3 ドレスを贈られる人
マイゼルが必死にフラールに声を掛けようとしていることも全開無視できるニーナは何かが違う。
「マイゼルぅ。卒業式が終わったら、四人でコンジュの領地へ出かけようって約束したでしょう。いつにするか決めましょう。
その後、ラルトンの領地の別荘でゆっくりするのでしょう?」
コンジュとラルトンはマイゼルに押し付けられてホッとしたのもつかの間、顔を青くした。メリナとダリアーナがニヤリとした。
「それはそれは素敵な計画ですこと。ネシスル侯爵―コンジュの家―領は山と川があり素晴らしい場所ですもの。楽しんでいらっしゃるとよろしいわ」
メリナの口がにっこりと弧を描く。
「そうですわね。是非ゆっくりとなさるといいわ。ルートス侯爵家―ラルトンの家―の別荘は海に面していて飽きないですものねっ」
ダリアーナが「ねっ」と小首を傾げてニコニコと同意した。
「そうなんですねぇ! 楽しみだわぁ。
三人共、旅行用のドレスをプレゼントしてくれるのでしょう?」
ニーナは美男子三人に満面の笑顔でおねだりした。美男子三人は顔を白くする。
「わたくしの御用達の仕立て屋でしたら、旅行用のワンピースも素敵にあつらえていただけますわよ。ご紹介状をお書きいたしますわ」
「本当ですかっ! やったぁ!」
フラールの笑顔にニーナが喜んだ。
「あ! マイゼル様もコンジュ様もラルトン様もそちらはご利用になったことはございますもの、ご紹介状は必要ありませんわね?
なんでもそれぞれドレスをご注文なさったとか?」
フラールは笑顔である。マイゼルは口をパクパクとさせている。
「「「わたくしはドレスなどいただいたことはございませんが、ねぇ?」」」
美少女三人のにこやかなる確認に、美男子三人は目を泳がせた。この国の女性は個性的な方が多く、ドレスも自分のこだわりを見せることが多いため男性からのドレスのプレゼントは少ない。ドレスの色を聞いて靴やアクセサリーをプレゼントすることが一般的である。
「夏休みのパーティー用にくれたドレスのこと? 三人共、とっても素敵なドレスだったわぁ。なら、そのお店に行きましょうよ」
ニーナはフラールたちが御用達にするようなお店でドレスを仕立てるお金はない。なので、ドレスを贈られることをとても喜んでいる。
「「「ニーナ! しばらく黙っていてくれっ!」」」
マイゼルはニーナの腕を引き剥がしながら、コンジュは眉を寄せて、ラルトンは手を合わせてニーナにお願いした。
ニーナは口を尖らせた。
「あらあら。卒業祝賀パーティーで楽しまれたご様子でしたのに、つれないのではなくって?」
この学園では、卒業式の一週間前に卒業祝賀パーティーが執り行われ、在校生が卒業生を送り出すのだ。
美男子三人はその席で、婚約者へのダンスのお誘いは一切せずにニーナと交代でダンスをし、いつの間にか四人で会場から姿を消していた。
「メリナっ! 誤解だ! あれは、ニーナと踊るのは最後だと思ったからだっ!」
コンジュは瞬きもせず一気にまくし立てた。
「私もだ!」「僕もそうだよっ!」
マイゼルとラルトンが追随する。
「えぇ! 最後ってどういうことぉ? ラルトンの別荘でパーティー三昧なんでしょう?」
ニーナは美男子三人を交互に覗き込んだが誰も目を合わせない。
「ふふふ。最後というお約束ではないようですわね。最初でしょうと最後でしょうと、わたくしたちには関係ございませんが」
ダリアーナはニコニコとしながら目を細め、フラールとメリナは頷いている。