弟1話
時は戦国時代――各地の殿様や武将が領地拡大、力を手に入れるべく、戦った。そう、戦いに戦いまくって熱き血をたぎらせた。
その一方、平民たちは不安定な世を命からがら、生き延びようと大変な時代であった。
しかし、苦難の世にも人の営みは途絶えない。先行きの見えない情勢にありながら平和を留める場所があった。
薄皮一枚、なんとか今日も変わらず活気をみせる商家たちである。
「おはようございやーす、どうだい、餅はいらんかねー」
大福がつまったざるを左脇に抱え、売子娘のペナが声を張り上げる。
通りを行き交う人に右手でざるから大福をつかんでは差し出そうと前にもっていく。
迷惑そうに素通りする人もいるが、大福と一緒に差し出される年若い娘の愛想の良い笑顔と張った声に気分よく通っていく人がほとんどだ。
ペナの朝から元気な姿を見たくてこっそり通る人がいるほどで、時たま大福もペナの手から侍や商人へ、売れていく。
「まいどありー、さぁさ、朝から元気がでる大福だよー」
「そこのお役人さん、一ついかがかねー、大福だよー」
半時ほどたち、日も頂点に昇りはじめ、町人の足並みが穏やかになった頃
「さてと、今日もこれくらいかねー、うんうん、やっぱり稲屋の大福は旨いねぇ」
朝から半分ほどになったざるかごから大福を一つつまみ出し、満足に頬張る
「こら、ペナ、また大事な商品食べてるんじゃないじゃろね」
「うわ、おかみさん。いいじゃないか、一個くらい。うーん、汗を流した後の大福はサイコーって、いててててて」
「こらぁ、それを毎日続けたら何個の損害になると思ってんだい、また食べたら追い出すからね」
おかみさんの大剣幕にペナは耳をつかまれて店の中に引っ張られた。稲屋ののれんをくぐると、中は年期の入った木でできた空間で、厨房から煙がたっている。
「わぁぁ~小豆の匂い」
朝の売り子が終わって、稲屋の店のなかに入るこの瞬間がペナはとても好きだ。
厨房に入りたい気持ちを押さえて、草履をぬいで小上がりに駆け上がる。厨房にも行きたいけど、まずは朝ごはんだ。