第一夜 奇妙な鳥の言葉
起きろ、起きろ・・・・
頭に響く、井戸に落ちるような声。
起きろ、人の子よ・・・・
誰かが、呼んでる・・・・?
「う、ん〜・・・・」
ごろんっと寝返りして薄く目を開くと、そこには視界いっぱいに広がる緑があった。
少女は地面がふかふかしていることに気づき、バッと辺りを見回した。
どこを見ても木々や草木があるだけで、探しているものは見当たらない。
・・・・行っちゃった、のかな。
もう一度眠ろうとしてごろんっと寝ころぶと、目の前に小さな黒い影があった。
少女はきょとんとしてそれを見つめた。
「あー黒いひとぉ〜?」
『・・・ほう。私の姿に驚かんとは、なかなか礼儀を知っているな人の子よ』
低いガラガラした渇き声に、耳元でばさばさと羽の音。
少女は、残念そうに眉をひそめた。
違う・・・・。
目の前を飛んでいたのは、鳥だった。
でも、おかしな鳥。
鷹みたいに鋭い爪とくちばし。鳶みたいに大きい翼。
それらが付いたフクロウみたいな鳥だった。
少女はじいっとその生き物を見つめ、くすっと笑った。
『・・・人の子よ。何故笑っている?』
「ん〜?だぁって〜楽しいもーん♪」
少女がけらけらと笑いながら言った。
奇妙な鳥は、自分よりも奇妙な少女を見つめ、やがて口を開いた。
『人の子よ、名は何と言う?』
「・・・・ナ?」
『人の呼び名だ。お主にはないのか?』
「ナ〜よびナ〜うーん・・・・ないっ」
少女の元気な返答に、鳥はふむと何か納得したようだった。
「ねえ、トリさんのナはぁ?」
『私か?私の名は夜牙だ』
「・・・・ヤガ?」
『夜の牙と書く・・・時に人の子よ』
「あい?」
夜牙がしばしの間を空け、よかろうと何やらつぶやいた。
そして少女の方を向き、吸い込むような瞳で見据えた。
『お主は・・・・森の王に会っただろう』
その途端、少女が目を見開いてガバッと飛び起きた。
脳裏にはあの綺麗な黒い眼をした影が映っていた。
夜牙はバサッとはばたき、少女の前に降り立った。
「黒いひと!」
『ふむ、どうやら会ったらしいな・・・人の子よ、お主はこの森で生きるか?』
「えっ!いていいの!?」
『私が決めることではない。人の子よ、この森を進んだ先に大きな館がある。そこへ行け』
「なんで??」
『そこに彼の方がいらっしゃる。そして名を求めるのだ。それさえ出来れば、お主は森の主に認められたこととなり、この森で生きていけよう』
「やったー!行く行く!!」
ならば、と夜牙は自分の羽根を一枚抜き取り、少女の耳にかけた。
『行け、名を持たぬ人の子よ』
「はぁーいっ」
少女はまるで遠足にでも行くかのように、嬉しそうな表情で森を突き進んだ。
もういっかい、黒いひとに会える・・・・
少女は駆け抜けながらくすりと笑った。
小枝に引っかかれても、こけそうになっても、少女はその足を止めることはなかった。
『ふむ・・・・』
ばさばさと羽をはばたかせながら、夜牙は少女のいた地面に降り立った。
『人の子よ・・・お主がもう一度彼の方にお会いすれば、その命を落とすかもしれん・・・・だが、王と出会い生きている人間はお主のみ。
運命が許せば、また会い間見えようぞ・・・・・』
一羽の鳥の囀りは、儚くも一陣の風に掻き消えてしまった。
今回も短いです・・・・。
本当にすみません(;_:)
区切り区切り物語を始めていきたいと思います。
次話はまた、あの方が出てきます。
物語の行く末を、どうぞご覧あれ・・・・。