侯爵夫人はわざとゼッドを無視して食事や湯浴みを済ませて寝てしまった。ゼッドは夕食も取らずにひたすら階段の上り下りをした。足にマメができて歩けなくなるころには夜中になっていた。
「女性たちはこんなことを幼き頃からやっているのか。騎士の鍛錬ほどに厳しい……」
大きな誤解のあるゼッドであったが、誰もそれを否定も修正もしない。メイドたちも執事たちも侯爵夫人の意図を大変良く理解しているので、寧ろその誤解を持ったままでいてくれることを望んでいた。
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イードルとサバラルも母親たちから指導を受けまくり、その後メイドたちからもみくちゃにされ、自分への失意と淑女教育の疲労でベッドへと沈み込んだ。
この後の男たちの奮闘と淑女たちのお怒りは是非書籍(電子書籍もあります)またはコミック本(電子書籍コミックもあります)でお楽しみください。
今後とも応援よろしくお願いします。




