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私は、さっきのヨゾラさんの言葉を思い出していた。
私もこの二ヶ月、ヒロさんと同じように自分の作品について沢山考えた。
でも違う。ヒロさんと違って私はもう諦めようとして、自分からも責任からも逃げていたんだろうな。
結局、私は何も変わっていないのだ。そんな自分が許せないし情けない。
もしヨゾラさんが私に対して同じような励ましをくれても、私には結局のところ届かないのだろう。
でも、ヨゾラさんといたら私も少しは前向きになれたのかな…?
駄目だ、そもそも他人の言葉で変われるかも…と少しでも思ってしまった自分が尚更情けない。
…私は変わってない、変われない…何も…。
…あれ?そういえば私ずっとヨゾラさんのことばかり書いてない…?
それに気付いた瞬間、一気に恥ずかしくなった。
だって、話したこともなく遠くから見てるだけの異性をこんなに書き綴って。
これってもしかして…いや、単純にストーカーじゃない?
恥ずかしさよりも後ろめたさが勝ってきた。
でも、それは確かに二ヶ月前の私とは明らかに変わっていたことだった。
もうここまで来たら書いてしまおう。誰に見せるわけでもないし。
変わったこと…それは、ヨゾラさんの笑い声に反応してしまうようになったこと。
その綺麗で純粋な笑顔やパフェを無邪気に頬張る姿が頭から離れないこと。
明るくて前向きで優しくて、ずっと支えてくれそうな人。
あくまで私から見た彼の姿だけど…。女性だったら誰でも憧れるような人。
まるで物語に出てくるような優しく格好良い理想の男性。
私はこの数ヶ月、気付くと彼ばかり見て、彼の声ばかり聞いていた。
彼の仕草や表情、言葉、声色にとても惹かれた。
こんな人がいつも隣にいてくれたら、恋人だったら――。
想像するだけで心臓が高鳴った。
けれど、きっとこれは恋ではない。
私は物語の外側にいる傍観者だ。
『もし自分があの人の恋人だったら』を想像して、胸をときめかせることを楽しむ傍観者。
自分でも本当に気持ち悪いと思う。元々はこんな妄想癖でもある。だから余計に自分に自信もない。人に踏み込んでこられるのが怖い。
ヨゾラさんは私の人生できっと一生関わることの無い人だ。
目の前にはいるけれど、これからも話すことはないし、いつここを訪れなくなるかも分からない。
それはもう私にとっては現実ではなく、物語上の人物のような、望んでも手に入らない存在。
だから物語に自分も入り込んで、想像する。そんな感じだ。