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ゼッドが頭を後ろにダランとさせると髪に何かを塗られ頭皮マッサージが始まった。
『うををを……何という気持ち良さだ。香りも素晴らしい。これが香油か。このまま堕落していきたくなる。神経も……緩む…………』
全身を完全に弛緩してメイドたちに全てを投げ出したのは八歳のとき以来だ。口をパカンと開けて目を瞑りリラックスした。
しばらくするとマッサージされていた足が湯船の中に戻ってきた。ポカポカと全身が喜んでいて、ゼッドに軽く睡魔がやってきた。
「毛を柔らかくいたします。ゼッド様の毛は硬いのでお時間がかかります」
緩み放題のゼッドにはメイドの説明が頭に入っていかなかった。
ここで無理矢理逃げ出せば地獄は来なかったかもしれない。
ゼッドにしてはかなり長い時間湯船に浸かった。
「浴槽からお出になってください」
素直に出るゼッド。これで開放され、この気持ちのままベッドへ行けるかと思いきや、どこから用意されたのか浴室に木製のベッドが用意されていてそれに仰向けにさせられる。大切な所にはタオルを載せ、なぜかメイドの一人がゼッドを押さえつけた。
「何をするっ!?」
弛緩した頭では怒鳴ることもなくキョロキョロと見回す。しかし、味方になりそうな者はいない。
「少しだけ痛くなりますので、耐えてくださいませね」
『ザリザリザリザリザリ』
「イタタタタタタタッッッッ!!
何をしているんだぁ!」
寝惚けていたゼッドでも一瞬にして目を覚ました。
「すね毛を剃っております」
メイド四人がかりでゼッドのすね毛を軽石で擦っていた。
ゼッドの叫び声は続き、何度めかに足を動かした時にかえって危ないと執事が呼ばれ革紐で拘束された。
「今日は御御足だけですわね。明日腕をやりますわ」
「スカートで見えぬのだ……。腕だけでよかったのではないのか……」
「見えぬところもケアすることが淑女でございますわ。ゼッド様はご婚約者のルルーシア様の御御足が毫毛でしたら嫌でございましょう?」
ゼッドは今日見たルルーシアの細い足首をそして細いウエストを思い出し、夜には違う意味で悶絶することになったが、それはそれである。
すね毛の処理をされ洗い流されたゼッドは、先程の木製ベッドにタオルを何枚も重ねた所へうつ伏せに寝るように指示された。
『まだ地獄は続くのか……』
疲れ切って表情筋の動かなくなったゼッドは促されるままベッドへ横たわる。
そして、そこから四人のメイドによって全身マッサージを施される。先程湯船でされたマッサージとは異なり力を込めてまるで何かを絞り出すようだ。
ゼッドは悲鳴を上げていたがメイドたちの手が止まることはなかった。
〰️ 〰️ 〰️
翌朝、フェリアとバーバラとルルーシアが授業開始の二十分前に例の着替え部屋へと入室するとイードルとサバラルとゼッドはすでにドレスに着替え、鏡の前に立っていた。
フェリアたちは優雅にカーテシーをしてイードルたちに挨拶をした。
「お前達。遅いではないかっ!」
イードルの言葉とともにイードルとサバラルとゼッドは入口の方へと振り返った。
「「「まあ! 美しい!」」」
フェリアとルルーシアとバーバラは感嘆の声を上げた。
「侍女長。素晴らしいお仕事だわ」
「ありがとうございます。素材は特級ですのでやりがいがございました」
「本当に素敵ですわ。わたくしもお願いしたいくらいです」
「我が家にもご指導にいらしていただこうかしら」
「さすがだわ。明日からもお願いしますね」
「「「「はいっ!」」」」
フェリアたちの賛辞に王宮メイドたちは頭を下げる
女性たちのそんなやり取りは少し離れたところで動けないイードルたちには聞こえていない。