3
私は自分の書く作品の強みが分からない。
これは作家として大分致命的だと思う。もちろんこれ以外にも、表現力や知識不足などもあると思う。
私は自分に自信もないのだ。
卑屈で後ろ向きな性格も、くすんだ赤毛の容姿も、歩んできた人生も。誇れるものが何もない。恋愛だって…ない。
自分でも分かる。こんな人間としての魅力もない人間を、自分自身さえ好きになれない人間を、他人が愛してくれるわけがないと。そんな人間が書く物語に、誰が心を揺さぶられるのか。
家にいてもカフェにいても同じことを考えては綴る毎日。もう、やめた方がいいんだろう。冷めきった紅茶を飲んで、家に帰ろう。
そう思ってパソコンを閉じようとした時、カランカランと客が店に入ってきたことを知らせる鈴が鳴った。
「わっ…鈴か」
どうやら初めて来た人のようで、扉に付いた鈴の音に驚いていた。
私も初めてここに来た時は今時鈴なんてあるんだ、と思ったっけ。そう思うと妙に親近感が湧いて、その客の姿が気になった。
このカフェはカウンター席とテーブル席がある。
私はいつも窓際の隅のテーブル席に座る。
店内はあまり広くなく、仕切りの席もあるが見渡せばどの席からも客がどれほどいるか一目で分かる。だから余計にこの隅の席が落ち着く。
その客は一人のようだったが、迷わずテーブル席に着いた。私から見て一列挟んで斜め前の席だ。
細身の背の高い男性だった。
遠目からでも分かるサラッとした綺麗な銀の髪。
伏し目がちな瞳と整った顔立ち。
ラフだが深い青色でまとめた品の感じる服装。
一度見たら忘れられない、モデルのような人だった。こんな綺麗な人、本当にいるんだ…と思った。
あまりジロジロ見るのも失礼なので私はすぐに窓際に視線を移す。
そうだ、紅茶を飲んで帰るところだった。だが、どうしても気になってしまう。
ここに通い詰めて三ヶ月ほどになるが、モデルや芸能人らしき人が来たことは一度もないし、どちらかというと庶民派の老舗カフェだ。
その人は紅茶を飲みながらしばらくスマホをいじっていたが、画面を見ながら溜め息を吐いた。
そして残念そうな顔をしながらカフェを出て行った。来て十五分もしていない。誰かと待ち合わせだったのだろうか。
私もいい加減帰って新作の物語を書かなければ。