13【最終話】 ハッピーエンドな人
ちなみに、元より女性の立場が強いこの国では、公衆の面前で土下座までして女性を立てた三人の男たちに対して、社交界の紳士方は心配や称賛の声が社交界の淑女たちに聞こえないように呟かれており、さらに社交界の淑女たちもキチンと謝ったことに関しては認めてあげていた。なので、三人が社交界で冷遇されることはなかった。
冷遇されることはないが、彼らの学生生活の結末は反面教師として長々と語り継がれていくことになってしまっている。
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美男子たちの家からニーナに渡された謝罪金でヘンリ男爵家の借金はなくなり、ニーナは妾婚をする必要はなくなった。
ダリス公爵―マイゼルの家―は懇意にしている豪商をニーナに紹介し、ニーナはすぐにそこへ嫁いだ。
店頭に立っても計算ができないので従業員に馬鹿にされていたニーナだったが、元来の明るさで接客が素晴らしく、会計は周りがフォローすれば問題ないとなり、さほど時間をおかずして従業員にも嫁として認められるようになっていく。
十歳ほど年上の旦那様は強面で近寄り難く見える御人で、これまで裏方ばかりだったこともあり婚姻に恵まれてこなかった。自分とは真逆のニーナを大層可愛がり、生涯ニーナだけを愛し続けた。
ニーナもその愛に応え、子供を五人産んで家族仲良く暮らした。
そして、その旦那様から派遣された会計担当により、ヘンリ男爵家は安定した領地経営をすることができるようになった。
ニーナの父親ヘンリ男爵は無駄遣いなどはしないが、領地経営の才能は全く無い人だったのだ。ヘンリ男爵の予定では、ニーナが妾婚で貰える準備金で借金をある程度返済し、その後は領地を国に返還して、残りの借金は働いて返していくつもりでいた。領地経営を続けていては借金が増えていくばかりだと判断したのだ。
ヘンリ男爵はニーナは妾としての給金で生きていけるだろうと考えており、妾婚はニーナが不自由なく生きていくために用意したものだった。
せっかく安定した領地経営になったので、ニーナの子供を養子にして後継者とすることにした。ニーナの夫は子どもたちに家庭教師をつけ教育費には糸目をつけなかった。それには自分の知識のなさで高位貴族令息たちと仲良くしてしまったニーナからのアドバイスがあった。
ニーナはたった一ヶ月であるが修道院へ入ったことで自分の至らなさを知った。その一ヶ月で教養が身につくわけはないが、己の至らなさを知ると知らないでは全く異なる行動になるものだ。
ヘンリ男爵領は、小さいながらも良い領地として長い間領民に好かれていく。
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その後の美男子たちは、一月に一度、三人での飲酒会が許された。各家に回り番で訪れ、その日だけは朝まで呑み明かしてもよいとされている。世話係は口の堅い執事が務め、夫人たちもその日の話の内容は聞かない約束をした。
始めの頃こそ、学園での反省や厳しい妻への愚痴や家の中で肩身が狭いという愚痴であった。それもすぐに美しく優秀な妻の自慢と領地経営についての熱い討論になり、いつしかかわいい子供の自慢などの話になっていった。
社交界でも、パーティーの席で妻に付き従う夫をからかう声が始めはあったが、彼らの妻を見る愛おしそうな視線にいつの間にか淑女たちからパートナーとしては憧れの態度であるという評価を受けていた。そのうちに、からかっていた男たちでさえ自分のパートナーを気遣うように変わっていった。
妻たちはもちろんその評価の噂を知っていたが敢えてそれらは本人たちには口にしない。それでも、パーティーの後には夫をたいそう労い、彼らは尚更良い夫となっていく。
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子宝に恵まれた元美男子・現美丈夫たちの夢は、爵位を子供に譲った後、ゆっくりとした時間を美しく愛しい妻と過ごすことだという。
美丈夫たちの隣で優雅に微笑む淑女たちがその夢を叶えてあげるのかは、これからの彼らの行動次第だろう。
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「「「本当に手のかかる旦那様ですわ」」」
出産後も度々開かれている彼女たちのお茶会では、いつでも笑い声が溢れていた。
〜 fin 〜
妾婚などは架空の制度です。
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