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短編です。
生きることや仕事について延々と考えているため内容が重いかもしれません。
ですが恋愛は甘めの物語です。どうぞお付き合いください。
私は売れない小説家だ。
だから、今はこうして新作も書かずにカフェで日記を打ち込んでいる。
ここ数ヶ月の間に毎日のように来ているこのカフェは、静かな音楽と甘い匂い、心地よい空間に満ちている。
技術が発展しデジタル社会になった、ある意味忙しない世の中。こうした場所も減りつつある。
今は人間と一緒にロボットまでもが働く時代だ。昔より便利になって生きやすい時代になったはずなのに、みんな疲れ切った顔をしている。私もその一人だ。
隅の窓際の席で静かな心地よい音色に耳を傾け、景色や道行く人やロボットたちを眺め、一杯の紅茶と少しのクッキーをつまむ。そんなひと時が私の心を癒してくれていた。
こうやって現実逃避をしているのだ。
小説家になった理由はもう忘れてしまった。
小さい頃からあんなになりたかった憧れの職業。ここまで来るのに、かなりの時間がかかってしまった。気付けば私も二十五歳。周りの友人たちはみんなとっくに結婚して幸せを掴んでいる。
一年前に念願のデビューを果たした時、私もやっと幸せを…夢を掴めたと思った。なのに今はこの有様だ。思うように書けず、悩み、将来への不安や恐怖に怯える日々。
生きるため――金を稼ぐためだけに、毎日を必死に生きている。ただ生きるために物語を書いている。
私は何のために物語を書いているのだろう。
私は誰のためにこれを続けているのだろう。
毎日のようにこの疑問がよぎる。ここでも結局同じ思考に囚われる。
何のために…締め切りのため?生活のため?見捨てないでいてくれる担当さんのため?少なからずいるファンや私の作品を楽しみにしてくれている人たちのため?――やっとデビュー出来たから続けなきゃという意地のため?
分からない。デビューする前の熱い気持ちが思い出せない。
デビューするまで、ずっと繁華街で汗水垂らして働き、隙間時間に創作活動をしていた。
私が働いていた所は忙しい割に給料も安く、早朝から晩まで奴隷のように、待遇もあまり良いとは言えないような所だった。でも当時の私はここしかないと思っていた。折角、学校卒業後に初めて入った会社。辛くてもすぐ辞めるなんて情けない。
どうせ何処へ行っても同じだ、なら慣れきった所に居続ける方がマシだと。
こうやって半ば諦めながら、小説家になったら絶対にここを辞めてやる…と怒りの気持ちを創作活動の糧にしていた。
小説家になる、この想い一つであの頃は生きていた。
正直、今はあの頃のように燃えたぎる想いは無い。
デビューしたから燃え尽きた?違う。夢よりも現実を見ることが多くなってしまった。まだ貯金はあるが、こんな生活を続けていたらすぐに尽きる。それは分かっている。
働きながら執筆を続ける。こうするのが利口だったのだろう。一年前の私は考えが甘かった。現実が見えていなかったのだ。
こうして毎日、生活のこと、執筆のこと、将来のことを考えて精神を擦り減らしながら暮らしている。
私がしたかった仕事って本当にこれだったのかな…。
今の私はこの仕事が好きだと言えるのかな…。
駄目だ、またこんな考えばかりが浮かぶ。夢を叶えても結局これだ。世の中には小説家になりたくてもなれない人が大勢いるというのに。
私も一年前まではそうだったというのに。
我ながら本当に情けない。こんな自分が嫌になる。溢れてきた涙を拭った。人目もある、ここで泣くんじゃない。