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 背もたれのない椅子でリラックスするイードルとサバラルとゼッドであった。


「背もたれのない椅子は晩餐会やお茶会などで使うには気品がありませんわ」


「それに、殿方に望まれない椅子だと思いますわ」


「確かに茶会や懇親会で背もたれを使わないということはないかな」


「昨夜、母上に指摘されるまで女性たちが背もたれを使っていないなど見てもいなかった。ケツが背もたれに触れていないのは落ち着かなかった……」


 イードルたちは昨夜のことを思い出しゲンナリする。


「普段の授業で背もたれのある椅子を使うことも淑女のお勉強の一つですわ」


 確かに昨日の淑女A科の様子を鑑みると納得するしかない。


 そうしていると教師が医務員とともに入室してきた。目の前にはすでにそれぞれの教材が並べられている。


 医務員はイードルたちのテーブルの近くに置かれていた椅子に座って待機した。教師の声掛けで各々の作業が始まる。


 このテーブルだけはイードルたちへの指導が行われることになっていた。


「今日はバックステッチのやり方です。そちらに真っ直ぐな線が書かれていますね。そこを縫っていただきます」


 そして、それぞれの婚約者に指導していく。


「同じところに刺さらん……」


「同じところでないと絵に穴が空いてしまいますわ」


「線の上に針がこないよ」


「線がよれないようになさってくださいませ」


「小さい……」


「縫い目の大きさは揃えてくださいね」


 テーブルの真ん中にはフェリアとバーバラとルルーシアの作品がお手本とばかりに並んでいた。真っ直ぐに縫うことさえできない三人はフェリアたちの作品を自分が作ることを考えたら気が遠くなった。


 三人はフェリアたち婚約者から刺繍入りのプレゼントをいくつももらったことがある。これまで気軽に受け取ってしまっていたが、まさかこんなに技術も手間もかかるものだとは知らなかった。


 三人は何度も何度も指に針を刺してしまい、その度に医務員が様子を見に来てくれた。そして、自分たちのための医務員なのだと理解した。フェリアたち以外の女子生徒は普通に難しそうな刺繍をしているが、医務員を呼ぶ者などいない。


 数センチほどしか進まなかった刺繍が施された布は赤い点々がいくつもついている。三人は自分の不器用さにため息が漏れた。特にゼッドの不器用さは称賛さえしたいほどであり、刺し直しては刺し直し、三針しか進ませることができなかった。


「俺はこんなにも不器用なのか……」


 何でも一人でこなせると思っていたゼッド。フェリアたちは困ったと微苦笑いで慰めた。


 刺繍の時間が終わり食事のために六人で王家用の個室へ向かうことになった。歩くことが一番下手なサバラルはみんなより少し遅れた。バーバラがそれを笑顔で待ち並んで歩く。

 足元が覚束ないサバラルは両脇をメイドに支えられているが下を向いて歩いている。


「バーバラ。今更だけど、手袋ありがとう。僕。大切に使うから」


 バーバラから去年贈られた手袋には右手にサバラルの家の家紋とサバラルのイニシャル、左手には羽ばたく鳥の刺繍がされていた。


「うふふ。嬉しいですわ」


 サバラルは少しだけ左側に顔を上げてバーバラを見た。バーバラの本当に嬉しそうで恥ずかしそうな笑顔にサバラルはドキッとしてしまった。そんな自分に慌てたサバラルは仰け反ってしまい、ステンッと仰向けに倒れた。スカートが腰まで翻る。本当に女性であったら致命的だったろう。


「きゃあ! サバラル様!」


 バーバラの叫びで警備員が駆けつけ、サバラルの両脇を抱えて医務室へ行くことになってしまった。

 床が柔らかい絨毯であったため、怪我もなく、昼食に間に合う時間にみなに合流できた。

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