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姉の睨みに動けなくなったサバラルは頭だけは懸命に回転させて幼き時の茶会の様子を思い出そうとした。
公爵家で次期公爵となるサバラルのお披露目を兼ねたお茶会が開かれた。そこにはサバラルの友人となるだろう年頃で高位貴族の少年少女が母親とともに招待されていた。主催であるサバラルの母親の前に次々に挨拶に来た招待客たち。その中で青薔薇の蕾に一目で恋に落ちたのだ。
「環境が変われば貴方の気持ちも変わるのかもしれないわね。それは仕方のないことなの。自由恋愛ですもの。でも、それならバーバラの手を離してあげなさい。早急に、ね」
「っ!!! それはっ!」
「何? まさか自分は家の外で自由恋愛をして、バーバラには家を守れとか言うつもりなのかしら?」
感情的に声を荒げるサバラルに対して姉はことさら起伏のない冷静な口調になる。
「そんなことしませんっ! 僕は、その、最近のバーバラを知らなかったから……」
「それなら、バーバラの学園での様子を、そして努力を知った今はどうするつもりなのです?」
「え?」
姉にそこを追求されることは予想しておらず答えに窮した。すぐに答えられないサバラルに姉はため息をつく。
「貴方たちの一つ下に、旦那様の妹、わたくしの義妹がいるのは知っていますね?」
「はい」
「貴方たちの不義なる行動は噂になっています」
「なっ!!」
サバラルは顔を青くした。『不義なる行動』と言われているとまでは思い至らなかった。リナーテを可愛らしいし愛しい者だとは思っていたことはあるが、イードルに譲ったと考えていたからだ。
「なんでも、中庭で騒ぎを起こして顰蹙を買っているそうね。お母様からも聞いたわ」
姉はフンと胸を張る。
「貴方は殿下に譲ったつもりかもしれませんが、だからといって貴方の不義なる心は周りに知られているのですよ。
伴侶になる予定の者に不義な行動をされた挙げ句に、努力も認めて貰えない。そんな者に嫁ぎたいと思うわけがありませんわね」
サバラルは思わずソファから落ちて床に膝をついて座り込んだ。まさに『バーバラにそう思われたかも』と不安になっていたことだった。
「自分の行動とバーバラの努力をもう一度考えてみなさい」
「っ! はい……」
「そうそう。お母様がわたくしの息子二人に会いにいらしたのよ。二人とも優秀だと褒めてくださったわ。そして、二人に『女性を大切にする男になれ』と仰っていたわねぇ」
「なっ!! いつですっ!」
「昨日よ。貴方の愚行をお母様からも聞いたと言ったでしょう?
お昼間にお母様がお見えになってお話を聞きました。お母様からだけのお話を鵜呑みにはできないと思って義妹からもお話を聞いたのよ」
サバラルは膝に肘を突いて顔を手で覆った。母親の怒りの具合を改めて感じ取った。
「公爵家の跡取りは貴方だけではない……のよ。うふふふ」
サバラルの兄弟はこの姉だけだ。なので後継についてこれまでは不安に思うことはなかった。
『母上はそこまでお怒りであるのか……』
「お母様はわたくしが嫁いだ後は、ことさらバーバラを可愛がっておられたもの。ねぇ?」
サバラルには思い当たることがあり過ぎて顔色を青から白に変えた。
姉の目配せで執事が動きサバラルを立たせた。
「本当は今夜にでもわたくしが実家へ行って貴方とゆっくりと話をするつもりだったの。
そう……ゆぅっくりと、ね。
でも、貴方の方からここへ来たということは少しは反省しているということだと考えて差し上げるわ。
貴方のことはお母様にお任せするわね」
口頭伝達を執事に指示する。
サバラルは伝達係の執事とともに追い出されるように姉の嫁ぎ先から帰らされた。




