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2 空気が読めない人

 美男子三人は意を決して醜聞を口にした。


「「「婚約破棄を無効にしてほしい!」」」


 婚約破棄などという醜聞が自分以外にも転がっているなどと思いもよらなかった三人はお互いに指を指し合って挙動不審になっている。


「あら? そのことですか」


 メリナが冷たい口調で突き放す。


「ふふふ。わたくしたちの気持ちは決まっておりますものねぇ」


 ダリアーナは垂れたピンクの瞳をもっと下げたが、目は笑っていない。かえって怖い。


「「「気持ち……?」」」


「「「婚約破棄の無効はできかねますわ」」」


 美少女三人は背筋が凍りそうな笑顔で答えた。


 彼女たちの揃った口上に、お互いと自分たちの婚約者とをキョロキョロと見ていた美男子たちの目は、びっくり眼で自分の婚約者である美少女たちへ釘付けになる。

 王子様系美男子マイゼル・ダリス公爵令息は目を見開いて口も開いて焦燥感が溢れている。


「フラール。理由を教えてくれ」


 頭を抱えてフラールから視線を外した。


「メリナ! 何が気に入らないんだ!」


 騎士系美男子コンジュ・ネシスル侯爵令息は選ぶ言葉は威張っているが声は震えていたので迫力は全く無い。


「ダリアーナぁ。なんでそんなこと言うのぉ」


 かわいい系美男子ラルトン・ルートス侯爵令息は大きな瞳から涙が溢れそうになっている。


「「「ご自覚はおありにならないのですか?!」」」


 美男子三人の様子を慮ることなく美少女たちは厳しく言い放つ。自覚のある美男子たちは今まではこれで赦されていたのでとてもたじろいだ。


 そこにすべてをブチ壊すような甲高い声が響く。


「やだぁ! みんなこんなところにいたのぉ? ニーナ、探しちゃったわぁ」


 空気を読まない女子生徒ニーナ・ヘンリ男爵令嬢が満面の笑みで近づいてきた。ピンクのウェーブがかった髪を靡かせ青い瞳をキラキラさせて数歩走り寄るとマイゼルの腕にしがみついた。


 ダリアーナも語尾を少しだけ伸ばす話し方をするが、語りかけるような口調で優しげである。それに対してニーナの話し方は完全に甘え口調の猫なで声である。


「なっ! 俺とは無関係だろう?」

「ほらっ! 僕とはただの友達なんだよっ!」


 コンジュとラルトンはそれぞれの婚約者に向かって前のめりに説明した。裏切られた形のマイゼルはカタカタと震えている。震えながら、ニーナの手を腕から滑り落とした。

 自分たちとニーナとの関係を必死に否定したり、擦られて震えている時点で『自覚』はあるようだ。


「もう! 二人ともヤキモチはなしって約束でしょう。マイゼルは公爵様なんだから」


 ニーナはマイゼルがコンジュとラルトンに気を使って腕を引き抜いたと思った。コンジュとラルトンの間に入り、二人と腕を絡ませておねだりポーズを決める。


「「そうだね! どうぞ! どうぞ!」」


 コンジュとラルトンは、ニーナの腕を自分から引き剥がしマイゼルへと押しやった。マイゼルは二歩ほど離れたが、ニーナは再び笑顔でマイゼルに絡みついた。ニーナはコンジュとラルトンから許可を得たと考えている。


「二人ともいいって! ねっ! マイゼル。これで大丈夫だね!」


 マイゼルは何度も何度もニーナの腕をはらうがまるで猫じゃらしにはしゃぐ猫のように何度でもマイゼルの腕をとった。


 女性たちが呆れたため息を漏らす。


「せっかく、ご自覚の理由の方がいらっしゃったのです。そういう茶番はここではないところでなさいませ。

それとも、恥の上塗りをなさるおつもりですの?」


 フラールは扇で表情を隠した。少しだけ見える瞳は細められ、マイゼルがこれまで見たことがないほど冷ややかである。

 マイゼルは流れ出る冷や汗を止めることは叶わない。空いてる左腕で何度も額を拭う。


「い、いや、待ってくれ」


 やっと言葉を出したマイゼルは左腕をフラールに伸ばすが、ニーナの力が強くて動けない。女子生徒を力ずくで振り解くわけにもいかないので、にっちもさっちもいかなくなってしまった。

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