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コルセットに慣れないイードルとサバラルとゼッドは息絶え絶えで共同棟に用意された着替え部屋まで到着した。
『『『こんなものを着けてパーティーなんてありえない……』』』
まだ午後半日の授業で椅子に座っていただけなのに疲労困憊である。
着替え部屋に入ると疲れ切ったイードルとサバラルはメイドに頼んで真っ直ぐにソファへと赴いた。
そして、長いソファの端と端に座る。しかし二人は体のダルさのせいでパニエのことをすっかり忘れていたようで普通に深く座ろうとしてしまった。
『ゴッチーン!!』
二人で内側によろめいてしまい、二人の頭がソファの真ん中でぶつかりものすごい音がした。フェリアとルルーシアとバーバラ、そしてゼッドやメイドも痛そうに顔を顰めた。当の二人はソファから転げ落ちて頭を抱えて蹲る。
しばらくして女性たちは笑い出した。二人は涙目で恨めしそうに女性たちを睨んでいた。ゼッドは何とも言えない顔をしている。
「それでは、わたくしたちは帰りますわね。明日は始業の一時間前にこちらへいらしてくださいませ」
「おいっ! 着替えはっ?!」
イードルが慌てて引き止めた。
「メイドたちがお手伝いしてくださいますわ。では、これで」
フェリアとルルーシアとバーバラは美しいカーテシーをして退室していった。座り込んだままのイードルとサバラル、突っ立ったままのゼッドが恨み言も言えずに取り残された。
メイドに着替えを手伝ってもらい帰宅するイードルとサバラルとゼッドだが、家は安らげる場所ではなくなっていた。
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イードルが王宮へ戻るとメイド長がハイヒールを持ったメイドを従えて威風堂々と待っていた。イードルはポーカーフェイスをふっ飛ばして思いっきり苦い顔をする。
「淑女はそんなお顔をなさいません」
静かだが有無を言わせない雰囲気でイードルも反論できない。
「こちらをお履きください。王妃陛下が殿下のためにご用意してくださりました」
「なぜっ?!」
「本日の午後の殿下のご様子を大変残念に、そして不甲斐なく思われたそうにございます」
「でも、これは特注なのだろう? 前もって用意していたということではないのか?」
イードルは先程注意されたにも関わらず訝しんだ顔をする。このメイド長とはそれほどの仲である。
「前もって、殿下の不甲斐なさを予見されていたということでございます。
たかだか午後だけでもお耐えられになれなかったとか。裸足で廊下を歩かれるなどあってはならないことです」
早い情報に寒気がした。
「本日のお夕食は王妃陛下とご一緒にというご指示をいただいております。その際にはお靴はこれでと指定も受けております。
では、お履き替えくださいませ」
侍女長がイードルの足元にどでかいハイヒールを並べた。拒否権はなかった。
いつの間にかメイド二人が脇に付き、歩く手伝いをするつもり満々である。
イードルはウエストコートにスラックス、それにハイヒールという出で立ちで自室まで歩いた。王城ではないのでメイドや騎士以外とはすれ違わなかったことが、ささやかな救いであった。
付き添っていた護衛ではなく部屋の前で待機していた護衛でさえもイードルを見ても表情を変えない。
部屋に戻りソファに座り込むとハイヒールを投げるように脱ぐ。メイド長はその様子を片目で見て小さく注意する。
「コホン! では後ほどお声掛けいたします。本日、お食事の後は予定がつまっておりますのでお食事の前に宿題や執務などはお済ませくださいませ。
では」
普段よりも深いわざとらしいお辞儀をして下がっていった。