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6 譲る人

 教師は怒りではなく幼子を諭すような声で話しかける。


「全く……。君は毎回毎回話をきちんと聞きなさいと指導しているはずだが?」


 今度は左に傾げる。ニーナの場合、あざといのか天然なのか判断が難しい。そういうところが、女子生徒たちにも呆れられているが嫌われてはいない所以である。


「先週から君の親御さんを呼んでいると伝えただろう? 君の卒業についての話だ。君はこのまま卒業することは不可能だ。その話のために親御さんはいらしたのだ。行くぞ」


 食堂のみんなが啞然とする中、担任教師は有無を言わさずニーナの腕を掴み、「なんでぇ? なんでぇ?」と叫ぶニーナを無視して引っ張り連れて行った。


 ニーナが食堂から連行され背中を見送った一同。


「あらあら。ご卒業が遅れてしまいますと、ご結婚も遅れてしまいますわね? マイゼル様」


「ニーナ様とご結婚なさるのはコンジュ様でしょう?」


「まあ! ラルトン様に譲って差し上げてくださいませぇ」


「「「ニーナとの結婚などありえないっ! ニーナにうちの嫁ができるわけないだろう?」」」


 美男子たちは怒るでなく、泣きそうな顔で訴えた。


「あれほど何度もご忠告申し上げましたのに、今更気が付きましたの?」

「学園は羽根を伸ばす場所ではありませんの。学ぶべき場所ですのよっ!」

「みなさまは勉学でなく恋愛をお学びになったのですわよねぇ?」

「それは領主には必要ありませんわね?」

「領主に必要がないのでなくて、みなさまが領主として必要ないのではなくってっ?」

「領主でなくなるのですもの、ニーナ様を娶られたらいかがですかぁ? 今でしたら早いもの勝ちですわよぉ」

「もしかしたら、一年ほど待つことになりそうですけど、ね」

「あら? 一年後もご卒業できているかはわかりませんわっ」

「領主の妻ではないのですもの、卒業する必要はないのではないかしらぁ?」

「それでしたら、明日にでもご結婚できますわね」


「「「おめでとうございます!」」」


 美少女たちの笑顔での口撃に美男子たちは膝から崩れ落ちた。『領主として必要ない』まさに昨夜、父親たちから通告されたことだった。


「「「ニーナとの婚姻はありえない……」」」


「フラール……。君はこれまでニーナとの戯れを許してくれていたじゃないか……」


「メリナ。ニーナとは男女の関係にはないぞ」


「仲良くはしてたけど、あくまでも四人でいたよぉ。ダリアーナは知っているでしょぉ」


 フラールたちは確かにこれまで黙認していた。美男子たちが指摘したように、常に四人でいたようだし、性的な関係にはなっている様子はなかったからだ。


「先程申し上げましたでしょう。ヘンリ男爵様はニーナ様の嫁ぎ先を全てお断りしてしまったのです」


「ヘンリ男爵様もニーナ様も、第二夫人と妾との違いをご理解なされていらっしゃらないようですわっ」


「三年間―第二夫人になれるまで―の猶予がおありにならないからニーナ様の卒業後の嫁ぎ先がお決まりになっていたはずですのにぃ」


 美男子たちはカタカタと震え出す。妾なら定期的な給金をもらうことで成り立つ関係なので、婚姻してすぐでもありえる。だが、社交に伴することはないし、子供ができても堕胎させられる場合が多い。恋人や愛人とも異なる職業的な関係だ。


 第二夫人となれば、第一夫人の代わりに社交を行うこともあるし、家庭によっては子育てに携わることもある。だから、マナーも教養も必要不可欠とされている。

 それに第一夫人が三年間妊娠しないという条件がある。


「ヘンリ男爵様もニーナ様も第二夫人というお立場を理解されていないと思うのですっ」


「みなさまの代表として数日前にダリス公爵家―マイゼルの家―の執事がヘンリ男爵様にご説明にいかれました。ヘンリ男爵様はかなりショックをお受けになっていたご様子だと報告されております」


 フラールの説明にマイゼルは目を見開いた。 

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